塙王 (月の影 影の海)

巧国塙王は「十二国記」において、悪役ではあるけれど、本当の悪者ではない。
人間なら誰しも持っている醜い部分の体現者。
その言葉、その末路はあまりに哀れである。



「巧の民は運がなかったのだ。
儂が死ねば、次に賢帝が立つやもしれん。
そのほうが長い目で見れば民のためかもしれんぞ」


こちらの世界では、人間は人の腹から生まれることを引き合いに出し、露骨な嫌悪感を見せる。
しかし、全ては上の台詞に集約される。
自分を愚王と知り、滅びるものと認める姿。
塙王に関しては、哀れみしか感じない。
同時に陽子は塙王のおかげで女王としての修行の場を得たことも事実である。
同じ苦労を味わいながら、陽子は高みに登りつめ、塙王は地獄に落ちた。
この書き分けが初期の「十二国記」を読む上で非常に興味深い。



「十二国記を語りたい!」に戻る

「十二国記を語る部屋」に戻る

ホームに戻る

































塙王 (風の万里 黎明の空)

「風の万里 黎明の空」で楽俊が祥瓊に教える形で塙王の死と、公主たちのその後が語られる。

「道を外れた王を諌めて、他ならぬ父親に殺された公主もいる。
つい先だって崩御した巧の公主は、太子と一緒に夫役をしておられるそうだ。
国が傾いた、それを止められなかった。
その責任を負ってさ、自分で志願なさったそうだ。
次王が登極なさるまで、荒れた国を少しでも守るために働くとさ。
・・・・・・あんたは、何をしたんだ?」


楽俊の口から語られる塙王の死とその家族。
いつも書くように、私は絹の着物に包まれ、王と王妃から甘やかされ放題に育てられたら、祥瓊のように育つのが普通だと思う。
王を諌めて殺された公主や巧の公主たちは素晴らしいのだと思う。

塙王の子供たちに関して知りたい。
少なくとも王として努力した塙王はどんな父親だったのか。
王としては失格だったが、父親としては最高だったのか。
子供たちは塙王をおそらく諌めたろうが、それに対してどんな対応をしたのか。

おそらく、王を諌める塙麟に対してと同じような態度を取ったと思うが、その物語を読みたい。
王として選ばれ、理想に燃えて努力しながらいつしか国を傾け始めたことに気づいた時の塙王の絶望。
狂い始めるその所業に向き合う子供たち。
たとえ「十二国記」の物語が進まなくても、書いて欲しい世界はまだまだ無数にある。


「十二国記を語りたい!」に戻る

「十二国記を語る部屋」に戻る

ホームに戻る

































塙麟 (月の影 影の海)

巧国の麒麟。
塙王の命令で巧国に辿り着いた陽子を使令に襲わせる。
王と麒麟の性(さが)の狭間で苦しみ、失道する。

塙王同様出番は少ないが、鮮烈な印象を残す。
あまりに哀れなその生き様において。



林の中に人がいた。
長い金色の髪と白い顔、裾の長い着物に似た服。
―ケイキ。
陽子が心の中でつぶやくのと同時に、たしかに陽子のものではない声が頭の中で聞こえた。
―タイホ。


塙麟初登場シーン。
当然ながら景麒に似た雰囲気を持つ女性だが、麒麟に関する知識のない陽子は景麒と信じ、助けてくれない相手に混乱する。


金の髪の似合う女だった。
陽子よりも十ばかり年上のようだった。
華奢な肩の上に、色鮮やかな大きなオウムがとまっている。
うれいをふくんだ表情がひどく美しく見えた。
陽子が下からのぞきこむ顔には、今にも泣きそうな表情だけがある。


「十二国記」では麒麟たちにも様々な試練が待ち受けるが、その中でも峯麟と共に取り返しのつかない所に行ってしまった悲劇の麒麟。
血を厭う慈悲の生き物でありながら使令に陽子を襲わせ、自らも陽子に手を下すことを強いられる。

美しくて儚くて、でも逃れられない惨い命令。
これまで読んだ中でも心に残る麒麟の一人。


女はかすかに唇を動かした。
ほんとうにかすかな、許してください、という言葉を陽子は聞き取った。
「・・・・・・お願い、やめて」
女は刀の切っ先を、土をかく陽子の右手に向ける。
不思議なことに女のほうが今にも倒れそうな顔色をしていた。


土にまみれ、血にまみれて哀願する陽子。
決してできないことをしようとする塙麟。
塙麟に惨い命令を下す塙王の苦悩もまた理解できるだけに、「月の影 影の海」の前半部分は読むのが本当に辛かった。

塙王や陽子の弱い部分、醜い部分が同時にまた自分の醜い部分を抉り出され、さらけ出されてるような気がした。
単なる悪役として塙王を弾劾できる人は、はたしているだろうか。
その所業は許されないものだとしても。


「汚らわしい小娘など、捨て置けばよろしいではありませんか。
小娘と言い、たいした器量ではないと言いながら、どうして殺してまでも玉座から遠ざけようとなさるのです。」


陽子が見た幻(現実)の塙王と塙麟の会話から。
麒麟が王を選ぶと言うけれど、麒麟がその性格や器量から判断して選んでいるわけではない。
麒麟もまた天により選ばされるもの。

それだけにどんな理不尽な命令にも無条件で従わなければならない塙麟の哀れが胸に切ない。
必死で塙王を諭す塙麟、しかしその想いは王には届かない。

この時陽子が見た幻は、陽子が巧に着いた頃のもの。
後に延麒六太により塙麟の失道が告げられる。



「十二国記を語りたい!」に戻る

「十二国記を語る部屋」に戻る

ホームに戻る













班渠 (月の影 影の海)

慶国景麒の使令、大型犬のような外形、種族名は猗即。
アニメやゲームでは青い毛並みの犬としてお馴染みだが、初登場時は「赤い毛並み」と描かれている。
仕える主たちに似合わず?世慣れた感じがいい。



「ハンキョ。ジュウサク」
男に呼ばれて女が現れたのと同じように、二頭の大きな獣が現れた。
一方は大型犬に、一方は狒狒に似ている。
「ハンキョ、ここは任せる。ジュウサク、この方を」
「御意」
二頭の獣は頭を下げた。


班渠初登場シーン。
「月の影 影の海」ではほとんど出番のない班渠だが、私は先に「風の海 迷宮の岸」を読んでいたので、泰麒の前であぱっと口を開けてみせ、脅かしておいてくつくつ笑う班渠に惚れ込んでしまった(笑)。

アニメでは原作に描かれない班渠の戦闘シーンが見られたが、浅野の前に血だらけで落ちてくるなど痛々しい。
使令の中では弱いというか頭脳派なのだろう。


「ハンキョ」
呼ばれて赤い毛並みの獣が物陰から現れる。
「離れて飛べ。血の臭いが移る」


最初は赤い毛並みの獣として登場した班渠だが、いつの間に青い毛並みに変化。
騶虞も「図南の翼」の表紙では黄色と黒とまんま虎だったし、どこかで変更になったのだろうか。
ここで景麒は班渠に乗っているが、班渠も学校の屋上に残って蠱雕と戦っていたのではないだろうか。
それとも班渠は見てただけ?
それにしてもねぎらうことを知らない主(景麒)だ。


「十二国記を語りたい!」に戻る

「十二国記を語る部屋」に戻る

ホームに戻る













班渠 (風の海 迷宮の岸)

戴を訪れた景麒と共に泰麒に会う。
景麒、泰麒、班渠のトリオで黄海巡りをしたり、泰麒をからかったりと意外な一面を見せる。



「ただいま」
駆けてきた泰麒は伸びた髪を縺れさせて、それでも白い顔を輝かせている。
両脇に二頭の妖を従えていた。
一方は汕子、もう一方は班渠といって、景麒が使令としている妖魔である。


数いる使令(妖魔)の中で、一番世慣れ人馴れしているというか、人間ぽい存在。
景麒や陽子を守って戦ったりもするが、どことなく文官ぽい。
この時も他にも使令はいるのに、班渠だけが泰麒のお守りにかり出された。
他の司令はみんなまじめで忠実だけど、ユーモアに欠ける?きらいがあるのでこれはいい選択(笑)。


泰麒はまじまじと班渠を見る。
気安い生き物が、このうえなく量りがたい生き物に思えた。
班渠はそんな泰麒にちらりと視線をよこして、そうしていきなり顎を開く。
「・・・・・・!」
思わず身を引いた泰麒の目の前で悠々と欠伸をして、それからくつくつと笑った。


今にも泰麒にかじりつくようなそぶりを見せつつくつくつ笑う班渠がたまらなく好き(笑)。
書下ろし長編に出て欲しい使令の筆頭!


「宮までお送りしてもいいでしょうか」
景麒は微笑った。
「もちろんです。
班渠と雀胡をお呼びしましょうか」
「はい」


景麒が帰る日に寂しがる泰麒。
見送りに行きたいと言う泰麒に景麒が班渠と雀胡を呼んでくれる。
雀胡はこの時も班渠の背中に乗っていたのだろうか。

立場上班渠たち使令が出て来る場面は限られているが、実はゲームでは戦闘時にキャラの護衛につけておけば、いつでも呼び出せるのが楽しかった。
属性が陽子が炎なので、風属性の班渠とは相性が悪く、陽子に班渠をつけるとむしろ弱くなる(笑)のだが、それでも班渠見たさに無理してつけていた。
風属性なのに、雷攻撃をしたりして、そのエフェクトがとてもかっこいい。
データの選び方によっては、同じ風属性の楽俊も登場するので、この時は班渠&楽俊のペアだった。
「ゲーム」としてのレベルは正直低い「十二国記」ゲームだが、ストーリー、キャラを自由に動かして楽しめるという意味では傑作だったと未だに思う。


景麒が手を伸ばしてくれたので、泰麒は迷わずその手を握った。
「班渠と雀胡をお呼びしましょうか?」
「いいんですか?」
見上げる、景麒は笑う。
「麒麟ばかりですから、構わないでしょう。
泰麒の使令もお見せください」
「ーはい!」


泰麒の勘違い(景麒のせい)も無事解決しての大団円。
傲濫とどんな初対面の挨拶を交わしたのかが気になって仕方がない(笑)。


「十二国記を語りたい!」に戻る

「十二国記を語る部屋」に戻る

ホームに戻る