過去のレポート 5

少佐の休日〜「第七の封印」感想 1
今回から大好きなエピソードのひとつ「第七の封印」に入るが、今回はコミック12巻最終の1話のみの感想で。
むしろ番外編と位置付けてもいいような内容で、ロレンスと伯爵のダブル攻撃に完全にギブアップ?した少佐がNATOと自分の心の平和のために一日ぐーたらするべくさぼった日の出来事。
ロレンスも伯爵も、もちろん部長も出て来ないにもかかわらず、少佐の休日がそんなにすんなりいくはずもなく(笑)。

少佐のあの性格ではフテ寝もできず(実は私も眠くないのに寝ていることは大の苦手)、「やるべき事をやってからぐーたらしよう」と起き出す少佐、この辺も似てる気がする。
でも似てるのもここまで、少佐ときたら蛇口の修理、浴室の掃除、時計のチェックに掃除機修理となんともらしいというかなんというか・・・。
こんな旦那様がいたら重宝だけど、同時にいたたまれなくもなりそうだ。
世の中に少佐ファンは多いけど、「少佐の奥様になっても立派にやり遂げます!」って言い切ることのできる人、いる?と思わず読んでくれてる貴方に質問。

使用人のごとくさっさと暇を出されそう。
あるいは大甘少佐となって、自分が全てやるからおまえは何もせずにじっとしとれとか仕切ったりして、優しかったりして。
う〜ん、想像つかない・・・。
でも後で任務とは言えマイホームパパを見事に演じていたので、できないわけでもないのかも。

最後にはいけないビデオまで発見して、不毛の時を過ごす少佐だが、そこはやはり執事さんの勝利。
「危険をはらんだ雄大で壮快なお仕事」と称して少佐を屋根に追い払ってしまう。
屋根というよりお城の屋上、とっても広い。
最初は文句を言ってた少佐も、その気持ちよさに気分爽快、お昼寝満喫、さすが執事さん!

やっと任務が入ったところで今回は終了。
少佐の素敵な?休日は終わった。
(2010年2月15日の日記)
少佐の部下帰還、そしてミーシャも〜「第七の封印」感想 2
13巻に入って、「No.13で13巻目という、めでたい巻です。(13が重なるのは、あまりよくないと、思うけど登場人物のパワーでおしきるのではないだろうか。)」との青池先生のメッセージ付き、確かに(笑)。

今回はリヒテンシュタインに思いをはせる伯爵の場面から話が始まる。
初めてこれを読んだ時、リヒテンシュタインなる国もきっと青池先生作の架空の国に違いないと思った純真な、というか無知だった子供の私。
だからといって今詳しいわけではないが、とりあえず調べてみた。

Wikipediaによると、国としての形態はまさに描かれている通りで首都はファドゥーツ、フランツ・ヨーゼフ2世も実在の人物だが、漫画でのおっとりぶりとは対照的にナチスの躍進時代、君主大権によって総選挙を無期延期とし、ナチスの勢力拡大を防いだ硬骨の人だったらしい。
しかも「宮崎駿監督の「ルパン三世 カリオストロの城」の舞台・カリオストロ公国のモデルとなったことでも知られている」とある。
「要出典」とされているが、そういえば私もどっかで読んだ記憶がある。
「ルパン三世 カリオストロの城」は1979年(昭和54年、そんなに昔の作品なのか・・・)、「第七の封印」は1984年(昭和59年)、いくらか影響あったのかな?

伯爵メインのどたばたが続いて、少佐の出番は当分ないかと思っていたら、突然の場面転換、優雅な?休日を終えて任務に復帰した少佐が登場。
ミーシャが目をかけ、少佐があれほど苦戦した明がらすもNATOの追及には白状したか、ちょっと意外。
基本的に表面(つまり漫画の中)ではかっこよい部分しか描かれないけど、実際には怖い、汚い、あざとい仕事も多いんだろうなあなどと、子供の私は生意気にもため息などついたのであった(ことを覚えている)。

実際この直後、少佐ファンや伯爵が「少佐らしからぬ」と驚く少佐の謀略の一部が描かれる。
それにしてもこの頃のKGBは裕福だったんだなあ。
後の予算きりつめに四苦八苦するミーシャを知ってると、少佐でなくても泣けてくる(笑)。
新たな任務とともに部下も(丸々太って)帰還、ついでにミーシャも帰還、やっぱりこうでなくっちゃ。
(2010年3月16日の日記)
少佐のダーティーワーク〜「第七の封印」感想 3
肉体労働派のエージェント、鉄のクラウスではあるけれど、今回はその少佐が意外な一面を見せる。
美人を囮に使い、ある人物を懐柔して今度は脅迫、スキャンダルの証拠写真と引き換えに重要な証拠を得る。
陰湿なスパイ活動だが、その美人が伯爵で、KGB、NATOと絡んで三つ巴状態のドタバタ喜劇。
気の毒なのは被害者ホルン・ガイスマンだが、少佐は「つけこまれるような弱味を作るからだ」とばっさり、確かに正論。

けれど「作戦自体が不本意」だったかもしれないと推察するミーシャ、案外当たっているかも。
最大のライバルこそ最大の理解者。
その意味ではミーシャが伯爵の上を行くか・・・。

情報を得た少佐、引き留めにかかるミーシャ、そして少佐に騙された伯爵が今度はスイスはチューリッヒに集結する。
ここで楽しいのが少佐とミーシャの正面きっての顔合わせ。
だらけた格好をしていた少佐がきちんとネクタイを締め直し、コートを羽織って雨の中登場する。
「炎天下で別れた男と雨のチューリッヒで再開するとはメロドラマだぜ」が少佐の決め台詞。

確かに迫力あるおじさん対決もいいけれど、ここで妖艶ではなく、きつすぎもせず、男性顔でもないかっこいい女性スパイとも対決させてみたいなあとふと思った。
女嫌いのシャーロック・ホームズもアイリーン・アドラーだけはかつて認めた。
女性として、少佐にもそんな女性が1人くらいは欲しい(尼さん以外で)。
もちろん物語の中で少佐と関わった女性スパイもいるし、その中で少佐が認めたスパイもいる。

けれど「魔弾の射手」のスナイパー(女性にして)や、「エル・アルコン-鷹-」のギルダ・ラヴァンヌのようなキャラと対決させてみたい。
絵が激変した今、見た目からしてかっこいい女性というのはある意味難しいかもしれないが、この時期(コミック13巻)の頃の絵は本当に素敵だった。
女装した伯爵ですら美しかったのだから、この時期に登場させて欲しかったな、本格派の女性スパイ。

最後はいつもの取っ組み合いになりそうなムードになったが、さすがにそれは控えてミーシャの捨て台詞が「そのうちわしが赤の広場へ案内してやるぞ」。
数年後、あんな形で少佐が赤の広場に登場しようとは、ミーシャも夢にも思わなかったことだろう。

さて、別件で伯爵が少佐にした頼み事があったのだが、すっかり忘れていたその問題が舞台をオランダはアムステルダムに移して新たな展開を見せる。
この辺の持って行き方がまたおもしろい。
結局NATOもKGBも伯爵も少佐もミーシャも一派ひとからげになって(団子状態で)ヨーロッパ中を大移動の本エピソード。
移動するみんなも(部下たちも含めて)大変だろうが、来られる方もたまったものではないだろう(笑)。
(2010年4月20日の日記)
少佐と「にっぽん」
今回は少佐が載ってる少佐の母君=青池先生も載ってる「にっぽん」誌から。
にっぽん」は平凡社発行の現代日本の社会、文化を広く世界に紹介する季刊雑誌でその名に恥じず、英語、フランス語など日本語版以外に6カ国語版が出ている。
残念ながら普通の書店には置いていないので、書店で取り寄せるか、直接平凡社に注文することになる。
ただし直接注文となると、300円の雑誌なのに送料がかかるので、書店に頼むのがお勧め。

で、「にっぽん no.4」の特集が「マンガ大国☆ニッポン」で、「マンガが生まれる現場」のコーナーで青池保子先生が紹介されているというわけ。
カラー4ページで写真たっぷり読み応えありで、ファンならはずせない一品、ファンなら絶対買うべし!

1、2ページめは青池先生の紹介と仕事場で「エロイカより愛を込めて」の36巻170ページなどを描いているところ。
下書き→ペン入れ→修正→ベタぬり→スクリーントーン→完成までの過程が写真で紹介されている。
台詞がまだ鉛筆書きでちゃんと読めないのが残念だが、他にも仕事場の風景や愛用のペンや少佐のイラスト入りカップもチェック。
「ミラノ ヴェネツィアと湖水地方」の「地球の歩き方」や旅行時の写真、ティッシュ(クリネックス)やメガネ入れもチェック、もちろんエプロンも。
机の上はともかく仕事場自体がきちんと整頓され、広々としているのちょっと意外だった。
「漫画家の仕事場」って資料や本が山積みになってて雑然としたイメージがあったから(笑)。

2,3ページめはやはり36巻50ページで懐かしの棺桶刑事ことフランコ・ジュリアーニが登場、少佐と伯爵が危うく鉢合わせしそうになる場面。
「知っておきたいマンガの読み方」として「コマの読み方」「スクリーントーン」「ホワイト」「顔の表情」「効果線」「吹き出あい」「擬声語・擬態語」のテーマに沿って見方読み方を教えてくれる。
つまりこの少佐と伯爵がジュリアーニに見つからないように逃げ出し、その後別れるまでのたった2ページの中に上記の全てが入っているわけで、読み慣れたページもひどく新鮮に感じた。

特に私はキャラの顔や台詞、ストーリーはこだわるが(当然か)、実は背景や細かい部分などは、多分じっくり見る方ではないと思う。
それだけに、細かい部分にこだわる青池先生やアシスタントの皆さんに(現在4人とか)ごめんなさいと謝りたい気持ちになった(笑)。

先日テレビで日本のマンガの特徴として「擬態語」があげられると誰かが語っているのをちらっと見た。
そのため翻訳するのに苦労するのだそうだ。
それだけ日本語の表現が豊かだということなんだろうなあと思いながら見ていたが、これからいろんな作品を読む上での参考になりそうだ。

他にも養老孟司氏「日本人とマンガ」とか「数字で見る日本人とマンガの熱い関係(データ集)」とか竹宮恵子、井上雅彦といった有名漫画家さんのインタビューとか28ページの薄い雑誌ながらみっちり楽しむことができた。
唯一の不満はドイツ語版が出てないことかな?
出てたらそれも買いたかったのに(笑)。
(2010年5月18日の日記)
Zより愛をこめて?〜「第七の封印」感想 4
コミック13巻の155ページ以降は少佐にも危機が訪れるが、もっと楽しいのがミーシャの追跡を命じられ、おろおろするZの様子。
ブラックボックスに絡んだストーリーもどっかに飛んでくほどおもしろい。

確かにミーシャと五分で対決できるのは少佐くらいかもしれないが、以前少佐に追われてごろごろうろうろしていた下っ端スパイとは比較にならない行動力と観察力を見せるZ。
でもその能力を認めるよりも、健気だなあとじ〜んとさせてしまうのがZのいいところ。

空港の綺麗な案内所のお姉さんに

「年齢30歳前後 長身 筋肉質 長めの黒髪」
「一目で分かる強面のハンサム」なシュミットさんに前首相まで追い払われる(笑)。

大体シュミットなんて変名も少佐の敬愛の表れか。
次の列車の駅では、やはり綺麗な案内所のお姉さんにすがるように頼んで

「愛するMargarete
 ぼくはモーラへ先に行きます Zamenhof(?)」

このZを暗示させる名前がわからない。
こう書いているように見えるが、違うかもしれない。
ドイツ人の名前を紹介しているサイトさんをいくつか調べてみたが、Zで始まる名前はほとんどなく、上記に似たような名前もみつけることができなかった、残念。
ちなみに相手の頭文字M(Major=少佐)であることが明かされている。

案内所の女性たちが、ちょうどZの姉のような年ごろに描かれているのがおかしい。

もうひとつ、少佐がミーシャを乗せた車の運転手と会話する場面で出てくる名前、「マルティン・ベック」と「グンヴァルド・ラーソン」についても調べてみた。
Wilipediaによると、マルティン・ベックはマイ・シューヴァルとペール・ヴァールーの夫婦合作の警察小説で、有名な「笑う警官」はタイトルだけ聞いたことがある。
42歳の設定でストックホルム警視庁の殺人課主任警視、グンヴァルド・ラーソンも同シリーズに登場するストックホルム警視庁の殺人課警視だそうだ。
今度読んでみようかな。

Zをはさんでミーシャと少佐の追跡劇になぜか伯爵と部下Gも加わって、さらに少佐の美人妻?だった眉毛が素敵な部下Hまでさりげなく目立って話は盛り上がっていく。
でも私が一番好きなのは、小心者でおしゃべりな、後に宇宙人と化す(笑)アメリカ人の技術者。
まるで自分を見ているようだ。

さて、Zの奮闘もむなしく、ミーシャの罠にかかってしまった少佐。
160Kって何度くらいだろう。
ケルビン度って言うらしいけど、単位がよくわからなかった。
で、そんな少佐を助けてくれたのが伯爵と部下G、少佐の悪夢はまだまだ続く・・・。
(2010年6月12日の日記)
7月11日 見どころたっぷり14巻!〜「第七の封印」感想 5
「第七の封印」の中でも14巻は特におもしろいしおいしい場面のてんこ盛り。
なにしろ表紙からしていい。

愛用のベンツをピッカピカに洗い上げた後なんだろうなあ、ホースの水を自ら浴びてる少佐の図。
「魔弾の射手」と並んでお気に入り表紙の双璧。

無事にミーシャと伯爵と部下Gの魔手から逃れた少佐は一路アテネに飛ぶ。
少佐の逃亡に一役買った伯爵は哀れミーシャにつかまるが、もちろんそれで終わるはずもなし。
絶対再会するんだろうなあ、絶対少佐の邪魔をしつつ任務遂行の手助けをするんだろうなあとわくわくしながら読み進む。
パリ上空で伯爵たちを放り出そうかと言い出す部下に、「やめておけ きざな死に場所を与えてはならん」のミーシャの台詞もいい。

早速アテネで活動を開始した少佐だが、この「第七の封印」にはレギュラー陣以外に魅力的なキャラが2人登場する。
1人はミーシャに捕まってたアメリカ人技師。
この巻でも「にこにこコーヒー事件」など起こして笑わせてくれるが、もう1人が今回の主役じゃないけど主役に押し上げたい妖艶美女ドーラ。

失礼ながら「エロイカー」に出てくる女性に魅力的なキャラは少ないが、コードネーム「ヘラクレス(またの名を地中海ダヌキ)」の愛人で少佐に興味を示し、少佐を口説きにやって来る彼女はいい。
(もう1人、後に出てくる女スパイに似た女性も登場するが、私的にこちらにはさほど興味なし)

あえてその手に乗ってみせる少佐の台詞がすごい。
恥ずかしくてとてもここには書けない意味深な台詞が続く。
少佐ファンじゃなくてもこれで落ちない女性はいないのでは?と初読時本気で思ったものだった(笑)。

こんな台詞を少佐に言わせてくれたドーラに乾杯。
さらに騙されたことがわかってからも負けずに少佐に喰らいつくあのプライド。
少佐からこれでもかとばかりに男の魅力を引き出すあの気性。
結局任務一筋の少佐には歯が立たなかったけれど、こんなスパイを少佐の敵にして競い合わせてほしかった。

他にも頭のてっぺんのアップが癖になりつつあるミーシャや、ミーシャにまで気に入られるボーナム君や、部下Zのちらり目線や必死の変装など14巻はほんとおもしろい。
次回は舞台をトルコに移しての大騒ぎ。
青池先生はそんな彼らをうらやましいと書いてるけれど、ここまでハードだとうらやましいと思う気持ちも薄れてしまう、がんばれ少佐!

★今回のお気に入り

・「ー私は技師さえいただければおとなしく引き揚げていたんだ
 その後は本当に少佐と君には係わりを持つまいと思っていたんだ」
 珍しくシリアスに本音を吐く伯爵。
 この時(だけ)は本当にそう思っていたらしい。

・「男を誘惑しに来る女がそんな色気のないものを着用するか!」
 「女性用衣料(ストッキング)に関する一般的情報」を披露する少佐。
 知らなかった、そうなのか・・・。

・「減俸処分のあとはアラスカしか残っていないんです・・・・・・
 ぼ ぼくは必死です」by部下Z
 自業自得というものです(笑)。

・そして極めつけが少佐の「来い」
 この時期この絵柄で描かれたことが最高の幸せ・・・。
(2010年7月11日の日記)
少佐任務遂行〜「第七の封印」感想 6
ブラックボックスを追ってトルコはイスタンブールに飛んだ少佐と伯爵、部下たち仲間たち。
中でも気になるのがジェイムズ君に馴染んで急速に宇宙人化してるアメリカ人のコンピューター技師。
初めて「エロイカより愛をこめて」に私と酷似したキャラが出てきたよってなんとなく嬉しくなったり(笑)。
もう一人NATOにもKGBにも評価が高いボーナム君の頑張りぶりもとっても気になる。

でもここでの主役はやっぱり少佐、じゃなくて伯爵。
首尾よくブラックボックスを盗み出したことから、こんどはイスタンブールで大騒ぎの追いかけっこが始まる。
モスクの上から二人がかりで蹴り落とされる伯爵とか、ちゃっかりジェイムズ君のお手伝いで大風呂敷を広げているコンピューター技師とか、警官の目をくらますため、「イスタンブールのPLAY MAP」に夢中なふりをする少 佐と伯爵とか、見どころは多いけど、笑って読んでいられるのもここまで。

ミーシャたちを追って遺跡にたどり着いた少佐。
芸術音痴の癖に、この遺跡をローマ時代の給水設備のあとだとさりげない薀蓄披露。
スパイとして知っておくべき知識なのだろうか(笑)。
ミーシャとの派手な銃撃戦を繰り広げるが、遂にヘラクレスの手りゅう弾で負傷をおってしまう。

後でわかったのだが、10か所以上骨折していたそうだ、身震いするほど痛そうだ。
にもかかわらず、少佐は任務をやり遂げようとする。
「エロイカ」史上最大の少佐ストイックな見せ場に、さすがの伯爵も「もう君の邪魔はしない」と告げる。
っていうか、いつも邪魔することの方が間違ってると、少佐贔屓の私としては突っ込みたい。

任務遂行。
少佐はブラックボックスと共にミーシャをも破壊した(と信じる)。
「おれは任務を遂行した・・・・・・!」
虚脱した表情の少佐が印象的。

けれどミーシャは生きていた、当然ブラックすボックスも。
互いに殺しあいながら互いに失敗した少佐とミーシャ。
少佐の失敗を喜ぶミーシャだが、実は少佐の生存に安堵を覚えているように見えないこともない。

少佐の負けかと思いきや最大のどんでん返しが待っていた。
「コンピューターの狂いを治すブラックボックスそのものが6か月使えば狂ってしまう」設計だった、称して「第7の封印」。

ミーシャに持たせても意味ないものを持たせ、少佐が追っても意味ないものを追わせたのはCIA。

「ーああ わざわいだ わざわいだ
        地に住む人々は わざわいだ」

少佐がつぶやいたのはヨハネ目次録第8章「第7の封印」の箇所だった。
最後に勲章をもらっているミーシャの写真のプレゼントというオチがついて「第七の封印」は終了。
でもこの後、少佐をさらなる恐怖と苦痛が襲うことは誰も知らない・・・。
(2010年8月23日の日記)
ロレンスくんのお便り気分
たった2ページの「ロレンスくんのお便り気分」、表紙裏の「作者の言葉」でも無視されている可哀そうなエピソード、なんていうほどのものでもない(笑)。
でもある意味チャールズ・ロレンスの全てが詰まっている最強の2ページでもある。
今キャラクターガイドブックを見てみたら、以前の公式サイトでの人気投票で17位だった。
そんなもんだっけ?
私の記憶ではもうちょい上だった気もするけれど。

ロレンスやボーナム君や部下Aやジェイムズ君や執事さんは大好きだけれど、一番好きな人に投票するとなると、どうしても少佐とZに行っちゃって、ロレンス部屋はほんの時たまのぞくだけだったけど、不思議な風が吹いてたなあ、今思えば。
そんなロレンスが「第七の封印」で大怪我をし、入院した少佐にお見舞いの手紙を書くってただそれだけの話なのに、これがおもしろい。
っていうよりめちゃくちゃおかしい。

ロレンスって基本かっこいい人なんだと思う、モデル?は007だし。
この頃は今ほど人外化してなくて、絶妙なはずし加減にいつもおなかが痛くなるほど笑ったっけ。
ただこれ読むたびに思うのだけど、「黒いレターパッドに黒い文字」って間違ってない?読めないじゃないって。
金色とか銀色とか他に色があるだろって当時話題にならなかったのかな?
それともロレンスのおとぼけぶりをアピールするためにわざとだったのかな?

なんだかんだで迷った挙句、手紙自体を入れずに空っぽの封筒を送ってしまったチャールズ・ロレンス、らしいと言えばらしいオチ。
受け取った少佐はもちろん怒ってるんだけど、いつものような「激怒」って感じではない。
ロレンスなら当然って意識があるのかも。
少佐にとっていい暇つぶしになったかも(笑)。
(2010年9月10日の日記)
少佐のXデー〜「Intermission」感想
「Intermission=休止、中断」。
鉄のクラウスとしてのハードな任務が全身10か所以上の骨折他の重傷により入院、中断を余儀なくされる。
といっても「第七の封印」でのシリアスな展開は終わり、話はすでに少佐の退院日予想に。
もう少しまじめに心配する部長や部下たち、伯爵たちの顔を見たかったが、間に「ロレンスくんのお便り気分」が入っちゃったからなあ・・・。

不謹慎にも情報部をあげて少佐退院日=Xデー予想のギャンブルが始まっていた。
そこに伯爵やロレンスも加わって収拾のつかない騒ぎに。
唯一まじめに仕事をする部下Zは予想の範囲として、ミスター・Lが意外と常識人なのには驚いた(このメンツの中では、の話だけど)。

一方順調に回復している少佐は暇を持て余しているらしい。
執事さんが持ってきたゲーテ、カロッサにヘッセを学生時代に読破してたとはこれにも驚いた。
好きで読んでたというより知識常識取得の範疇だったのかな?
ちなみにゲーテは「若きウェルテルの悩み」、ヘッセは「車輪の下」でなんとなく知っていたが、カロッサの名前を知ったのはこの時が初めて。
「ルーマニア日記」などの著作がある作家だっだ。

それにしても両隣と真上の病室の患者を追い出してしまった少佐、単なる問題児じゃないか・・・。
他にも天井のしみを気にしたり、家の修理を命じたりして執事さんを困らせる。
見かねたボーナム君が手伝いに行って執事さんは幸せ、私も幸せ(笑)。
なごむんだよなあ、このコンビ。

ギャンブルに気づいた少佐も部長を脅かして一枚加わるが、天井のしみが広がって(なんて病院だ!)ソビエト連邦の形になったのに我慢できず、掃除を始める。
そこになだれ込んできた伯爵その他の騒動で、再び怪我した少佐は入院延長。
少佐のお父さんのような頑固一徹な主治医の指示とはいえ、意外とおとなしい少佐も意外だった。
これまでの少佐だったら本気で怒りそうだけど、回を重ねて少佐も丸くなったかな?性格的に。

この後ギャンブル再開されたかどうかがとっても気になるけど、さすがにそれはないだろう。
次回は温泉少佐とホラーな伯爵が楽しめる番外編が待ち受ける。
(2010年10月9日の日記)
少佐不在のゴシックホラー〜「ケルンの水 ラインの誘惑」感想
少佐が不在で伯爵が主人公のゴシックホラーな番外編、でも好き。
最初に読んだ時は、城やイレーネ達登場人物そのものがケルンが伯爵に見せた夢か幻かと思ったくらい。
いえそれでも良かったと思ったくらい。

温泉で退屈して、自分の方から伯爵にちょっかい出しにくる少佐も良かったし、少佐と共に「歩く二大現実」のボーナム君も良かったけれど、狂気に囚われたふりをする美少女イレーネがいい、そして伯爵の心を捉え、同時に伯爵に魅入られる石像がいい。
凡庸な美青年ステファンも、意外にしっかり伯爵の隙を突く活躍ぶりで、これほど伯爵をピンチに陥れる素人は珍しいのではないか(ストーリー上の都合とはいえ)。

でもやはり一番魅力的なのは、ケルンの山奥にある古城のその幻想的な雰囲気。
石像が伯爵に魅入られてもおかしくない、伯爵を救うべく弓を放ってもおかしくない、そんな物語が成立する雰囲気。

さて、リハビリのために温泉に湯治に来ていた少佐を伯爵が見舞いに来るところから話は始まる。
(オー・デ・コロンとはケルンの水という意味だと知ったのはこの時)。
伯爵を追い払うために、少佐が仕入れた謎の石像の噂のある城の話をし、まんまと追い払いに成功。
でも結局伯爵の様子を見に来たりと、仲がいいんじゃないってくすりと笑わせるのも楽しい。

早速石像を買う名目で城に乗り込んだ伯爵は、城の娘イレーネや、いわくありげな管理人ステファンに会う。
このステファンも美青年に描かれているが、伯爵全く興味なし、凡人すぎるか(笑)。
石像に魅入られた者を夜な夜な訪れ、果ては狂い死にさせるという伝説を持つ石像は確かに美しく、不思議な魅力に満ちている。
イレーネの父もその魅力に魅入られた一人、そして伯爵も。

やがてイレーネの正体を知り、協力を約束する伯爵だが、ステファンの前に大ピンチ、それを救ったのが石像だった。
落雷による偶然か、それとも石像の「意志」か。
壊れてもなお石像の「想い」は伯爵を追いかけ、るのか?
それともそれは伯爵の耽美な妄想のなせる技か。

私としては後者だったらいいなあと思ってたのだけれど、見事期待にこたえてくれて、伯爵の恐怖は本編に戻ってもまだまだ続くことになる。
ごめんね?伯爵(笑)。
大好きな少佐と、心の安定剤ボーナム君と食事に行けても、その心は晴れないようで・・・。

★今回のお気に入り。
・「よーっ耽美しとるか、伯爵!」とリハビリなのにきちんとネクタイ締めてやってきたお肌つるつるな「現実のかたまり」。
・「見張られとるぞ」の少佐の表情、さすが!
・「君は男に生まれるべきだったね」の伯爵の言葉に「―皮肉?」と返す「誇り高く雄々しく強靭な精神で身構えた戦士」のようなイレーネ。
伯爵としては女性に対する最大級の賛辞だった。
・おびえる伯爵に「石像が来たら飲まして踊らせろ」の少佐。
・最終ページ、「誘惑したのはあなた 魅入られたのは―」そして石像はついてくる・・・。

この最後の一文は、よくテレビ怪奇番組で心霊写真などを紹介する時に出てくるおどろおどろしい文体。
なんか懐かしいと思ったけど、そういえば最近そういう番組やらないなあ。
結構好きなのになんでだろ・・・。
(2010年11月4日の日記)
少佐の職場復帰 〜「皇帝円舞曲」感想 1
無事退院した少佐、本人はご機嫌、やつれ果てた執事さんや奉公人たちは万々歳、そして少佐を迎える部長や部下たちは戦々恐々。
入院時の賭け騒ぎで激怒しているであろう少佐をなだめるには任務を与えるのが一番、ということで少佐は早速ウィーンで開かれる会議に出席を命じられる。
「鉄のクラウスにしては退屈な仕事(少佐談)」だが、目的は少佐の復帰宣言と元気な姿のお披露目らしい(笑)。

ところが物語がそれですんなり終わるはずもなく、少佐は失踪したエージェントや謎の女スパイ!、そして伯爵も絡んだ大きな事件、というより大騒ぎに巻き込まれることになる。
今回はコミック67ページ(会議を終えた少佐が大使館でまだ平和、そしてある場所で「皇帝円舞曲」を合図に謎の女性スパイ「マリア・テレジア」が始動するところ)までの感想なので、彼女が誰であるかはわからない状態。
でも「皇帝円舞曲」に「のんびりウインナ・ワルツなんぞきいとれるか!」の少佐がかっこいい。
興味はないし芸術音痴、でも「皇帝円舞曲」のなんたるかはちゃんと知ってるのね、なんちゃって。

と言ってもこの時点でひたすら怪しい中年女性(伯爵曰く古きウィーン貴族のお姫様がそのまま老けたような)が登場する。
後で少佐と伯爵が話したところによると、彼女の夫は「シュトルツ商会」のオーナー古美術商のカール・シュトルツで、実は「メッテルニヒ」がコードネームのCIAの現地要員、少佐の世界では有名な人物だという。

メッテルニヒはオーストリアの政治家で、「女帝」マリア・テレジアはフランス革命で有名なマリー・アントワネットの母親。
まあこの時点でマリア・テレジアはこのメッテルニヒの奥方だろうな、年齢的に考えても、と思わせて次に大どんでん返しというか、開けてびっくり玉手箱(古っ!)みたいな展開が待っているのだが。
何故伯爵が彼女のことを知っているかというと、伯爵に恋した例の(笑)石像がシュトルツ商会で売られたものであったために、その来歴を調べに店を訪れ、彼女に会ったから。

しかも直前に少佐の突然入った別任務のターゲット、ジム・カーティスからまさにその目的の情報を受け取るというおまけ付き。
でも彼女のいかにも貴族出らしい鷹揚さに苛立つ伯爵は、カーティスのことを少佐に告げず(もちろん正体なんて知らないし)、少佐のスパイリストにもマリア・テレジアの名はまだ存在しない。
ごり押しディックと呼ばれるCIAのエージェントや、SISのロレンスが変装したようなエージェントも登場するが、物語はまだ荘重なる調べに入る前の前奏曲。

今回はまだ石像の亡霊?を怖がってる伯爵を茶化すジェイムズ君や、あきれつつも脅してしまう少佐の反応がおもしろかった。
「ぜいたくをいわんでとっととはけ!」「・・・・・・はい」(笑)。
この後気の毒なことになる西独大使館の気のいい面々や、ダンディなのに少佐にとことんコケにされる白クマも相まってあまりにおいし過ぎる展開が待っているのだが、今日はここまで。
この感想ページを開くと「皇帝円舞曲」が流れてくれたらいいのにな(笑)。
(2010年11月4日の日記)
公式サイトと歩き方
青池保子先生の公式サイト「LANDHAUS」が12月16日リニューアルオープンしました。
これまでの重厚さ一転、軽いノリの現代風なイメージです。
気のせいかもしれないけど、青池先生も日記が書きやすくなったのでは?
25日までの間に挨拶やクリスマスメッセージなど、3回も日記の更新がありました!

「最新刊だ チェックしろ」by少佐。
もちろん買いましたとも。
「私はこちらもおススメするぞ(フッ)」byロレンス。
もちろん買ってますとも。
「こちらも目を通してくださいね」by部下A&B。
もちろん目を通しましたとも。

そして「エロイカの歩き方」です、これは凄い!
一読目はガイドブックとしてよりも、「思い出の名場面集」みたいな感じで読んでしまいました、見てしまいました。
特にシーザー達3人組は遠い記憶の彼方に霞んでいたのでウェストミンスター寺院の大天使ガブリエル像が懐かしい〜。
そして今ではすっかり部下たちの間に埋もれてしまってますが、かつてはシリアス編で主役はってた部下Zの「 そうだー バラを・・・・・・撃ったんだー!」の名台詞がケンブリッジに蘇ります。
やっぱり少佐が登場してから10巻あたり、子供の頃一気に読んだ初期のエピソードの印象が強いです。

そして激動する世界情勢にひるむことなく挑み続ける青池先生の姿勢にも本当に頭が下がります。
いつになっても元気に世界を駆け回る少佐や仔熊のミーシャにも。

そういえば恩田陸著「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」で、ソールズベリ平原で「TANK CROSSING」の看板を見て、「エロイカに出てくる少佐がNATOのイギリス駐屯部隊に異動して洗車の開発と訓練 するのがここ」と盛り上がっていたのを読んで嬉しくなったなあ。
二読目にはガイドブックとして、観光名所や インフォーメーションと照らし合わせながら読んでみたいです。
(2010年12月31日の日記)
少佐が恋に落ちた時? 〜「皇帝円舞曲」感想 2
コードネーム「マリア・テレジア」に先んじて登場したのは、コードネーム「マリー・アントワネット」。
でもコードネームを「レディ・ダイアナ」とか「プリンセス・ダイアナ」にした方がいいんじゃないかと思えるほど、その容姿も性格も?来歴も、悲劇の王妃ダイアナに酷似。
ただひとつ違うのは、その正体がオーストリアの放ったスパイだったこと。
私は前にも書いたように、10巻くらいまでまとめ借りして一気に読んで、その後26巻発売時まで「エロイカより愛をこめて」とは縁がなかったので知らないのだが、連載当時はいわゆる「ダイアナ・フィーバー」で大変な時期だったんだろうと思った。

公式キャラクターガイドブックで調べてみると、「皇帝円舞曲」が連載されたのは1987年(昭和62年)から1988年(昭和63年)にかけて。
ダイアナが結婚したのは1981年(昭和56年)なので、ダイアナ関連のニュースが連日マスコミを賑わせていた頃の連載だったのだろう。
でも今読むと、その後の悲劇が思い返されて、複雑な気持ちにもなる。

そんなダイアナと同一人物とすら言えそうな女性が少佐に接近、その名はクリスタ・ギンテル。
「少佐に色仕掛けは逆効果」を知り尽くしている白クマの助言に従ったのか、とびきりのグラマー美人とは対極に位置する清楚なレディ。
でも仕掛け方があまりにベタで、最初からスパイであることが少佐にバレバレ、読者にもバレバレ。
このクリスタこそ「マリア・テレジア」と見せかけての大団円が待っているとは知る由もなく読んでいた私だった(笑)。

さらに少佐はクリスタを逆利用すべく、クリスタと「恋に落ちて魅せる」。
これがまあ普段の唐変木とは雲泥の差のジェントルマンっぷりで、クリスタドキドキ、読者もドキドキ。
ところがクリスタの正体を知らないごり押しディックのCIAが、クリスタを脅しにかかり、二重三重のスパイ合戦が繰り広げられる。
そこに、未だにホラーしている伯爵や、奥さんを少佐に取られるのではないかと心配している部下A君も加わり、もちろん相変わらず宇宙人なジェイムズ君も加わり、今にも胃潰瘍になりそうな大使も加わり、騒ぎは無駄に大きくなっていく(笑)。

少佐をうまく操ったつもりで、実は少佐に恋してしまったクリスタ。
でも少佐の芝居とはいえ、こんな素敵な一面を引っ張り出してくれた功績は大きかった。
少佐の指示を受けた伯爵の活躍?で、マリー・アントワネットは退場、今度こそ本命マリア・テレジアが少佐の前に立ちふさがる。

★今回のお気に入り
・「今どきの娘が男の面(つら)を見ただけで頬を染めるか」(少佐だったら私でも染めます♪)
・嫉妬に狂って少佐のデートの現場に駆けつけるも、ホラーな騒ぎに付きまとわれて、涙目の伯爵(笑)。
・クリスタに対し、「ここまで熱演されると、おれもつい箱入り娘をたぶらかすいけないおじさんの気分に」なった少佐の名演技!
・「ーあの若さじゃこんな古い歌は知らんだろうが、おれよりは彼女が歌うほうがさまになる曲だな」と映画「会議は踊る」の「ただ一度だけ」を口ずさむ少佐。
(2011年1月30日の日記)
5月14日 少佐vs「マリア・テレジア」〜「皇帝円舞曲」感想 3
少佐に破れ、失恋まで味わった傷心のマリー・アントワネットは去り、「32年間眠り続けた」したたかな女スパイが少佐の前に立ちふさがる。
期待は大きかったが、マリア・テレジアことエリザベート・シュトルツは思ったほどの凄腕ぶりを発揮せずに終わったように思う。
偽の情報をつかませた結果を見るために、わざわざベートーヴェンの史跡を訪れたり、泥棒に入られても盗聴器の存在を疑わなかったりと、いかにも間が抜けている。
誰も彼女を疑わないうちは良かったが、ひとたび目をつけられれば、その行動はいかにも怪しい。
32年の眠りが長すぎたのか、挑む相手(少佐)が悪かったのか。

ただし、マリア・テレジアの「工作」のおかげで、少佐(NATO)ばかりか白クマ(KGB)、ごり押しディック(CIA)までが乱入して、挙句の果てには少佐がチロリアンダンスを踊る羽目に。
こちらとしては役得役得もひとつ役得で嬉しい限りだけれど(笑)。
任務のためにはケーキを作るしダンスも踊る少佐はやっぱり素敵です。
しかもやり始めると、完璧にこなすところがさらに凄い。

そしてシビアなスパイの物語に、未だに石像恐怖症から逃れられない伯爵のリハビリ計画が絡んできて、いつの間にやらてんやわんやの大騒ぎ。
この頃は、まだ事件自体はシンプルで、少佐たち登場キャラの行動で読ませる部分があって楽しい。
最近は国際情勢が反映されてか、筋が難解になってきて、まずはストーリーや社会背景、事件の概要を理解するためにじっくりと読み込み、それからキャラに目が向くといった読み方に自然になってしまうので読み方としてはむしろ小説に近い。
どちらもおもしろいのだけれど、やはりこのはちゃめちゃ感は、中期エロイカ独特のスピード感のなせる業だろう。

パワフルな男たちに囲まれて可哀そうなのが、マリア・テレジアを(それと知らずに)妻にしてしまったCIAのメッテルニヒことシュトルツと、伯爵に情報を渡したばかりに今回の騒動を巻き起こすジム・カーティス。
蒸発スパイの隠れ里で羊飼いをしているカーティスは、精神的にかなり参っている様子。
可愛くメエメエ鳴く羊たちに「うるさい!」と一喝、しょげてしまった羊が可愛い。
これがほんとの「羊たちの沈黙」だな(笑)。

ちなみにメッテルニヒとはWikipediaによると「オーストリアの政治家として活躍し、外相としてウィーン会議を主宰したほか、のちオーストリア宰相に就任し、ナポレオン戦争後の国際秩序であるウィーン体制を支えた。」とある。
「マリア・テレジアの宰相ヴェンツェル・アントン・カウニッツ公爵の孫娘のエレオノーレ・カウニッツと結婚した。」ともある。
結局(当然)マリア・テレジアの上には立てなかった人物ではあるが、かなりの大物で、数多くの女性と浮名を流したようだ。
エロイカ版メッテルニヒはあまりに小物で完全に名前負けしている気がする今日この頃。

もう一人、見た目はかっこいいのに、妙に気弱で間が悪くて、少佐やごり押しディックにごりごりやられているCIAのジョーなるスパイが笑えるという意味で印象強かった。
少佐のチロリアンダンスを堪能した後、物語は再びシビアなスパイの世界へ。 少佐はメッテルニヒのことを、「まったく気の毒なおっさんだ たぬき女房が靴に情報を隠してくれたおかげでさんざんだな」と言っているが、この「おっさん」の中には少佐自身白クマ、ごり押しディック、ドイツ大使館の職員なども含まれているに違いない。
やはりすべての元凶はマリア・テレジアだった。
そう考えると、彼女はやはり大物と言える・・・かな?

余談だが、少佐が伯爵を「君」と呼ぶのがけっこう違和感。
前からだっけ?他にも「お前」と呼んだりしているけれど、少佐→伯爵だと「貴様」のイメージしかない、勘違いだったかも。
あと小さなことだが、コミック180ページで、たぶんごり押しディックの部下だと思うけど、煙草の灰を路上に普通に落としている。
今だったら絶対に描かれないカットだろう。

禅かぶれ(解釈は限りなく異質だけれど)で大はりきりの伯爵には、日本人として喜んでいいのかどうかわからない部分も多いが(笑)、伯爵が無事回復したのは嬉しい限り。
ウィーンを取材するためにオーストラリアに行ったが、小都市のインスブルックが気に入ったとの青池先生。
「インスブルックへようこそ」
こちらに向かって手を差し伸べる少佐に向かってまさにダイブ寸前の(当時の)私だったに違いない。
(2011年5月14日の日記)
少佐、チロリアンダンスを踊る〜「皇帝円舞曲」感想 4
ごり押しディックと少佐、どちらも猪突猛進に見えるが、少佐の方がしたたかだ。
わざとらしい芝居で白クマとごり押しディックを混乱させる。
白クマだけならそう簡単には騙されないだろうが、ごり押しディックが見事に突っかかってくれるので、なんとか目くらましにに成功?
「イノシシも追われりゃ木に登るさ、フン」の後姿がかっこいい、というか可愛い。

さて、マイクロフィルムの入ったメッテルニヒの靴は、巡り巡ってとある教会に。
そこに禅僧姿の伯爵がやって来るのだが、ここは華麗にスルーされるドタ靴。
そして少佐は情報待ちつつひたすら食事(笑)。

「おれの食事は規則的とはいえん
時間の余裕がある時に出来るだけ栄養価の高いものを食いだめしておく
こんなに長時間食事をする事はめったにないのだ」まではかっこいいけど、
「あいつら おれをブタにする気かー!」には何度読んでも笑ってしまう。

ハードワークな少佐だから、けっこう大食漢なイメージあったけど実際の食事風景見てみるとそうでもなかった。
こういうストイックなところも少佐の魅力だが。
やっと情報を得た少佐だが、ここで再び白クマとごり押しディックにつかまってしまう。
淡々とストーリーが進むばかりで、やや弛緩した感があったがここからが一転、少佐の華麗なるショーが幕を開ける。

チロリアンダンスのダンサーから情報を得るために舞台に上がって「チロリアンダンスを踊る!」
王宮の屋根でごり押しディックと格闘になり、「落ちそうになる!」
観光馬車の馬を乗っ取り、のどかなインスブルックの街中を「馬チェイス!」
極めつけはカヤックで激流下りの「チロリアンアドベンチャー!」
(少佐も任務のためならといろんなことやらされてるが、チロリアンダンス少佐とマイホームパパ少佐とケーキ作り少佐が私の中でベスト3かも。)

そこに伯爵やKGB、CIAが加わるからてんやわんやの大騒ぎ。
何より青池先生がノリノリで、読んでて何のために少佐たちがドタバタしてるのか、本来の目的を忘れるほど。
これがほんとの「本末転倒」だ(笑)。
って一気に18巻もラストまで来てしまったが、ここでようやくマリア・テレジアが現れ、あっそうか、彼女のマイクロフィルムをみんなでさがしてるんだっけって改めて気づくことになる。

★今回のお気に入り
・「任務のためならチロルのダンスも踊ってやるが 皮の短パンだけはお断りだ」by少佐、部下Aの想像の中の皮パン少佐、似合ってます。
・(少佐のチロリアンダンスを)「同志『仔熊のミーシャ』にも教えてやろう
きっと彼は新たな敵愾心に燃え立つはずだ(ミーシャはコサックダンスの名手なのだ)」by白クマ、是非共演を!
・「おい馬!観光馬車でぼこぼこ歩くより壮快だろう
野性に戻って早く走れ!」の少佐に冷や汗かいてる馬、でも少佐の扱いは案外優しい(9月の7日間でも優しかった)。
・ミーハーおばさん宅で、「お邪魔してます おなべの火は消しときましたよ」善良な市民にはあくまでもそつのない少佐。
・カヤックのごり押しや少佐に手を振る善良な親子、でもなんだか可哀そうなことに・・・。

ちなみに伯爵が泥棒に入り、少佐とごり押しディックが喧嘩した王宮はシグムント大公のもとで造宮された後、女帝マリア・テレジアの命で改築されたという。
今回の少佐の敵もまたマリア・テレジア、奇妙というか笑える因縁になっている。
(2011年6月3日の日記)
クライマックスに向けて〜「皇帝円舞曲」感想 5
「エロイカより愛をこめて」も19巻に入り、「皇帝円舞曲」も最終話。
作者曰く「エロイカシリーズ中一番長いお話になっていた」とのこと。
私の中ではなぜか「9月の7日間」が一番長いイメージがあったけど、読み返してみたら全然そんなことなかった(笑)。

さて、好敵手として少佐ばかりか伯爵、白クマ&ごり押しディックまで翻弄したマリア・テレジアがいよいよ表舞台で踊り出す。
踊り出すというより乗り出すという雰囲気だけど、これまでは少佐たちが周りで勝手に騒いでるだけで、むしろ蚊帳の外みたいな雰囲気だったマリア・テレジア。
確かに手の打ちように手慣れたスパイのしたたかさも感じてたけど、自体が自分の手に負えなくておろおろしている場面も目立ったように思う。
一応任務が成功したのも、伯爵のスタンドプレイがあったおかげだし。
それでも30年以上眠り続け、ただ一度の任務に目覚めた時に、少佐と伯爵がいたのは彼女も運が悪かったと言うべきだろうか。

ところで以前読んだ時は気づかなかったが、31ページのごり押しディックの台詞が気になる。
少佐の部下がシュトルツ商会から家具屋が椅子を運び出すのを追ったのを見て、「椅子の中に怪しい者が隠れているというのか?そいつはスリラー小説だぜ」と言っている。
何でもありのスパイの世界ですらそれはないと言いたいのだろうが、逆にいかにもありそうなシチュエーションだと思うけど。
じゃなくて、これを読んだ時思い出したのが江戸川乱歩著「人間椅子」。

作者はこれを意識したのだろうか?
「スリラー小説」なんて言葉を使ったところが引っかかるけど、硬質な(一応)スパイの世界において、あまりに異質な世界を髣髴とさせる言葉がすんなり入り込んでいるのがとっても気になる。

19巻に入って目立つのはごり押しディックの切れ者ぶり。
これまでは筋肉馬鹿の拳骨オタクみたいな、少佐が戦車なら俺はブルドーザーみたいな単調なキャラだと思っていたが、だいぶ認識が変わった気がする。
なんだかんだで少佐や白クマと対等に張り合うのだから、やはりそこは有能なのだろう。

今手元に「エロイカより愛をこめての創り方」と「青池保子公式キャラクターガイドブック」を広げて書いているのだが、懐かしの前公式サイトの「人気キャラクターベスト30」のコーナー、少佐の1位は当然として、白クマは仔熊のミーシャとセットで12位、ごり押しディックは残念ながらランク外だった。
まあ少佐部屋とZ部屋にしか行ってなかった私が言うのもなんだが、「皇帝円舞曲」で活躍したごり押しディックはもっと人気があってもいいような気がする。

ちなみにベスト30の中に部長とかA君の奥さんなんかも入っていて、これには笑った。
他の部屋のコメントももっと丹念に読んでおくべきだったよなあ。
まさかあんな急になくなるとは思ってもみなかったからなあ。

★今回のお気に入り
・少佐の寝姿、言葉は無用(笑)。
・シュトルツ夫人のそぶりを見て、「やつはプロだぜ」とごり押しディック、さすがプロ。
(2011年6月19日の日記)
7月8日 そして少佐は眠りについた〜「皇帝円舞曲」感想 6
「皇帝円舞曲」最終章。
初めて「皇帝円舞曲」を読んだ時、「皇帝円舞曲」という曲を知らなかったので、私の頭の中では何故か「威風堂々」が大音響のエンドレスで鳴り響いていた。
そして少佐が馬に乗って駆け回ったり激流川下りでは「天国と地獄」とまるで運動会。
今はパソに取り込んだ「皇帝円舞曲」を聴きながらこれ書いているけれど、最後の舞踏会部分はともかく、やはり私の少佐のイメージは「威風堂々」だな。

イギリスの作曲家?関係ないし(笑)。
もちろんこのエピソードに限りの話、他のエピソードではあまり音楽を意識させないので。

さて、この「皇帝円舞曲」の後、「エロイカより愛をこめて」は長い休載に入ったらしい。
私は数年前の一気読みなので関係なかったが、休載宣言されたのだろうか、それとも何のコメントもなく静かに救済に入ったのだろうか。
ファンにとっては長い長い休載期間だっただろう。
いつか再開との確信があったのかなかったのか。
休載を踏まえて読むと、「皇帝円舞曲」のラストはこれが最終回でもおかしくないような微妙な雰囲気をたたえている。
「エロイカより愛をこめての創りかた」を読む限り、青池先生が嬉々として帰ってきたという印象は受けないので、作者としてはこのまま終わるつもりだったのか、とても気になる。

私が「エロイカより愛をこめて」に再会した頃の公式サイトはファンの語り場が多くて、新参者の私にも皆さん優しく付き合ってくれたが、まさかあんな形で急に終わるとは思ってもいなかったので、当時の状況を詳しく聞く機会を逃してしまったのがどうにも悔しい。
ちなみに当サイトで取り上げている作品の中でも小野不由美著「十二国記」が2001年(平成13年)以来新作が出ていない(番外編が短編で2作出たが)という長期間休みだが、これも私は数年前に一気読みしたので、他の読者に比べてまだそれほど首は伸びていない(笑)。

「皇帝円舞曲」終了後、東西ドイツの統一され、ソ連崩壊が起こり冷戦が終結するという国際的にも歴史的にも大きな事件が起きたため、再開後の「エロイカより愛をこめて」もまた大きく変化することになるのだが、それはまた次回の話。

★19巻には番外編としてもう1話「小銭王ジェイムズI世伝」も掲載されていますが、こちらの感想は省略します。
(2011年7月8日の日記)
少佐復活、冷戦の終結〜「ノスフェラトゥ」感想 1
9年の中断期間を経て復活した「エロイカより愛をこめて」。
「エロイカより愛をこめての創り方」に「しばらくエロイカを休眠させる決心をした」とあるので、再開を待ちわびる読者にとっては長い9年間だったことだろう。
私はと言えば、私のエロイカは「笑う枢機卿」のあたりまでの一気読みですでに終わっていた。
というより私と少佐との出会いは1週間ほどだったのだ。

早い話が、コミックを貸してくれた家にそこまでしかなかったからで、今なら続きはないか、他にもないかとアマゾンやらブックオフやら捜し回るところだが、そんな時代ではなかった。
かといって、自分でコミックを揃えるとか「プリンセス」を買うといった才覚もお金もなく、私の初恋はあっという間に終わってしまったのだ。
ただ小心者一筋だった私の性格が、一気にせわしなくなり、良くも悪くもエネルギッシュになったというおまけを添えて、少佐は記憶の彼方で眠りについた。

その少佐との再会は、「エロイカ」が復活した時よりさらに時が過ぎて26巻が発売された時。
その衝撃は「ポセイドン」感想で書くとして、幸か不幸か私には「待ちわびた9年間」というのがない。
26巻で少佐と再会、大人買いして1巻から一気読み、そしてコミック派になって次の8月16日(38巻発売日)を待つ私がいる。
だから私の場合は「皇帝円舞曲」を読んだその日に「ノスフェラトゥ」も読むことができた。

その日に読んだと言っても、9年の休載や冷戦の終結については知っていたので、感慨深いものは感じたが、せっかくの復活なのに、主役がジェイムズ君なのにまず笑った。
なに?このパワーアップ(笑)。
小銭に釣られるだけならまだしも「干からびたパンに石より固いチーズ、べとべとのハム」。
特に「べとべとのハム」でこっちはおぞましくて悶絶、J君は嬉しくて悶絶。
釣ってる少佐の方が吐きそうになるが、そうでなくては少佐も怖い。

もうひとつ、世界情勢が激変したことにより、かなり気を使って描いている印象も受けた。
軍事評論家の岡部いさく氏の協力を得たことが紹介されているが、確かに下手にいじれない、好き放題には描かれない微妙な世界情勢の中で、「エロイカ」の影響力は大きかっただろう。
より綿密に、より現実に沿って、その中でリアルな事件を作り、少佐たちを動かしていく、作者の努力には頭が下がるばかりである。
前期と違って、「描くのが楽しくて楽しくてたまらない」といった勢いは薄れ、シリアスで重厚な構成になって来たのはそのせいか。

だからといって「エロイカ」の面白みが削がれることもなく、今に至る。
青池先生、本当にお疲れ様です。

そしてやっと本編。
何より赤の広場に立つ少佐のカットが衝撃的。
「我々の望みはあのドイツ人(少佐)をクズ鉄にしてここに連行することだったな」
「時代は変わったのだ 仔熊のミーシャ」
白クマと仔熊のミーシャが語り合うように、かつての仇敵鉄のクラウスとミーシャたちは共闘態勢に入っている。

それでも互いのライバル意識、毛嫌い意識(笑)は失われることなく、伯爵も加えてドタバタ喜劇をくり返しながら、事件に向かうこととなる。
(2011年8月2日の日記)

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