第1話 闇


闇はねっとりとまとわりついていた。
体を動かそうにもまるで生き物のように体を押し潰し、息をすることさえままならない。

このまま土に埋もれてしまうのか、意識があるままで、魂を残したままで。
戦慄が体を震わせ、桔梗は絶叫した。

自分の叫び声で桔梗は目覚めた。
焚き火の火は消え、あたりは夢と同じ漆黒の闇に塗り込められている。
慌てて火をおこす。
揺れる炎、パチパチとはぜる木の枝の音、あたりがほのかに明るくなり、桔梗は安堵の吐息をついた。

まだ激しく震える体を抱きしめる。
そう、あの日の犬夜叉のように。
しかしあの時、間近に見た犬夜叉の瞳に宿っていたのは、愛の残り火と哀しみの色。
見かけは昔と同じでも、気づいていたろう墓土と死の匂い。
なめらかな肌、しなやかな髪、みせかけだけのまがいもの。

かすかに残る骨の記憶が夜になれば眠ることを、朝になれば目覚めることを教えてくれる。
束の間の安らぎだった眠りさえもう安息の場所ではない。

桔梗は顔を覆った。
押さえ切れない嗚咽が漏れる。
今、このとき雨が降ればいい。
雨が頬をぬらしたら涙の流し方を思い出すことができるだろうか。
それより墓土が溶け出して土に還ることができるだろうか、何もかも忘れて。

あの時力いっぱい抱きしめた犬夜叉の体に、私はぬくもりを感じ取ることができなかった。
陶器のように冷え切った、おぞましい、墓土と骨でできたこの体・・・。

朝になったら私はどこへ向かえばいいのか、たった一人で。
いつになったら終わるのか、私の旅は。

桔梗はいつまでも泣き続けた、涙を流すこともできぬまま・・・。




・素材は篁 龍沙さんの「 篝火幻燈」からお借りしました。

短いおはなし 目次へもどる

ホームへもどる