第3話 夢


なんだおまえ、寒いのか?
もっと火のそばに来いよ。
あんまり奥で火を焚くと死んじまうからな。
心配すんな、とって喰ったりはしねえよ。

だがな、おまえ俺んとこで良かったんだぜ、いきなり現れたときはびっくりしたけどよ。
他の奴らの巣になんか行ってみろ、たちまち喰われてしまうぜ。
俺はな、かごめに会ってから人を喰ったことはねえ。

かごめってのはなあ、なんだおまえ知ってんのか?
かごめの友達か?
それにしちゃあ年くってるみてえだが(笑)。
違う?じゃあなんでかごめのこと知ってるんだ?
おまえの国じゃかごめは有名?へっ、俺も?

おまえ、俺に会いに来たのか?
へぇ〜、そりゃ残念だな。
おまえがもっと若くてかわいい顔してて、四魂のかけら見る目があって気が 強けりゃなあ、で、かごめに会う前だったら、俺の女にしてやったのによ。
見るからに気が弱そうだしな(笑)。
なに?夢がかなった?ただ一度だけ?
なんだもう帰っちまうのか?もう来ねえのか?
あれっ、消えちまった・・。
なんだったんだ?今の女、見たこともねえ着物着てやがったが。
今度かごめに会ったら聞いてみるか、ここんとこ犬っころとも遊んでねえしな。

へへっ、俺も有名か、鋼牙様も捨てたもんじゃねえなあ。
そろそろ寝るとすっか。
今のも夢だったのかもしんねえけど。


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第4話 月


今宵は三日月・・・。
殺生丸はふわりと起き上がった。
その優雅な物腰が空気をかすかに揺らしたがりんも邪見も目覚める気配はない 。

殺生丸の一族は月に強く影響を受ける。
満月の夜には血がざわめき、毛が逆立つような飢餓感に襲われる者もいるだろう。
朔の夜には弱体化して闇に身を潜め、ひたすら夜明けを待ち望む者もいるに違いない。

だが・・・

殺生丸は一歩踏み出した。
「この殺生丸には三日月がよく似合う・・・。」




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第5話 母


犬夜叉・・・
あわれな子・・・

幼いおまえをひとり残して先に逝く母を許してください。
たとえ地獄に落ちようと、父上と添い遂げようと誓った気持ちに悔いはありません。

でも父を亡くし、母をも失ってこの世でおまえはただひとり。
おまえを愛する者はもうこの世にはいないのです。
これからおまえは妖怪からは半妖と蔑まれ、人間からは半妖と恐れられて生きなければならないでしょう。

母は弱い人間です。
生きていてさえ、おまえを守ってやることができませんでした。

「半妖ってなに?」
大きな瞳で問いかけてくるおまえを抱きしめ、涙を流すことしかできませんでした。
これから死に逝く身では、おまえのために祈ることしかできません。

犬夜叉・・・
いとしい子・・・

おまえの兄上は氷のように心の冷たい方です。
これからもきっとおまえを虐げることでしょう。
けれども兄上もまた傷ついたのです。
母君を失い、父上を奪われた寂しさが兄上の心を凍らせてしまいました。

いつの日か兄上の心も溶け、対になった守り刀のように、おまえと兄上が寄り添い心を通わせて、父上の愛を守りつづけることができますように。

母は祈り続けましょう。
地獄の炎に焼かれながら・・・。

犬夜叉・・・
やさしい子・・・

おまえがやさしい心を失わなければ、いつかおまえも巡り会うでしょう。
妖怪も人間も半妖もなく、おまえのやさしさを愛するひとに。
かつて、父上と母が出会ったように。

犬夜叉・・・



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第6話 危機


鋼牙は暗闇の中にうずくまっていた。
息を殺し、身動きひとつせずにあたりの気配をうかがう。
こんな時、むやみに動くことが一番危険だと鋼牙はわきまえている。

体中の毛が逆立ち、張りつめた神経がちりちりと痛んだが、それでも鋼牙は動かなかった。

「どこだ、ここは・・・。」
狼の研ぎ澄まされた感覚を持ってしても、闇の中には何の気配もない。

鋼牙は闇には慣れている。
どんなに暗くても空気のそよぎ、風の匂い、獲物の息づかいなど嗅ぎ分けるることができるはず。

だがここには何もない、あるのはただ漆黒の闇と無・・・。

「ちくしょう・・・。
 奈落か・・・? いや、奈落じゃねえ。
 奈落なら腐った人間と薄汚ねえ妖怪の混じり合った、反吐の出そうな匂いがするはずだ・・・。

 それより・・・、ここは・・・どこだっ!?」

いつの間にか意識を失い、気づいてみたらここにいた。
地面は固くて氷のようにつるつるしている。
下から襲われることはないだろうと、鋼牙はさらに身を伏せた。
ぎりぎりぎり・・・、と噛みしめた奥歯がきしる。
「慎重に行かねえと・・・。」

時には意気地なしと蔑まれることもあったが、鋼牙はいつも自分の判断を信じてきた。
かなわぬ相手ならば迷うことなく背を向ける。
妖狼族の若頭として生きるべく生れ落ちた日から、鋼牙の目的は決まっている。
「生き延びること。」
生き延びさえすれば、いつかは相手を討ち果たすこともできる。

そんな鋼牙が、なぜ曲がりなりにも荒くれ揃いの妖狼族を統率し、四魂のかけらの一人占めにも文句を言わせないのか、答えは簡単だ。
鋼牙が常に真っ先に戦い、最後の1人として戦い続けるからである。
四魂のかけらを得るために鋼牙は3度の死闘を経験している。

犬夜叉や奈落に出会う前の話である。
最初は全員でかけらを持った妖怪に向かっていったが、いずれも傷つき、戦意を喪失して倒れこんだ。

鋼牙だけが向かっていった、死に物狂いで喰らいつき、蹴り倒し、噛みちぎってかけらを奪った。
血と妖怪の粘液にまみれた鋼牙の姿に仲間達でさえ怖気づいた。

「落ち着け・・・。」
鋼牙は四魂のかけらを埋め込んだ場所を指で確かめた。
かけらを狙う新手の妖怪か・・・?
とにかく気配さえあれば・・・。

気の遠くなるような時間がたった。
動かぬ鋼牙にじれたのか、背後でかすかに空気が動いた。
「そこかっ!!」
鋼牙は振り向きざまに地を蹴り、身を躍らせた。



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第9話 死の間際 生きる道


「やっと・・・ 戻れた・・・
 桔梗さま、かけらを取って・・・ 私の魂を救ってほしい・・・」

「・・・だが睡骨さま、あなたには別の道もある。
 このかけらを使ってもう一度蘇り、医者として生きる気持ちはないか・・・
 それが仕方のなかったことはいえ、たくさんの人を殺したあなたの償いの道でもある。
 この戦国の時代において、医者は必要な存在
 もう一度 人として生きてみる気持ちはないのか・・・」

「この私に 死人(しびと)として生きろと言うのですか・・・
 この骨と墓土でできた体で・・・」

「睡骨さま、私も死人(しびと)だ
 私の体も骨と墓土でできている
 あなたは私にそれを恥じよと言うのか
 生きる価値などないと、今すぐ死ねと・・・」

「あなたも死人(しびと)・・・」

「私も墓の中から無理やり目覚めさせられた者
  死人(しびと)として生きる辛さも知っている
 それでもあなたに生きてほしい・・・」

「しか、私の中のもう一人の私、もう一人の睡骨を抑える手だてを私は知らない
 このまま生きながらえば、私はまたたくさん人を殺す・・・
 私はそれが怖い・・・」

「私は邪悪な力を打ち消し、清める者
 巫女としてあなたに寄り添い、手伝おう
 あなたが強い心を保ち、人を救うために生きることができるように
 及ばずながら 力を貸そう」

「桔梗さま、私と共に生きてくださるとおっしゃるのか・・・
 七人隊で羅刹と呼ばれたこの睡骨と・・・」

「私には使命がある
 生きるの死ぬのと選択する余地などない
 あなたも医者として、人を救うために生きねばならぬ、そうは思わぬか・・・」

「桔梗さま・・・ 私は・・・」



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第10話 目を閉じて


     目を閉じて 頬にふれ
     抱きしめて 髪なぞり
     魂を 震わせる

       燃えつきて 闇に泣き
       寂しさに 影を追う
       笑みもなく なお生きる

      光得て 空見上げ
      風の中 身を抱(いだ)く
      微笑んで 歩き出す

       愛しさに 身をまかせ
       ひそやかに 守り抜く
       誇らしく 愛し抜く
    



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第11話 あれから


あれからどれくらいたったのか・・・?

あんとき、奈落との最終決戦、俺たちは死ぬ気で戦った
俺たちが致命傷を与えて、桔梗が奈落に矢を放ち、奈落は消滅した・・・
やっと俺たちは奈落を倒したんだ

かわいそうだったのが、神楽と神無だ
神楽は奈落が死ねば自由になれると信じていたらしいが、あいつらの命は奈落の中に あった
神楽も神無も奈落と共に消滅して・・・

四魂の玉も元に戻って、翠子の中に返された
どうやったのかはわからねえ
けど、かごめが泣いていた
やっと解放されたと、戦いが終わったと、翠子の声が聞こえたらしい

不思議なことに翠子のミイラも四魂の玉も一緒に消滅した
琥珀は殺生丸の天生牙で生き返ったし、鋼牙もかけらを返してよこした
かごめに頼まれちゃ断れねえ、仲間の敵もとったことだし

そして、家のやつらに話してくる、荷物も取ってくる、って嬉しそうに井戸ん中に飛 び込んだかごめは、それっ
きり帰ってこなかった
うかつだった
あいつは四魂の玉なしじゃ、あっちとこっちを行き来できねえんだ

桔梗も消えた
成仏したんだろうと思った

一番幸せだったのは、弥勒と珊瑚だ
夫婦(めおと)になって、あきれるほど子どもを作りやがった
もうあいつらも生きちゃいねえ
もう子ども、いや孫の時代だ・・・

そしてある日突然俺の胸ん中に、ぽっかり穴が開いた
かごめが死んだ・・・
あっちの世界で・・・
俺は本当に一人ぼっちになっちまった

みんなどっかに行っちまった
七宝も他の妖怪と夫婦になって出て行った
殺生丸も鋼牙も、どっかで生きてるんだろうが、俺はもうじじいだ、こんな姿は見せ たくねえ

何百年も 俺は一人で生きてきた・・・
このまま生きていれば、かごめの時代になり、また会えるかもしれないと思ったんだ が、俺の世界とかご
めの世界は違うらしい
どんなに生きても俺の世界は かごめんとこのようにはならなかった

そして、俺は年とって今はもう動けねえ
死ぬのを待つばかりだ
そして今、俺のそばには桔梗がいる
あの頃のまま、変わらない桔梗・・・

桔梗は成仏してなかった
桔梗もずっと一人で生きてきた
そしてくたばりそうな俺のそばに戻ってきた

愛とか恋とか憎しみとか、もうそんなんじゃねえ

最初の頃に戻って・・・
俺と桔梗の二人だけ・・・
桔梗は動けない俺の世話をしてくれる
洞穴の中で、動けない俺と若くて美しいままの桔梗

今なら、鬼蜘蛛の気持ちが少しだけわかるような気がする
あいつの世界も桔梗だけだった
だから狂おしく桔梗を想った・・・

だがなあ 桔梗・・・
俺が死んだらお前はどうする
これからもそうやって一人で生きていくのか・・・?
そう考えると俺はたまらねえ気持ちになる・・・

  犬夜叉、おまえはまだ気づいてないのか・・・?
  私は死魂で生きる者
  死魂さえ解き放てば いつでも死ねる
  今まで死ななかったのは おまえがいたからだ、犬夜叉・・・

そうか、そうだったのか、良かった・・・
桔・・・梗・・・

  犬夜叉・・・ 
    逝ったか・・・



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