第15話 奈落 恋歌



奈落より桔梗に贈られし歌

     ぬばたまの 闇にうごめく  あやかしも

                  焦がれる心 人に負けじと


桔梗より奈落に返されし歌

       ぬばたまの 闇にこの身は 落つるとも

               光に焦がれる 想い変わらず


おまけ

     しのぶれど いろに出(い)でにけり わが恋は

                  物や思ふと神楽問ふまで


意味

     ずっと忍んできたのだけれど、どうしても顔に出てしまう私の想いは、
     「何考えてんのさ?」と神楽が聞きに来るほど(激しく切ない)。


元歌

      しのぶれど いろに出でにけり わが恋は

               物や思ふとひとの問ふまで


(平兼盛「小倉百人一首」より)


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第16話 花一輪


恋し恋して焦がれ焦がれて
動かぬこの身を地獄に落として
邪恋にまみれて蘇り


想いに反してこの手で殺して
背中の鬼蜘蛛悲鳴を上げる


ふらりふらりとさまよい歩いて
愛しき女の面影探して
この手で手折(たお)る花一輪

愛しき女の名前をつぶやき
心も涙で泣き濡れて


まがいものでも女は還って
さらにこの身を苦しめる

憎め恨めとせめてこの手で
壊してみたくも
人の心が邪魔をする

触れるもならずと土をまといて
その手で我を貶める


愛し憎んで壊し壊され
この世の終わりを生きようと
巡り巡って次の世で
再び出会ってしまうのか


憎み恨んで泣いて焦がれて
孤独の闇を生きるのか
運命(さだめ)の道を辿るのか


ひとり静かに月の明かりに
この手で手折る花一輪

恋しき女の名前を持った
凛々しく儚い花一輪



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