第12話 異変

翌日は青空が広がったが、秋も半ばで風は冷たい。
しかしかごめは起きるなり川に連れて行けと楓をせっついた。
とにかく自分の体や服が、泥や血で汚れているのが我慢がならないようだ。
昨夜のうちに用意しておいた薪や着替えを背負って楓の腕を引っぱり、走り出しそうな勢いで川に向かう。

「かごめがこれから川でみそぎをする。
 覗いた男には天罰が下るぞ。」

行き会う村人に告げながら楓は心の中で苦笑した。
かごめという少女は村の暮らしに慣れていない。
水浴びしていて見られたからといって怒る娘はそんなにいないが(わざとでなければ)、かごめはきっと騒ぐだろう、大騒ぎするだろう。
かごめが騒ぐととにかくうるさい、そんなかごめを見るのも楽しいが今は早く四魂のかけら集めに出かけてもらわねば。

川に着くなりかごめは着ていた物を全て脱ぎ捨てた。
「着物はわしが洗っておく、火も熾しておくから早く体を洗いなさい。」
声をかけると「ありがとう。」と叫びながら素裸で川に走りこんでいった。
さすがに水は冷たく、一気に水浴びと言うわけにはいかないようだが、楓はさっさとかごめの服を洗い、焚き火のそばに干し始めた。

ふと気配を感じて後方を振り仰ぐと、崖の上に犬夜叉がいた。
かごめを食い入るように見ている。
「ほう、覗くか。」
楓は苦笑したが、すぐに犬夜叉の意図に気がついた。
かごめの四魂のかけらを盗みに来たのだろう。

それにしても・・・。
年頃の娘が裸で水浴びしているのを見て恥らうでもなく喜ぶでもない。
何百年生きてきたか知らないが、人間ならとっくに嫁をもらい、子供の1人いてもおかしくない年頃である。
しかも桔梗と恋仲になったのなら、当然異性への関心はあると思ったのだが。

「幼い・・・。」
楓は呟いた。
おそらく半妖ゆえに、他の妖怪とも関わることなく生きてきたのだろう。
年齢相応の興味や関心や、そんな感情とは無縁だったのか。

ならば。
犬夜叉と桔梗が慕い合っていたとしても、犬夜叉は桔梗を母か姉のように求め、桔梗は男としての犬夜叉を愛したのだろうか。
「想い」は同じでも求めるところの食い違いがあの日の悲劇に繫がったのだろうか・・・。

炎に手をかざしながら考え込んでいた楓は犬夜叉が地面に叩きつけられる音に我に返った。
かごめに見つかり、魂鎮めの言霊を放たれたらしい。
犬夜叉が裸を覗きに来たと思い込んだかごめと早速喧嘩が始まったが、巫女装束に着替えたかごめの姿を見た犬夜叉が一瞬息を飲んだ。
桔梗が蘇ったと錯覚したか。

「なんて顔しとるんだ、犬夜叉。」
声をかけたところにせつが来た。
2人の息子と年頃の娘を持つ女だが、娘が突然倒れたと知らせに来たのだ。
「朝はピンピンしてたんだけど・・・。」
気のいい女だが今は青ざめて心配そうだ。
犬夜叉とかごめが気にならないわけではなかったが、せつの娘も放ってはおけまい。

「わしは先にもどるでな、ケンカするなよ。」
言い置いて楓は村へ急いだ。

せつの娘は小屋に寝かされていたが、特に具合が悪いようには見えない。
だが常人には感じられぬはずの妙な気配に楓は緊張した。
「さがっていなさい。」
楓の後から小屋に入って来ようとするせつを押し止める。

すると娘はうっすらと目を開け、体を起こした。
まるで両腕を掴まれて引き起こされたように立ち上がり、そのまま浮き上がる。
せつが悲鳴を上げた。
娘の指にはどこからなのか、楓にしか見えない糸が数本巻き付いて娘の体を支えている。

そして下に置いてあった鉈もまた浮いて娘の手に飛んだ。
鉈をつかんだ瞬間、娘はそれを楓に向けて振り下ろし、血飛沫が飛んだ。


第2話にすすむ

小説 犬夜叉目次へもどる

ホームへもどる