夜のしじまを駆け抜ける2つの影。 かすかな月明かりが彼らの姿を照らす。 銀色の髪、瞳は金色。 偉大なる妖怪の血を受け継ぐ兄と弟。 兄の名は殺生丸。 切れ長の目に薄い唇。 冷酷さを感じさせる整った顔立ち。 白き毛皮を身にまとう孤高の貴公子。 弟は半妖犬夜叉。 殺生丸とは似ても似つかぬ丸い目に猛々しさと、かすかな優しさを秘め、緋色の衣に身を包む。 「よう、殺生丸。 これから行く村には本当に四魂の玉があるんだろうな。」 息も乱さず犬夜叉が問う。 「ありがてえ話だぜ。 四魂の玉があれば、俺は本物の妖怪になれる。 俺たちの一族が最強、怖い者なしだ。」 「愚か者、我等の目的は四魂の玉などではない。」 初めて殺生丸が口を開いた。 「四魂の村には、玉を守る姉妹がいる。 姉は桔梗、凛々しく気高く美しいという評判の巫女だ。 妹は楓、姉ほどの霊力はないが、素朴で可憐で野に咲く花のような娘だそうだ。 武蔵の国中で『二梗(にきょう)』と呼ばれる有名な姉妹だ。」 「・・・へえ、それで・・・?」 「我等は『二梗』を妻として迎えるのだ。」 「な、なにーっ!?」 思わず立ち止まる犬夜叉。 「これからの時代、人間だ妖怪だと罵り合い、憎み合って何になる。 我等が『二梗』を妻として迎えれば、妖怪の体力と力、人間の優しさと豊かさを併せ持つ子どもが生まれる。 そしていつの日か人間だの妖怪だのといった差別のない世界となるだろう。 このままでは・・・、500年もたてば、妖怪は滅び、伝説や遺物の中でしか存在しなくなるのだ。」 「なんでおめえがそんなこと知ってんだ?500年後の世界だなんて。」 「それはマンガを読めば、いやそんなことはどうでもいい。」 「で、当然おめえは桔梗とやらを選ぶんだろうな、年上だし。 俺は楓か?」 「いや、桔梗の相手はおまえだ。 桔梗は気位が高すぎる、私には合わん。」 「けっ、似た者同士ってわけだ。」 「それに私はできるだけ年下で、しかも離れている方が・・・。」 「ん?」 「いや、何でもない。 特に犬夜叉、おまえには女難の相が出ている。 早く結婚しないと、後で難儀するぞ。ふたまたとか・・・。」 「ふたまた〜? なんだよ、それ。」 「独り言だ、気にするな。」 「なんか怪しいな。 まっ、どうでもいいけど、どうすんだ?その『二梗』とやら。 引っさらって連れてくのか?」 「馬鹿を言うな、平身低頭して、誠心誠意お願いするのだ。 遠い昔、海の向こうの呉という国で、孫策と周瑜という兄弟よりも深い縁で結ばれた男たちが、 『二喬(にきょう)』といわれた美人姉妹をさらって妻にしたそうだ。 私はそういうやり方は好かん。」 「なんか説明多いな、今日は。 いつもはむっつりしてて、ほとんどしゃべらねえのによ。」 「気にするな、照れているだけだ。」 「つんけんしてても、おめえもやっぱり親父の子だな。」 犬夜叉が笑う。 2人は再び走り始める。 遠くで狼の遠吠え。 「気に食わねえな。 これといったわけはねえんだが、どうも狼ってやつは気に食わねえ。 同族なのに、なんでだろ?」 犬夜叉のつぶやき・・・。 |