鬼だ

「鬼だ、鬼だ、鬼が出た」
どうして貴様らそんなに怯える
蔑むように 俺を見る

槍で突き、弓で射る
殺すというのか この俺を

遠い遠い昔から
俺はこの国を守ってきた
たしかに貴様らは俺を恐れたが
それは畏怖ではなかったか

米や野菜や魚を捧げ
国の安寧を願っていたのではなかったか

鬼が人を喰らうなどと
都から来た奴らが言う
忌まわしき獣(けだもの)だと俺を指す

嘆きを聞け
呻きを聞け
鬼の悲鳴を聞け


  見るがいい
貴様らが俺に捧げた
宝の全てを
都の奴らが持っていく

後で悔やんでももう遅い
貴様らはこの国に取り残される
何もかもを奪われて
守ってくれる者もなく

鬼は滅びていくだろう
人を喰らうおぞましい獣として
伝説の中に残るだろう

都を睨んで俺は死ぬ
鬼の悲劇を忘れるな
人の心の恐ろしさ
いついつまでも忘れるな


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