「うしおととら」感想 3
4月5日 西の国・妖大戦ー2
22巻の主役は雷信とかがり。
でもその前に、ずっと気になっていたのが神野。
東の長は天狗だが、神野は妖怪に見えにくい。
特徴あるのは「しんの」と呼ばせるその名前と神と耳朶か。

ふと思いついて「神野、妖怪」で検索したらWikipediaで「神野悪五郎」がヒットした、やっと見つけた。
冠装束姿であまりうしとら版と似てないが、そこにおもしろい記述があった。

2005年(平成17年)に公開された映画「妖怪大戦争」には広島の妖怪で魔物たちを束ねる魔王のひとりであり、その支配はインド・中国・日本という広域に及ぶとされる。
山ン本五郎左衛門と魔界の覇権を争ったが、妖怪世界の長老である妖怪大翁の仲裁により、現在は山ン本とともに大翁に仕える。
頭の回転が速く討論では妖怪の中に並ぶ者はいないとある。

あれ、山ン本って東の長じゃないですか、そういうことか。
頭の回転が速いとか神速の斬撃は名前のイメージ?インテリっぽいし。

今回はいきなり笑える潮とイズナ、威吹の掛け合い。
一人暴走する潮に「何いっとるのだ?」「何やっとるんだ あいつは?」とまじめに驚く威吹がおかしい。
この威吹がとっても気になるキャラで、「裏切り者」だったのだが、動じない潮はともかく驚いたのがとらの反応。
威吹の性格などとっくに読み切って、冷静に反応するかと思っていたらかなりかっかしてた、ちょっと意外。

さて話を飛ばして雷信、かがり&とらvs西の鎌鼬対決だけど、見てて痛い、ほんとに痛い。
私なんて紙で切ったとか、タマネギ刻んでて手が滑って皮切ったとかその程度の経験しかないが、それでもあの一瞬のピリッとした感覚、痛さよりも鳥肌立つような気持ち悪さは大嫌い。
いくら治ると言っても痛くないわけないだろうから、かがりや雷信の健気が目に染みる。
熱くなった2人を抑え込むとらもいい。

途中雷信が死んだように見えたり、かがりが1人で2連戦したり、息をのむ場面が多かったが、圧巻なのが「あなたの山に、お還りなさい。」のかがり。
正直2度目の「どんな服も・・・」と雷信の煙草をくわえさせて「吸ってろよ。」のところは狙い過ぎてて恥ずかしい。
逆に雷信は「かがりとの交際は、認めぬよ・・・」の古めかしい喋り方がツボ。

ほんとこの兄弟は変わったなあ。
潮ととらの影響を受けたというより、設定を変えたのだろう。
とらが2人の精神面のフォローに回り、大妖怪の貫録を見せてくれた。
最後の威吹の清々しい表情も良く、イズナのがんばりも可愛く?潮たちは空屋敷を脱出する。

それにしても神野、「頭の回転の速さ」を見事に生かしたキャラで、結局彼の傲慢が大きな危険を招くことになる。
元ネタを生かした見事な展開。
でも私は物語がまだまだ続くことを知ってるけど、当時はここで決着がつくと思った、もうすぐ最終回と思った読者は多いのではないだろうか。
「うしおととら」は何度も何度も最終章といってもおかしくないほどの大きなうねりが現れる。
それがいったん終結して、さらに大きなうねりに向かう瞬間がたまらない。
(2013年4月5日の日記)
3月19日 西の国・妖大戦ー1
常に盛り上がり度100%で最後まで突っ走った「うしおととら」だが、とらと真由子のエピソードが200%で1位だとすれば、180%くらいで堂々第2位につけたのが(私の中でのランキング、笑)鎌鼬兄弟が登場する話。
全て、ではないがかがりがとらへの恋心を意識する話が好きなので、今回の妖大戦もかなりおもしろかった。

潮はいい子だから、みんなが潮を応援するパターンが多い中、味方(白面の敵という意味で)のはずの妖たちが潮に敵対するパターンも新鮮。
そこを押し切って西の妖たちを助けに行く潮には、もう感涙もの。

その前にかがりの恋について語ってみたい。
私は女性キャラは1位真由子で2位かがりというほどのかがり好きだが、残念ながら真由子がたとえいなくてもその恋は報われないと思う。

後で人間姿のかがりがとらを連れて(笑)買い物に出かける話が出てくるが、あれはかがりの妖艶な美しさにペットの堂々たる獅子みたいな感じでとても似合っていた。
でもそれはあくまでもそう「見えた」だけで、とらと鎌鼬ではそもそも妖怪としての格が違う。

真由子は異種族、むしろ人間だからこそ(あったとして)とらとの恋が実る可能性があるだろう。
でも妖怪内での格の違いは、人間界では比べ物にならないほど大きそうだ。

とらが実はかがりの想いに気づいていてあえて触れなそうな感じなのはそのせいもあるのではないかと思う。
そしてかがりもちゃんとわきまえている。
控えめな性格というだけじゃなく、だからむしろ全く関係ない真由子の方が妙なしがらみなくつきあえるような気がする。
そこでとらが真由子に恋愛感情を持っていたかと言えば、私はそれもまたなかったと思っているのだが、そのことに関してはいずれ書きたい。

それにしても鎌鼬兄弟も変わったよなあ。
最初は潮ととらを利用して、あわよくば殺しそうな雰囲気だったし、かがりはとらに喧嘩売ってたし(笑)。
命を助けられて、十郎を救ってくれて、その感謝からというわけではなく、明らかに設定を変えたのだと思う。

律儀すぎるほどに律儀なところなどが微笑ましく、だからこそ最後まで潮ととらに深く関われる存在になったのだろう。
「私の名は雷信・・・雷を信じております。」
穏やかな表情でとらに告げる雷信、彼の最高の見せ場はここだと思う。
23巻の人気投票では残念ながら3ランクダウンの15位になっていたが、投票の時期によってはもっと上になってたかも。
(というかこの妖大戦と投票がそれぞれどの時期だったかわからないのが辛い・・・)

さて、西の妖怪が妙に強気で自分たちで白面の者に立ち向かう、その気概はともかくとして、この妖怪たちの関係もまたおもしろい。
西と東に分けて、それぞれ頭となる妖怪が治めるというのは「犬夜叉」他いくつかの話で見た記憶がある。
つかず離れずあたらずさわらずでそれが一番いい関係なのだろう。
どちらかが日本中を治めたいなどと思わない限り、一応平和は保たれる。

それでも若いせいか、神野治める西の妖怪たちは好戦的というか猛々しい感じがする。
遠野の妖怪たちも、誤解から潮を襲ったりするが、長はちゃんと見るべきものを見て判断していたし、妖怪たちもそれなりの素朴さのようなものがあった。
ところが西の妖怪たち、というより言いたいのは主に西の鎌鼬だが、人を狩ることを趣味にしているようなとんでもないやつ。
ただ、神野にしても好き放題にさせているわけではないだろう。

一応妖怪の存在を疑わせない程度の(年に何人か行方不明者が出る程度の)殺戮しか許していないのではないだろうか。
それはそれで従っているが、それだけに箍が外れた時の暴走が凄まじいのではないかと思う。
そうでなくては人間界とのバランスがもたないだろう。
そういう意味で、西の鎌鼬みたいな極悪妖怪が西に何故いる?といった疑問はなんとなく解けた。

今回は一鬼と鎌鼬兄弟の死闘がメインだが、特にかがりが痛々しい。
前よりもずっと美しく、ずっと妖艶に出て来ただけに、その肌がすっぱり斬られる情景は可哀想すぎる。
いくら治るとは言っても痛いだろうに・・・。
それだけに凄絶な美しさがより極まるのだけど、なんて書いたら私も鬼か・・・。
(2013年3月19日の日記)
2月10日 外堂の印
コミック20巻にセクシーな水着姿で登場する設楽水乃緒。
これまで出て来た少女達とは目が違う、雰囲気が違う。
強いて言えば礼子と似た感じか。
暗い鋭さがある。
気になる存在だったが、サトリ、お正月と続いてその後にやっと登場した。

「設楽」の名字が気になって調べてみたが、名字や愛知県の町名しかなく、特に謂れのある単語ではないらしい。
「神楽」と似てるせいか(笑)、なんとなく宗教的な意味のある言葉かと思っていた。
ちなみに水乃緒は船が通った後に水面にできる軌跡、あるいは水の流れの筋の意味があるそうだ。

最初のあたりを読んですぐに横溝正史、岩井志麻子といった名前が頭に浮かんだが、あれは四国じゃなく岡山県だった。
でも水乃緒の雰囲気はあの小説に似たものを感じる。
香川県の山奥の設楽の里。
「お外堂さん」を代々祭って来た水乃緒の一族は、東京ではぐれたお外堂さん(はぐれさん)の始末を水乃緒に託す。

そのはぐれさんは、よりによって潮ととらのいる学校にいた。
はぐれさんも、よくも獣の槍ととらの目を逃れて潜んでいたものだ。
もしくはあまりに小物でとらが気にも留めてなかったとか。
そう思ってたけど、実際に登場したはぐれさんは、人の心の闇の部分を操るとんでもない化け物だった。

その学校では潮がのどかな、というよりある意味地獄の(笑)テスト前。
いじめる麻子に大笑いだけど、「汚鈍る(おどる)」とか「ゆうしゅう」のすごい漢字とか、パソコンでも出て来ないよ。
麻子ってもしかしてとんでもなく頭いい?

そして遂に水乃緒が潮、というよりとらと対面。
「呪禁(じゅごん)」とはWikipediaによると「道教に由来する術(道術)で、呪文や太刀・杖刀を用いて邪気・獣類を制圧して害を退けるものである」とある。
水乃緒の場合はさらに使役、というより敬い奉りながら自分と共に戦って頂くという意味合いがあるのだろうか。
少なくとも水乃緒のお外堂さんは、たくさんの犬のような存在で、最初はおそろしく禍々しいが、特に己の意思は持っていないように見える。
水乃緒の命令に忠実で、だんだん可愛く見えてくるのが不思議。

でも今回何よりすごいのはとらの博識ぶり。
水乃緒の呪禁歌と手の印の意味するところを見抜き、後には自身が呪禁歌を思い出してはぐれ外堂を撃退している。
逆光でポーズをつける部分もかなりかっこいい。

もう一人今回かっこいいのは礼子。
さすがに水乃緒の複雑な性格だと麻子や真由子には荷が重いか、と思ったら今回真由子全然出て来てないことに今になって気がついた・・・。

さて潮の性格や背景をその目で見て、礼子や麻子の話を聞いて、潮に惹かれ始める水乃緒と、はぐれ外堂退治に納得いかない潮は別の場所でそれぞれ襲われる。
なのに20巻の最後のページ、「おととしのとら」だし「おうしととら」だし・・・。
脱力して泣くほど笑った。

21巻に入り、後半は俄然潮の精神力の強さが発揮される、かっこいい。
そして立ち直る水乃緒、思いがけなくファーストキスのハプニングもあり、結果的に水乃緒は潮が作品内でキスした唯一のキャラとなった。
まああれがキスといえるかどうか、水乃緒はともかく潮が覚えているかどうかは問題だが。
とらはさすがに口移しではなかったか(笑)。

「昔日に・・・」と歌いだすとら、後半最大のとらの見せ場だが、内容が実は獣の槍の継承者に関してることが興味深い。
歌詞にはどんな意味があるのか、とらもある意味獣の槍によって縛られているという意味なのか。
それともかつて獣の槍の継承者の1人だった人物がお外堂さんを小さき箱に閉じ込めたのか。

それにしても最後に麻子に関して反応した潮、水乃緒のお外堂さんとにらめっこするとらなど、ほろっとしながら笑えるような場面が随所にあって、このエピソードはほんとに好きだ。
潮に惚れたということで、水乃緒も潮を囲む少女たちの仲間入りをするかと思ったけど、残念ながら帰ってしまう。
それをさりげなく見送る潮ととらの後姿も取っても好きだ。
(2013年2月10日の日記)
1月21日 うしおととらの一年事始め
しつこいようだが、斗和子の後でこれですか。
キリオの後で、これですか。
たゆらの後で、これですか。
などかの後で、これですか。
さとりの後で、これですか。

たっぷり泣かせて、その後で、これですか。
あまりのギャップに笑いが止まらない。
紫暮が可哀想とか、とらの悪戯がおかしいとか、でもしっかりバチはあたってるとか、細かくチェックしながらも一気に読んでしまう、とにかくおもしろい。

伝承遊びとか意外と得意そうな潮が案外下手、とかとらが意外と達筆、とか発見も多い。
この話は、きっと新年号にでも掲載されたんだろうな。
当時読んだ人は楽しいお正月を迎えることができたんだろうな、うらやましい。

でも馬鹿やってても、ちゃんと年賀状出してるところが潮らしい。
懐かしいメンバーが続々登場。
鎌鼬兄弟や獣の槍伝承者候補の流や日輪はともかく、もう出て来ないだろうと思っていたメンバーも勢揃いしてたのは嬉しい驚きだった。
それどころが、後でもっともっと重要な形で全員が戻って来るのだが、」こを読んでる時点ではもちろん知らない。
ただただ楽しく、おもしろかった。
「うしおととら」、相性度100%だったなあ・・・。
(2013年1月21日の日記)
12月26日 ブランコをこいだ日
なにしろ「愚か者は宴に集う」の直後のエピソード。
何度も何度も「愚か者〜」を読んでは涙した後だったので、「ブランコ〜」は最初印象が薄かった。
というか、内容があまり頭に入ってこなかった。
なにしろとらと真由子のエピソードがあまりに素敵だったのだ。

逆にじわじわと感動が染み出してくるような、地味で怖いけど、やはり泣かせるのが今回のサトリ。
主役は潮に戻る。
「蒼月潮は嘘がキライだ。」
何をいまさらという一文を冒頭に置いておいて、最後の最後にこう来たか、と驚いた。

前回の真由子の好きな物、で気を持たせておいて、最後の最後に彼の名前を出したのと同じくらい衝撃的。
それにしてもサトリの気持ちがせつないなあ。
人間よりも優しく見えてくるから不思議だ。
優しさのために行う所業の残虐さとの対比がせつなく、恐ろしい。

紫暮が潮の弱点とした潮の優しさ、でも潮はその優しさでサトリを安らかに眠らせた。
後にあんな形でサトリと再会することになるとは当時は全く思っていなかったが、もう泣けて泣けて仕方がなかった。

そして最後。
潮が本当の意味で心を開ける相手、弱みを見せて泣きじゃくることができるできる相手、それは麻子だった。
「愚か者〜」を読んでいなかったら真由子のために悲しかったろうけれど、ここはこれでいいと思う。
そしてここでの麻子は絵的に可愛いかった。
(2012年12月26日の日記)
11月5日 愚か者は宴に集う 2
「愚か者は宴に集う」は見どころがあり過ぎて困るくらい。

・真由子の健気さ
・真由子に化けたとら
・真由子のウェディングドレス
・とらのために身を捨てた真由子を受け止めたとら
・真由子の名前を口にするとら

これが恋でなくてなんだと言うくらい濃厚なエピソードとなっている。
麻子のために自分の恋心を抑えて麻子の恋を応援する姿がいじらしく、でも服装がなんだかなあと(笑)。
さらにとらが姿を隠していても気配を感じ、とらはとらで真由子の隠している恋心を見抜く。

真由子に変身したとらは、きりりとた表情がいい。
危機に陥った真由子を助けるナイトが真由子、これもいい。
無駄にウエディングドレスを真由子に着せるのもいい。
一言一言、一場面一場面、1ページ1ページ、何もかもが素敵過ぎて、逆に感想が出て来ない。

「藤田和日郎魂」のカラーページになってる「宴への招待状」の表紙もたまらなく好きだし。
ただ間違いなく言えることは、ここで恋がひとつ終わって新しい恋が始まったということ。
たぶんとらは恋、ではないと思う。
でもとらと真由子はこの素敵な関係を最後まで保ち続ける。

★「やーだ麻子。
もしかして私が気でもきかしてると思ってる?」
「あら!真由子はそんなものないよねー」

・気づかない麻子が鈍すぎる・・・。

★「とらちゃん どこかへ行こうかー?」
「なんでえー気がついてたのかよ!」
「なーんとなくね わかるのよー。」
「ちっ やりづれー女」

・18巻ではこういったなにげないやり取りがいい。
(2012年11月5日の日記)
9月6日 愚か者は宴に集う 1
「うしおととら」のほとんど全キャラから「感動」をもらった私だけど、「ときめき」をもらったのは真由子ととらだけかもしれない。
次はかがりととらかな?
素敵な恋のエピソードはたくさんあるけど、やはり真由子ととらは一線を画している気がする。
真由子がいなければ、これほど「うしおととら」にのめり込まなかっただろう。

本編の感想に入る前に興味深かったことが一つ。
この話では、とらが初めて真由子の名前を呼び、それが強い印象を残す。
ここを読んで「犬夜叉」の逆髪の結羅編を思い出した。
逆髪の結羅を倒した後、犬夜叉が初めてかごめを名前で呼ぶ。
つまり初めて仲間と認めたことになるのだが、これはどうしてだろう。
「犬夜叉」が「うしおととら」の設定を踏襲してると言いたいのではない事は確認しておく。

いつも考えてることなのだが、私たちが普通に語る妖怪(河童など)と、「犬夜叉」「うしおととら」などに出て来る妖怪は全く別物である。
普通の妖怪は完全に人間によって生まれたものであり、人間は創造主の権利を行使して妖怪に名前を付ける。
でも妖怪側では人間にそれほど関心を持たない。
たいていは餌か獲物、敵、もしくは関わらない者として存在する。

仮に彼らが人間を語るとしても、たとえば「山の麓の一本杉の根元の小屋に住んでる人間」程度にしか言わないだろう。
あの背の高いのは長太郎、肌が白い女は雪、などと人間に名付ける妖怪などまずいないだろう。
実在の?妖怪は、人間と「犬夜叉」や「うしおととら」のような関わり方をしないのだ。

ではこうした物語に登場する妖怪は?
彼らはむしろ人間の別種属と分類していいだろう。
衾のような、あんなどーでもいい(笑)妖怪ではなく、とらや犬夜叉、殺生丸や鎌鼬兄弟のような、ビジュアル的にも人間に近く、知能の高い妖怪たちである。
彼らは基本人間の名前を呼ばない設定にされている。

これは「犬夜叉」以前にもどこでだったか忘れたが何度か見かけた設定だ。
人間が妖怪に親しみを持って、気軽に名前をつけたり読んだりするのに比べ、彼らはよそよそしい。
自分のペット以外の動物にいちいち名前をつけたりしないように、人間の個性に関心がないように見える。
とらなど「まゆこ」と言いにくそうにしていたので、便宜上普通に会話している人間と妖怪でも、日本人が英語を話すときのような口の回らなさはあるかもしれない。

とらが名前を読んだのはうしお、真由子、紫暮、流くらいではなかったか?
私が読み落としていなければ、麻子でさえ「潮のような女」で片づけられていたような・・・。
巴御前の名前を覚えていたので、その気になれば言えるだろうが、この「名前を呼ぶ」ことが妖怪にとってその人間を特別な存在と認めた証という設定が以前からあるのではないだろうか。
かがりなど妖怪同士の名前は普通に読んでるので、特にそんな気がするのだが。

なぜこんな設定が存在するのか。
「犬夜叉」でも「うしおととら」でもこの設定がとても効果的に生かされていたので、その設定がどこでできたのか知りたい。
(2012年9月6日の日記)
8月25日 麻子の運動会
キリオの後で運動会・・・。
斗和子の後に運動会・・・。
この凄まじいまでのギャップに驚愕した読者は多かっただろう、かくいう私もその一人(笑)。

疲れ切った潮と何も知らない麻子と真由子だけに仕方がないとはいえ、なんとものどかな光景が続く。
あれだけの怪我をした紫暮もいたって元気だし、蒼月一家はとことん不死身。
かっこいい潮を見たい麻子の奮闘も目立つが、私はやっぱり真由子が可愛い。
限りなくレトロな雰囲気の運動会、じゃなくて体育大会に見えるのは、やっぱりブルマ―のせいか。

笑える中に一抹の切なさがあるのは、やはり何も気づかない麻子と、麻子の恋心を見抜いている真由子の差だろうか。
でも最後のページの頬を染めている麻子は確かに可愛かった。

あのシリアスなキリオ編の後に、あえてこんな話を持ってくる。
この頃の作者は本当に何かに憑かれてたんじゃないかと思うほど、打つ手打つ手がびしりと決まる、その心地よさ。
そしてこの後、次のエピソードの表紙を見てまたまた驚愕、遂に真由子が主役になるのか。

真由子の恋は実るのか?より真由子ととらはどうなるの?
そっちが気になる次回に期待。
(2012年8月25日の日記)
8月12日 檄召〜獣の槍破壊のこと 2
潮とは対極にいる存在と思われていたキリオ。
他人を思いやる気持ちを持たず、どこまでも論理的で合理的。
その性格はとらと戦う九印によって語られるが、九印が潮をけなすことがとらには許せない。
潮の方がキリオより強い、その性格ゆえに。
そして当然のことながらとらの方が強い、キリオの守護者たる九印よりも。
この戦いながらの問答は本当に見事だった。

そして潮と日輪、流ととらから、今度は潮ととら、流と日輪のコンビに戻って戦いが続く。
潮ととらは当然としても、流と日輪のコンビもまた強く、おもしろい。
ただここでの流を見ていると、潮を認めきっている節がうかがえ、最後の章の展開が、未だに私は納得していない。
かなわぬ戦いを挑むには、桁が違いすぎるのではないか、流はそれを見切る人間ではないか、受け入れる人間ではないか、未だにそう思っている。

まあそのことに関してはその章で書くとして、ガミガミ怒鳴る日輪と、飄々としている流の掛け合いは危機にあってもおもしろい。
さらに物語の中で「小物」にしかなれないことを自覚している人々、でも強者として戦いたかった人々、おそらくほとんどの読者を代表する若き法力僧たちはせつなかった。
満を持しての登場は紫暮、封印された獣の槍を取り返したのは潮、九印を怯ませる強さを見せたのはとら。
そして引狭の日記を通してキリオの過去が語られる。

強い子、哀れな子、恐ろしい子、引狭霧雄。
でもそのキリオすら凌駕するインパクトが斗和子、怖すぎる・・・。
顔も怖いが、最後の最後までキリオを苦しめぬいて死んでいく、その惨さ。
しかもよく見ると巨大な全裸?恥ずかしすぎる。

裏切られたキリオの苦悩も可哀そうだが、ここでの斗和子はラスボス白面の者を凌ぐグロテスクさがあって最高に好き。
「ぼくをだましてたなんて、ウソだよね・・・?」
「ええキリオ・・・愛しているわ・・・」
美しく恐ろしい笑顔。

斗和子は最終決戦で再登場するが、この時はこの不気味な魅力は影も形もなく、ただいるだけだった、残念。
傷ついたキリオはただ一人去り、潮はただ見送るしかない。
キリオがどんな形で戻ってくるか、この時は想像つかなかったが、作者はこの後、意外なコンビ?に仕立て上げる。
あれは嬉しい驚きだった。

それにしても「うしおととら」はおもしろい。
息をつかせぬおもしろさ、予想を裏切るおもしろさが続く。
当時サンデーで読んでた読者が本当にうらやましい。
とらの足の裏は本当に可愛いなあ。
(2012年8月12日の日記)
7月7日 檄召〜獣の槍破壊のこと 1
今回のタイトル「檄召」の意味がわからない。
「檄」とは昔の中国で人を呼び集める主旨を記した木札で、「檄を飛ばす」と書いて、自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求める意味で使ったりするのだそうだ。
「檄を飛ばす」と書いて叱咤激励する意味で使うのは間違っているとのこと。

「召」はまあ「呼び寄せる」でいいと思うが、これは一度失った獣の槍にかかっているのだろうか、それともキリオ(斗和子)に操られた者たちにかかっているのだろうか。
大きく章のタイトルにかかっているので前者でいいと思うが、未だに意味がよくわからずにいる。

さて、これまでどんなにやられてもひるむことなく戦い続けてきた潮に、遂に挫折の危機が訪れる。
きっかけは日崎御角の死。
自分の弱さゆえに御角を守り切れなかったと自分を責める潮。
紫暮は紫暮なりに、とらはとらなりに潮を力づけようとする。
とらは潮に戦いを挑み、杜綱兄妹ら他の伝承者候補も紫暮より連絡を受けて駆けつける。

悟の課した試練を乗り切った潮、そして新たな相棒?を見つけたとら、光覇明宗の今後を憂える紫暮と和羅、光覇明宗の若き法力僧たちを取り込むキリオ、そして何やら画策する斗和子。
このキリオの「ママ」斗和子がいい。
すでに人ではなく、究極の悪であることが、その表情からも明示されているが、後で明らかになる斗和子の恐ろしさは予想をはるかに超えるものだった。
また、これもまた究極のヒールと思われたキリオが実は・・・と見事な展開が続く。

ちょっと先走り過ぎたが、とらは流と再会し、行動を共にしていた。
とらがその名を呼ぶ「人間」は本当に少ないが、流もその一人(ただしカタカナ、この意味は大きい)。
潮を心配する気持ちを流に見透かされ、大騒ぎのとらがかなり笑える。
一方キリオに襲われた潮を助けに来た、というより潮を「慰めに」来てたまたま助けた日輪も潮と合流する。
ここでちょっとおもしろい「流ととら」「潮と日輪」コンビが登場、息の合った連携を見せることになる。

潮にガミガミお説教の日輪がいい。
大きなコンプレックスを抱え、理屈っぽい女の子だけど本当はいい子なんだよなあ。
私が好きな女性キャラベスト5には軽く入る。
和羅によって明かされるキリオの過去とエレザールの鎌の秘密。

流ととら、潮と日輪はその大元となった場所「囁く家」に向かう。
流ととらはほとんどギャグ。
「ししゃも焼く家」には泣くほど笑った、流の「ちむ」には死ぬほど笑った。
とらは誰と組んでも(その気はなくとも)パートナーを引き立てるなあ。
見ることなく終わったが、キリオととら、九印ととらのコンビも見てみたかったと思う。

一方最初はぎくしゃくしていた潮と日輪だが、こちらも日輪が潮の凄さを見直す形で連携が形作られていく。
「潮と〇〇」「〇〇ととら」というように、語感のせいもあるが、誰と組んでも潮は主となり、とらはサポートに徹する位置づけがしっかりしているのはかなりポイント高い。
(とらは麻子や真由子といてさえある意味サポート役に徹する、真由子ととら、麻子ととら)。

囁く家でもう1人?気に入ったのがメイ・ホー。
メイド型ホムンクルスだが、引狭か斗和子が雑用係として作ったのならかなり笑える。
怖いけど可愛い、特にその最後の姿が愛らしく、うちにもらって来たいくらい。
(2012年7月7日の日記)
6月10日 四人目のキリオ
このタイトル、なんとなくキリオがこれまで3人いたような錯覚を起こさせるが(笑)、引狭霧雄。
変わった名字だが、特に意味はないのだろうか。
キリオは4人目の伝承者だが、これまで出て来た者たちとは一線を画し、すでに「エレザールの鎌」を持ち、九印というパートナーを得ている。
そのため、最初から獣の槍に対する執着はなく、いわゆる伝承者とはちょっと違う存在である。

この少年が潮やとらに見せる態度は傲慢でどこか不気味なのだが、それでいて最初に出会ったのが真由子なのが後の大きな伏線となる。
くらぎとの戦いでキリオはその凄さの一端を見せるが、今回に限って言えばお役目様こと日崎御角と妙に可愛い凶羅の陰に隠れてしまった感がある。
潮との出会いで昔のぬくもりを思い出すお役目様、「日崎御角をお忘れかい・・・」「私は二代お役目!日崎御角ぞ。」、台詞がいちいちかっこいい。
しかもそのお役目様にやり込められ守ろうとし、、自分なりにその死を悼む凶羅。
最初に出た頃は、「うしおととら」で唯一良心のないキャラだと思っていたが、こんな風に変貌を遂げるとは・・・。

一方潮はキリオに振り回され、とらは九印に挑発され、と今回はあまり見せ場なし。
キリオ編は長い長いエピソードなので、話が進むにつれ、意外なコンビが誕生したり、潮やとらにもそれぞれ見せ場が出て来るのだが。
意外だったのが九印の可愛さ。
性格などはまだはっきりしないが、ビジュアル的に可愛い。

最初から「ピエロ」を意識していたのかどうかはわからないが、私には虫っぽく見えた。
口調や態度は傲慢だが愛嬌があるというか、キリオに比べて「悪」を見せないというか、キリオ一筋で含む物がないというか。
そしてもちろんとらに比べりゃ最新型だから、とらを古い古いと(その気はなくとも)揶揄する。
本気で怒ったとらにやり返されて、それからはとらをライバルとして認めたようだが、戦いながらのとらと九印の会話は楽しい。

潮はキリオにこれまでの戦いを全否定されるわ、お役目様は亡くなるわ、キリオがよりスタイリッシュに戦うわでかなり悲惨。
この気持ちの浮き沈みが潮の特徴であり、ある意味強さの源であるが、確かにかなり危険な部分でもある。
迷うことなく戦う世界から、一歩進んで潮は自分の成長と向き合うことになる。

今回は他に潮の母須磨子や白面の者、魅力的な敵くらぎ、日崎御角を迎えにきたジエメイなど豪華に登場でおもしろかったが、最後のページに出て来たキリオの「ママ」が綺麗なのに不気味過ぎて、ママの前では普通に可愛いキリオが突然哀れに思えてきた。
キリオとママが組んで悪行をするというより、どう見てもキリオがママに騙されてるようにしか見えなかったから。
それでも潮ととらは強いから、キリオもまた改心してめでたく潮の仲間になるとばかり思っていたのだが・・・。
(2012年6月10日の日記)
5月27日 HIGH DPEED EATER
やっと帰ってきた潮。
ピンポイントで笑える部分やほのぼの部分が多いのだけど、トータルでランクは割と下なエピソード。

まずは冒頭潮の夢が凄い。
かなり笑えるけど、悪夢、なんだよな(笑)。
中でも一番怖いのが日輪ってところが何とも言えない・・・。
前回の活躍もどこへやら、すっかりギャグに戻った紫暮もなかなか。
右下の照道さんの顔もなかなか。

何より潮と真由子、じゃなかったとらの真由子の再会もいい。
「はう? とらちゃん!!」

極めつけは真由子の部屋と真由子の家族。
変な物がいっぱいで、とらもすっかり気に入った様子。
この時は気づかなかったけど、後で出て来るペナントもちゃんとある。
変な壺持ってるお父さんと、真由子のベッドの隣りに布団敷くなんて言い出すお母さん、好きだなあ。
でもこのお母さんはいたって普通の人間らしい。

ただ他の部分が引っかかる。
麻子が麻子らしくなく、真由子が真由子らしくない。
戦わない麻子なんて、麻子のことを心配しない真由子なんて違うんじゃない?
そう思ってしまった。

戦いの場面はスピード感に溢れていたが、やっぱり最後はとらの貫禄勝ち。
麻子を受け止めた潮と麻子の会話は良かった。
最後のとらの台詞、蛇足に思える。
車社会への警報ならば、むしろ「飛頭蛮」編であっちこっちぶつかっていた方がとららしくて良かった。
(2012年5月27日の日記)
5月14日 時限鉄道
バスに乗ってもバイクに乗っても船に乗っても飛行機に乗っても何かかにかに襲われる羽目になる潮ととら。
飛行機はもう嫌だと、本州への移動は汽車を選んだ潮。
親子揃ってのはしゃぎっぷりが半端じゃないが、ここで彼らに新たな危機が。
衾の時もそうだったが、別に潮を狙って現れたわけじゃなく、たまたま居合わせた形になっているのが潮の不幸。

そして今回の山魚もまた、可愛い(笑)。
読者の応募により作られた妖とのことだが、ただ人を喰うために、何も考えずにひたすら追いかけてくる理不尽な怖さがある。
さらに潮ととらを追って凶羅まで乗り込んで来た。
一般人の巻き添えも、妖の襲撃すら気に留めず、潮と戦いたがる凶羅、こちらも下手な妖よりずっと怖い。
そして負のキャラ代表野村、何とかして彼を導こうとする教師の岡田と今回も個性豊かなキャラが事件に巻き込まれる。

でもやっぱり今回の主役はとら!
そして可愛さ代表山魚!
かっこよさ代表は紫暮!

あまりに何度も読み過ぎて、感動を超えた部分に反応するようになってしまった私のアンテナ。
「小さい芽にバケツで水をかけても、受けとめられんわなあ。」

野村の存在にストレスをためてる潮を凶羅が襲う。
法力の気配を察知したのは紫暮ととら。
襲い来る山魚の気配を察知したのはイズナ。
野村は確かにどうしようもない少年だけど、この北斗星の中で一番危険な目に合う一般人という意味では確かに不運。

けれど北斗星に乗り合わせたほとんどの人々にとって、潮ととら、イズナに紫暮、凶羅までがいたことは、信じられないほどの幸運だった。
先制攻撃を仕掛けたのはとら。すぐ捕まるけど。
混乱する人々を紫暮がまとめ、凶羅はここでも暴れる。

相変わらずマイナスオーラ全開なのは野村だが、「うしおととら」に出て来るキャラが凄すぎるのであって、野村のような人間の方が実際は多いと思う。
あるいは凶羅に殴られたけど、あの男性とか潮を怒らせた学生たち。
ただ潮は力があるから戦ってるんじゃなくて、仮に獣の槍がなくても全力で戦っていただろうから、ある意味潮に野村が理解できないのは無理もないと言える。

紫暮と岡田はまじめに?戦っているのに、潮ととらは、まるでギャグ(笑)。
山魚のアクセサリーのようになってるとら、可愛い。
ここでイズナも大活躍。
全く凶羅は何やってんだ?な読者の溜息をよそに、時限鉄道のカウントダウンは続く。

最後のチャンスは凶羅の武器穿心角を用いた降魔捨法「威颶離」。
力を持つ者たちだけでなく、全ての人々の「心」が試される。
クライマックスはなぜか笑える、とら大活躍。
でも涙がにじんでくるような、潮や紫暮やイズナや岡田や乗客たちや、そして野村や凶羅までも!のがんばり。

人々は皆ここで生き残り、生まれ変わった。
そして十年後・・・えっ?
何?この平和な世界。
この日から十年の間に何事も起こらないかのような、そこはかとない違和感が残ったのは残念だった。
(2012年5月14日の日記)
4月29日 獣の槍を手放す潮
泣くほど笑ったおもしろさの割には平凡なタイトルだけど、確かに今回はこれが全て。
これもまた「汚くてずるくて浅ましい」人間(潮)がとらを打ちのめす(笑)。

垂のために、獣の槍を手放すことを決意する潮。
確かにあの時点では心底そう思っていただろう。
だからこそ全てを救う使命を捨ててまで一を救おうとする潮の決意の重さが示された。
でも今回の話を読むと、心のどこかでは獣の槍は潮を守るためにもあるとわかっていたようだ。

可哀そうなのはとら。
いざ潮を喰おうとする、槍に襲われる。
2度目に潮を喰おうとする、槍にはたかれる。
3度目に潮を喰おうとする、槍に襲われる。
4度目に潮を喰おうとする、槍に刺される。

泣きながら泣きながら泣きながらがんばるとら、可愛い。
そしてちょっと潮、ずるいと思う(笑)。
でもやっぱり2人はいいコンビ。

そしてその間に仲良く蕎麦を食す紫暮とイズナ、学校に戻った礼子や麻子、真由子の様子が描かれる。
間崎さんもなかなかいい味出してるし、短いけれど本編に負けない濃い味を出してるエピソードだった。
まあこれは理屈じゃなく、潮ととらの掛け合いを読んだり、とらの表情を見ることを楽しむべきか。 余談だが、「雪垂」と書いて「木の枝などに積もった雪が落ちること。また、その雪。ゆきしずれ。」という意味だそう。
垂、綺麗だったし性格も健気で可愛かったし、なのに名前までこんなに合ってるんだからなあ。
(2012年4月29日の日記)
4月15日 暁に雪消え果てず
潮獣化から時を越えて古代中国まで遡り、獣の槍が生まれた理由と潮こそ槍の持ち主であることを知った潮ととら。
クライマックス第1弾とでも言うべき話を終えて、今回は軽く息抜きなサイドストーリーだと思っていたらそうでもなかった。
相変わらず潮は熱かった。
吹雪の札幌、潮ととらが出会ったのは美しき雪娘。

美しく、けなげな垂。
外見も中身もかっこいいヤス。
「色事」には疎いけれど、やっぱり放っておけない潮。
とらも潮に獣の槍を手放させるために大活躍。

いつもの感動があったけど、何度も何度も読んで、最後に強烈に響いてくるのは朝霧だ。
娘を失う悲しみ、自分を捨てた男への憎しみと、やはり思慕。
娘の恋がかなう喜び、でも自分はやはり幸せになれなかったその辛さ。
全てを抱え込んで、朝霧は娘をヤスの元に戻し、去って行く。
最後のページの泣き顔を見た時と、潮ととらの最終決戦にいきなり登場した時は、本当に涙が止まらなかった。

ただ今回は、物語の根本にかかわる大きな問題が出てくる。
垂を助けるために、獣の槍を手放すことを決意する潮。
獣の槍がどうやって生まれたか、潮の使命は何か、それを知った後でのこと、この意味は大きい。

少年漫画だし、ここで潮が失敗して獣の槍を失うことはあり得ないとしても、やはり軽はずみだなあと思う。
とらも実際に潮を食うことはないだろうが、「潮成功」の前提の展開は、古代中国編の直後なだけにちょっと辛いものがあった。
一を助けるために、後に日本が、いえ地球規模で滅びることだって本当はあるはず。
その時潮は失った諸々に関して後悔せずにいられるだろうか。
でも潮なら、漫画前提というだけでなく、絶対にやってくれる、という信頼感も同時にある。
そんなキャラを作り上げた作者はやっぱり凄いと思う。

今回のヤスはかっこよすぎて笑えるほどだったけど、垂は本当に綺麗だった。
いい意味で絵が汚い(笑)漫画だけど、綺麗な女性を描く時は本当に綺麗に描くなあ。
でもこのタイトルって思いっきりネタバレな気がする・・・。
(2012年4月15日の日記)
3月31日 時逆の妖ー2
潮ととらが連れて行かれた古代の中国。
王の寵愛を受けている女性が白面の者の化身のようだが、モデルは妲己が想定される。
妲己は中国殷王朝末期(紀元前11世紀頃)の帝辛(紂王)の妃。
(紀元前11世紀は紀元前1100年から紀元前1001年まで)。

稀代の悪女として有名だが、同時に九尾の狐や日本に来ての玉藻前伝説など魅力的な存在でもある。
そんな九尾の狐が白面の者に姿を変えて「うしおととら」に登場する。
おもしろくならないわけがない。

私は「うしおととら」が32巻まで続くことを知っている状態で読んだが、連載当時は、「これで終わるんじゃないか」と読者に思わせただろう展開が何度も出てくる。
登場人物が勢ぞろいする場合もあるが、それよりもここで終わってもおかしくないと思わせるほど濃い展開が随所に見られるからだ。
潮を想う5人の少女が登場して獣化した潮を人間に戻し、帰って来た潮はとらと共に白面の者(の部分だったが)に会う。
ここで白面の者との死闘が始まって勝利の大団円でも十分あり得る。
(ここでの白面の者が本体であったらの条件付きだが)

しかし北海道への旅を終えた潮ととらは、今度は古代の中国へ向かうのだ。
新たなる始まり、潮ととらは生前のジエメイに会う。
今のジエメイは霊魂となっているが、優しい中にもきりりとした貫禄があって、人ならざる者の神秘性を感じさせる。
でも生前のジエメイはごくごく普通の愛らしい少女だ。

彼女がこれほどまでに変化を遂げた理由がここで明かされる。
そして「獣の槍」が生まれたわけも。
「剣」を打ってたはずが「槍」に変化したわけも。
あまりに惨く、凄まじい。

そして潮、これまで知らなかった母のぬくもりを初めて知り、その「母」の無残な最後を見てしまう。
ジエメイ、その父、その母、その兄、いずれもが白面の者のために無残な最期を遂げてしまう。
獣の槍を使える者は、潮でなければならなかった、それは槍が生まれた時から定められた運命だった。
ならばこれまで槍を手にして運命を狂わされた幾多の者たちは何だったのか、という疑問が生まれる。

無数の「字伏」を生み出すため、という実は都合のいい設定なのだが、その都合良さを感じさせないほど彼らの運命が描き込まれているので、最終話までに見事に完結でき得た。
ただし日崎御角がおりながら、伝承者を模索し続けた光覇明宗はちょっと可哀そうな気がする。
自らの運命を悟り、白面の者を倒す決意を新たにする潮、一方とらは獣の槍の誕生に「何か」を思い出しかける。
思いっきり笑える場面がその謎を吹き飛ばしてしまったが、とらもまた獣の槍と深い関わりがあることを後で知ることになる。

潮もとらもまだわかっていないが、ここで読者は知る。
潮ととらこそ獣の槍を受け継ぐべき者たちだった。
潮ととらこそ白面の者を倒すべき者たちだった。

ここから話は一気に加速するかと思いきや、北海道から帰る旅が始まり、潮もとらも当然のごとく獣の槍にまつわったりまつわらなかったりする(笑)トラブルに巻き込まれることになる。
(2012年3月31日の日記)
3月6日 時逆の妖−1
潮復活!
喜ぶ間もなく、とらを呼びつけ、碑妖退治に向かう潮。

「とら!来いっ!!」
「蹴散らせええ!」
「よそ見すんじゃねえや!槍でぶっとばすぞおっ!!」

潮がたまらなくかっこいいけど、それ以上に嬉しそうなとらが可愛い。
上の潮の台詞にとらの反応が入ると

「とら!来いっ!!」
「・・・・・・!」

「蹴散らせええ!」
「わかったよォォ!!」

「よそ見すんじゃねえや!槍でぶっとばすぞおっ!!」
「くくっ・・・ くっくっくっくっく・・・・・・ はーっはっはっはっは。」

狂ったように暴れ回るとらの姿が描写される。
しかも間に

「ひよー、こいつこんなに強かったのかよ〜」
とあきれて潮に槍で「ごっちん」されるカットもあるし。
ちなみに「ひよー」って碑妖にかけたギャグ?まさかね(笑)。

潮が人間に戻って、嬉しいんだろうな、とら。
嬉しくて嬉しくて嬉しくてたまらないんだろうな。
私も嬉しかった。
潮が人間に戻って、とらのために嬉しかった。

潮復活で一気に形勢が逆転し、大ピンチに陥っていた紫暮や真由子たちも助かる。
ここでみんなで良かったねと一休みするかと思えば、潮ととらは槍の導くままに洞に向かう。
洞の前で待ってるイズナが可愛い。

さっきまでのシリアスが一転、いつもの漫才喧嘩をやらかしながら入っていく潮ととら。
彼らを迎えたのは「白面の者」の一部、そして妖怪時逆。
時逆に連れられて、潮ととらが見たのは830年ほど前の白面の者と「とら」を含む人間と妖たちとの戦い、そして踏み込んだのはさらに遡って2200年ほど前の中国。
獣の槍が生まれた時代、ジエメイが生きていた場所だった。
そして獣の槍に宿る謎の男もまたジエメイの兄であることが明かされる。

そこに至るまでのこのスピード感、怒涛のごとく押し寄せる台詞に翻弄されつつ、息つく間もなく読まされてしまう。
読むというより言葉がまるで絵のように頭に入ってくる、絵と言葉がまるで映像のように入り込んでくる。
本当に凄い。
(2012年3月6日の日記)
2月23日 変貌ー3
3人目は檜山勇。
うしおに助けられ 父の仇を討った少女。

5人の中で一番可哀そうな立ち位置にいたのが勇だったと思う。
持って生まれた気の強さと潮への想いから麻子と張り合う。
麻子はヒロインだし、他の3人があまりにいい子なので勇の存在だけが浮いていたような気がした。
そんな勇だったが、麻子と潮の絆に打たれ、自らの恋を諦め、麻子と仲直りし、潮を救うために全力を尽くす。

短距離走のスタートと、飛行機の離陸を重ねて、勇は彼女でなければ渡れない、壊れた橋を駆け抜ける。
かっこいい。
これで最後に旅館で麻子と悪のりがなければ良かったのになあ。
仲直りの証だろうけど、この2人はどうにも浮いてる。

そして4人目。
井上真由子
麻子とともに幼稚園の時から、うしおを見ていた幼なじみ。

この「うしおを見ていた」にはとても深い意味が込められているけど、ここではとらとの掛け合い(時に漫才)、息の合った連携を堪能した。
川に落ちそうになる真由子をハラハラしなが見守るわ、食おうとした瞬間抱きつかれるわ、崖から落ちそうになる真由子を助けるわととら大活躍。
ちなみにコミック何ページになるのかな?
「しん」の効果音で真由子をとらが助けるところの、真由子の表情がきりりとしていてとてもいい。
たぶん驚いた表情なのだろうけど、こんな顔する真由子は珍しい。
後でとらが化けた真由子もとても凛々しい、時にはとても鋭い表情していて大好きだった。

なんとなく中途半端だったとらも、ここで本気を出して潮に立ち向かう。
とらと真由子のこんな時ですらほのぼのとした雰囲気が、一気にきーんと張りつめたものに変わり、真由子が全身全霊の想いを込めて潮の髪をすく。
そして櫛は麻子へ。

それまで必死に結界を張っていた紫暮たちも碑妖に追い詰められつつある。
そこにかっこよく登場したのはヒョウ、そして最高の見せ場が麻子。
どんな大アクションになるかと思いきや、この期に及んで麻子の名を呼ぶ潮と涙ぐむ麻子の静かなショット。
あまりにも当然な展開だけど、潮も麻子が好きなんだ、と素直に思う。
でも真由子が失恋したとは思えないのはやっぱりとらがいるから。

中村麻子。
中学二年生
幼なじみ。

一番そっけない紹介に万感の想いがこもる、見事だ。
潮復活はまた次回。

★今回のお気に入り。
・真由子に振り回されるとらと爆笑するイズナ。
「だからきっと今度も、うしおくんのために、私達を助けてくれるのよ。」この無条件の信頼!
・「この、たわけっ。川に落ちてばっちくなったら味が落ちるだろっ」
・「ぬかるなよ、女!」「はいっ!」
・「おまえは人間だろが!汚くてずるくて浅ましいくせに、生きよう生きようとあがく人間だろうがよ。」血を吐くようなとらの言葉。
・泣きながら潮に触れ、髪をすく麻子、誰も彼女にはかなわない。

何度読んでも「うしおととら」は最初から最後まで作者の想いがストーリーと共に怒涛のように押し寄せてくる。
そして今、「月光条例」を毎週読んでいるけれど、作者の想いはストーリーの壁に阻まれてこちらに伝わってこない。
壁の向こうで煮えたぎっているのは感じるのに、何を伝えたいのか十分にわかっているのに、なぜだろう。
もどかしい、たまらなくもどかしい。
(2012年2月23日の日記)
2月4日 変貌ー2
獣となってしまった潮を救うために集まった者たち。
潮の父紫暮を初めとする光覇明宗のメンバー、符咒師の鏢、そして麻子、真由子、礼子、勇、小夜。
潮に縁のある少女たちがある櫛で髪をすけば戻るという少々唐突な設定が出てきたが、これまで獣になってしまった獣の槍を手にした者たちは、そういう存在がいなかったということなのだろうか。

逆にどういう基準で獣の槍の担い手が選ばれてきたかが気になる。
この後の展開で、獣の槍の担い手は、潮以外にいないことがわかってからは余計そうなる。
字伏を生み出すために必要だっただけなのだろうか、その意味は最後まで明かされなかった。

それはさておき、潮の髪をすく1人目は羽生礼子。
「うしおによって鬼となった父から解放された同級生。」
父を憎むことなく解放され、明るい性格になり、友達もできた。 そんな礼子は、潮を救うために傷つくことも怖くない。

そんな礼子を守ろうとする麻子にとらが言い放つ。
「ここまできちまったらやるべきことを一人ずつやれや!!」
とらが本当にかっこいい。

2人目は鷹取小夜。
「うしおに、その忌まわしき運命の鎖を断ち切られた娘。」
日輪が作った結界、人が入れば死んでしまう結界の中に身を削って入ろうとする。
彼女たちの体験したことに関連した方法がなされているのが大きな効果を上げている。
(2012年2月4日の日記)
12月12日 変貌ー1
潮が獣化した。
もう獣化するはずはない、潮は耐えた、無事終わった、と一安心させた、その瞬間。
ここから物語は予想外の展開を見せる。
とらを襲う潮、朏の陣すら突破する潮、そしてカムイコタンへと導かれる潮。

ここで「朏」の陣と、「カムイコタン」についてちょっと調べてみた。
「みかづき」と読むし、結界が三日月の形をしているから、意味は分かるのだが、なぜ「朏」と書くのか。
「犬夜叉」でもお馴染みの朔の日(新月)から数えて3日目頃、細い月が人の目に留まるようになるという。
2日目の月は、まだ細すぎて、なかなか気づかれないのだという。

だから3日目に初めて「月が出た」ように見える、だから「朏」と書いて「みかづき」と読む、なるほど。
そういえば先日の皆既月食、私も時折玄関に出て空を見上げていたが、驚くほど細い月を見ることが できた。
その時に思い出したのが、「殺生丸」と「朏の陣」だったから、我ながら笑える。

そしてカムイコタン。
私は藤田先生の造語だとばかり思っていたけれど、北海道旭川市に実在する地域で「神居古潭」と書き、 アイヌ語で 「神の住む場所」の意味があるのだそうだ。
古く縄文時代の頃より集落があった痕跡があり、アイヌの伝承も残されているところから「うしおととら」の舞台に 選ばれ たのだろうか。
素晴らしい景勝地であることから旭川八景の一つにも選ばれているらしい。
行ってみたい。

そのカムイコタンに引き寄せられたように疾走する獣化した潮を救えるのは、潮に縁ある少女が、潮の身を案じ、 ある櫛で潮の髪を一心にすくこと。
真由子と似た風貌を持つ初代お役目ジエメイが告げた相手は光覇明宗指導者であり、二代目お役目でもあった 日崎御角。
若い頃、飛頭蛮(餓眠様)を封印した女性でもある。

唐突な展開ではあるけれど、櫛が選んだ?少女は麻子、真由子、小夜、勇、そして礼子。
潮に関わりの深い真由子、麻子、礼子や不思議な力を持つ小夜はともかく、勇はちょっと違う気がした。
同時に潮に恋してる真由子、麻子、小夜、勇はともかく、礼子もちょっと違う気がした。
たとえば純や日輪にも十分資格はあったと思うけど、彼女たちは別の役割があったから、ということなの だろう。

ジエメイの導きにより、5人の少女が北海道に集結する。
そして潮の父紫暮、符咒師の鏢、光覇明宗の者たち、もちろんとら、イズナも。
少女たちの潮への想いが奇跡を起こせるか、息詰まる展開が続くが、そんな中でも笑わせてくれるのがとら、 そして 真由子。
とらとイズナや鏢や真由子とのやり取りは一服の清涼剤にも似て(笑)、ここまで来たら、もうとらから 目が離せない。
(2011年12月12日の日記)

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