おいしい本をさがす道


8月27日 図書館の死体〜エンチラーダ
食堂の名前は<ニア・エンド>。 姉さんはそこで、チキンステーキ、エンチラーダ、ぺカンパイといった料理を作るコックをやっている。           ☆           ☆           ☆          

コージーミステリの中に、なんとなく好き、という作品がいくつかある。
その代表的な作家がコニス・リトルと今回紹介するジェフ・アボット。
特におもしろいわけではなく、キャラが魅力的なわけでもない、ちゃんと殺人は起こるし、恋愛、どろどろした人間関係もある。
どこがいいかというと、その文体。
えらく淡々としているのである。

どうしても過剰な描写に走りがちなコージーが多い中、抑揚がない文章というのはどこか新鮮で、そこが好き嫌いの別れる部分だろうけど私は好きだ。
物語自体が淡々としているわけではないし、出てくる人物にもクセはある、むしろ嫌いなタイプが多い(笑)、そこがおもしろい。

さて「図書館の死体」を1作目とするこのシリーズ、文庫本なのに、ハードカバーの全集みたいな装丁にしたのがまず気に入り、「図書館」と銘打っているところが気に入り、舞台がテキサスであることにさらに気に入り、作者、訳者、主人公が男性であることが気に入った。
主人公がかっこ良くて関わる女性が美人揃いで、というありきたりな設定ではあるが、主人公の名前が「 ジョーダン・ポティート」なのに、最初になぜか「 ジョーダン・ポテ ト」と読んでしまい、さすがコージーの主人公、おいしそうな名前だなあと思ってしまったのが運の尽き。
私の中ではこのシリーズはコメディミステリーになってしまっている。

舞台がテキサスなだけに出てくる食事はテックスメックス、いわゆるテキサスとメキシコの料理が融合したような?料理。
実は私、アメリカはテキサスとフロリダが好きで、アメリカに行くといつもこの2州は欠かさなかった。
ドラマの「CSIテキサス」とか作ってくれないかなあと心ひそかに願ってるほど(笑)。
でもエンチラーダは食べたことがなかった。

Wikipediaによれば「トウモロコシのトルティーヤを巻いてフィリング(具材)を詰め、唐辛子のソースをかけた料理である。
フィリングには肉、チーズ、豆、ジャガイモ、野菜、魚介やそれらの組み合わせ等、様々な具材が使われる。」とある。
私はこれを偶然だけど、先日(「図書館の死体」を読む前に)浅草の「ラ・ファミリア」というお店で食べた。
気さくで笑えるマスターにアットホームな雰囲気、こってりに見えるけど食べるとあっさりヘルシーなお料理。

いかにもメキシカンな雰囲気にごてごて飾られてるのがかえっておかしいけれど(笑)、さすがにここは浅草であるということを忘れさせるほどのインパクトはなかったかな?
浅草というとどうしてももんじゃとか和食に走りがちだけど、いいお店見つけた、また来よう、と思えるいい感じ。

他にも「ユカタン風グリルチキン」とか、「ワカモレ」なんてメニューもあったので興味津々。
ユカタン風で思い出したが、ちょうどその日、私は古本屋さんで買ったばかりの「Xファイル」ノベライズ「遺跡」を持ってて、その舞台がユカタン半島だった。

それもあってメキシコ料理のお店を選んだのだけど、エンチラーダを食べながらメキシコを舞台にした本を読むのもなかなか良かった。
「Xファイル」のノベライズはいくつか出てるけど、それこそ映画化して欲しいくらいおもしろいものばかり。
週単位で制作するドラマ版には無理な凝った演出で作って欲しかったと未だに思う。
「Xファイル」映画はスケールこそ大きかったけど、政治的要素も強く、おもしろさには欠けた気がする。
スケールやストーリーよりも凝った演出、Xファイルに必要なのはそれだった。

★東京都台東区駒形1-12-10「ラ・ファミリア」
(2013年8月27日の日記)
8月6日 イングリッシュブレックファスト倶楽部〜ガンボ
セオドシアは小さな焚き火が燃えている草地まで砂浜をゆっくりと歩いて行った。
炎は赤ちゃんガメを怯えさせるほどの明るさはないが、龍井茶をわかしたポットとガンボが入った鍋を温めるのは充分だ。

          ☆           ☆           ☆          

最近凄い勢いで出版されているコージーミステリ。
律儀に読んでいると、あまりに似たキャラ、似た設定、似たストーリーにどれがどれだかわからなくなってくる。
優しくて頭が良くてほとんどが美人で正義感が強くて友達思いで、ただ出てくる薀蓄がドーナツかチーズかクッキーか、違いと言えばそれくらいではないのかと思えてくる。
可愛いイラストの表紙も似てるし、恋人、相棒、親友、家族のパターンもほぼ同じ。
さらに正義と称して暴走癖まで加味すると、あまり似ているために実は少々飽き気味。
(これは息つく間もなく読んできた私も悪いが)

そんな中、ヒロインに一番癖がなく、ストーリーも何度読んでも忘れてしまうような印象に残らないシリーズであるにもかかわらず、「お茶と探偵」は好きだ。
暴走も常識の範囲だし、作者の持ち上げすぎは気になるが、読んでいて楽しい。
でも最近、ひとつ残念なことが出て来た。
自称「親友」のデレインや、元恋人ジョリーの扱いに作者の愛情が全く感じられないこと。

押しの強い親友キャラは、クッキングママシリーズのマーラや「老人たちの生活と推理」のキャレドニアなどが思い浮かぶが、彼女たちには強引な中に愛すべき魅力がある。
ジョリーも別れたとはいえ、かつてはセオドシアが愛した男性なのだから、魅力的な持ち味を失わないでほしかった。
仮にも準レギュラー格なのだし。
作者が愛情を持てないのなら退場させればいいと思う。

それはさておき、お茶と探偵シリーズに頻繁に登場する料理が「ガンボ」。
「イングリッシュブレックファスト倶楽部」でも冒頭ウミガメ保護のボランティアを買って出たセオドシアが他のボランティアに龍井茶とガンボをふるまう。
ちなみに龍井茶とはロンジン茶のことで、中国を代表する緑茶。
作品内では「ほんのり花の香りがする」と書いてあるが、ジャスミンティーか何かと間違えてるのかな?

ここでのガンボは「スパイスの利いたアヒルとチキンのごった煮」。
アメリカのルイジアナ州を起源とするスープで、Wikipediaによると、「基本的には濃いスープストック、肉または甲殻類、とろみ成分、および聖なる三位一体と呼ばれる野菜(セロリ、ピーマン、タマネギ)で構成される」とあるが、このシリーズを読んでいると、それぞれの家庭の味があるシチューと捉えればいいのかな?と思う。


私はこれを「ガンボ&オイスターバー」東京駅八重洲地下街店で食べた。
こちらのメニューには、「ガンボ」とは「オクラ」の意味で、新鮮な魚介と数十種類のスパイス、香味野菜をじっくり煮込んだスパイシーなルイジアナの郷土料理とあった。
ご飯にかけて食べるのが一般的だそうで、こちらのお店でもガンボの海にこんもりご飯の島みたいに可愛く盛り付けてあったが、これはレンジも使わないし、今度作ってみようと思う。

とてもおいしかったが、その数日後ロイヤルホストでアメリカンフェアか何かでガンボがあって笑った。
こっちはセットのひとつで、マグカップにガンボを入れて、ご飯をひとかたまりどぼんと落とした感じ。
これはこれでお手軽感があっておいしかった(笑)。
お茶と探偵シリーズは、ちょっと変わった料理は出てくるけど、クッキングママのようにプロ過ぎて手が届かないということもなく、それなりにお洒落で、それなりにお手軽な、でもアメリカンな雰囲気を味あわせてくれる食べ物が出てくるのがいい。

★東京都〒104-0028 東京都中央区八重洲2-1 八重洲地下街南1号
(2013年8月6日の日記)

7月11日 信濃大名記〜お抹茶をいただく
こちらに背を向け、茶を点じているそのひとの、つややかな垂れ髪を分けて見える耳朶は、春の陽ざしに濡れた桃の花弁のようだった。

          ☆           ☆           ☆          

子供の頃は「真田太平記」を読んでも、豪快で華やかな幸村ばかりに気持ちが入って、兄信之の存在は意識していなかったように思う。
信之の真価に気づいたのは、社会人になって「責任」を背負い始めた頃。
社会の枠からはみ出すことなく生きることに四苦八苦しながら再読した「真田太平記」は、むしろ自由に生きた幸村、責任を果たした信之と、これまでと違った構図が見えてきた。
幸村のように生きることができたらいい、でも幸村とて信之が真田の家をしっかり守ってくれる安心、信頼の気持ちがあるからこそ己の望む生き方ができた。

でも憧れる存在としてはやはい幸村の方が上で、たとえば戦国時代を題材にしたゲーム(笑)や歴史検証番組を見ても主役になるのは未だに幸村。
損な人だなあと思っていたが、その信之に惹かれ、彼をないがしろにすることなく真田の物語を綴り上げたのが池波正太郎だった。
「真田太平記」にも出てくるが、「信濃大名記」にはそんな朴念仁かと思われそうな信之の、秘めたるも熱い恋が描かれる。
相手は小野のお通。

実在の人物でお墓が真田家ゆかりの広徳寺にあること、娘が信之の二男に嫁いだことなどが知られているが、謎も多い。
物語ではお通も信之を愛しながら、ふたりは結ばれることなく終わる。
その信之に茶を点じるお通、お通はここで敵と味方に分かれていた幸村と信之を再会させる。
信之とお通の恋、幸村と信之の兄弟の想いが迫ってくる場面である。

でもこちらはお抹茶など点じるどころか、清月堂など甘味処で一杯いくらで飲むくらい。
わびさびなど縁のない生活をしているから、「信濃大名記」を読んでも、ただひたすらにため息をつくことしかできない。
このぎりぎりに切り詰められた人の心、空気、そして時間。
この場のお通ほど見事に歴史を切り取ってのけた女性はいるだろうか。
いえそう書いてのけた作家はいるだろうか。

さて、お抹茶といえば、ずっと前にとても素敵な体験をした。
五反田駅でホームの行先表示板を見てて、偶然目に留まった文字が「薬師寺東京別院」。
薬師寺といえば奈良の有名なお寺。
今でこそ漫画やゲームに(笑)お金を使うようになった私だが、独身時代はとにかく旅行しまくっていた。

日本で多かったのは奈良京都。
奈良といえば薬師寺だった、懐かしい。
でも東京に別院があるなんて知らなかった。
そこで行ってみたのだが、宮尾登美子著「伽羅の香」のモデルとなった山本霞月の旧宅を寄贈され、別院としているとのことで、とても雰囲気のある場所だった。

この時別院のご住職ではないと思うが、女性が別院についてとても丁寧に説明して下さって、感激してしまった。
しかもたぶん写経や香道のために訪れる人たちのために用意してあるお抹茶に小さな干菓子を添えて、私にまで出して下さったのだ。
恐縮しながらいただいたが、その時に聞いたのが「伽羅の香」の話。
その時の事は「藤枝梅安をたどる道」にも書いたが、別院の落ち着いた美しさと共にお抹茶も忘れられない記憶となった。

★東京都品川区東五反田5丁目15−17(薬師寺別院)

(2013年7月11日の日記)
6月16日 しゃばけ〜あじさいの和菓子
言い訳をしながら、仁吉が大きな菓子鉢を運んできた。
菓子屋は気が早いのか、きょうの練り菓子は、四角に切ったきらきらとした寒天で飾られた、花の形のものだった。
「おや、これは紫陽花かね。
いいねえ、しっとりとした気分になるよ」

          ☆           ☆           ☆          

以前は好きな物を見つければすぐにコンテンツを作っていたので、すぐに更新が追いつかなくなり、結局持て余すをくり返していたように思う。
もっとブログを有効活用すれば良かったのだけど、前のブログが告知から3日で消滅というとんでもない経験をしたことがあり、どうしてもホームページメインにしてしまう。
バックアップも取っておらず、当然その頃の日記は残っていないが、当時は今よりももっと私的なブログ、より日記に近いブログだったので残しておきたかった・・・。

そして作ったコンテンツを持て余しているうちに、他に出て来た書きたいことを取り上げる機会を逸したことも数知れず。
主に小説や海外ドラマの感想だったのだが、その中のひとつが畠山恵著「しゃばけ」シリーズである。
「もののけ系」+「時代小説」と私の好きなジャンルにプラスして「とてもおもしろい」というαが加わったのだから夢中にならないわけがない。
当時サイトで知り合った「犬夜叉」友だち、略して犬友の中にもしゃばけファンは多く、メールでかなり盛り上がった記憶がある。

ちなみに私が犬友さんたちを通して知り、夢中になった作品は意外に多い。
「犬夜叉」好きは全体的に「好き」感性も似てるのかな?なんて嬉しくなるのだけど、「十二国記」「蟲師」もそうだし、逆にうちのサイトを通して「十二国記」好きになった犬友さんも多い。
そんなこんなでひとつ間違えば?「しゃばけ」シリーズもどどんとうちのサイトに顔を出してたところだった。
そうした本の救済策?がこの「おいしい本を探す道」で、食べ物が全く出ない小説はまずないことから作ったコンテンツ。
「しゃばけ」シリーズの出番は多いはず。

さて、和菓子は見るのは好きだけど、あまり食べない。
食べるならケーキ、でもケーキ食べると太るから、これもあまり食べない。
でもデパ地下やお菓子屋さんめぐりは大好き。
そんな私が見つけたどんぴしゃの和菓子紫陽花は池袋ジュンク堂そばの「すずめや」さん。

まず店構えがいい。
そのまま「しゃばけ」のドラマに登場してもいいくらい小さくて可愛くて趣のあるお店。
その日の分だけ売りきったら後は閉店。

どんなに好きでも平日休みの朝一番にでも行かなければ買うことはできないけれど、「あじさい」だけは必ず買う。
なにしろTwitterですずめやさん自身が「練り切りの周りに角切り寒天をまぶしたキラキラあじさいはいかがですか」と書き込むくらい「しゃばけ」にぴったり。
もしかしたら「しゃばけ」をモチーフに作ったんじゃないかな?だったらいいなと思ってしまう。
いろんなお店を回ったけれど、私の「しゃばけ」イメージにぴったりな和菓子「あじさい」はこれです!と言い切っちゃおう。

味?もちろんおいしい。
最初角切りにした寒天がけっこう歯ごたえあって驚いたけど、これは使い方に合わせての固さだと思うから問題なし。
でも食べるのがもったいない、若だんなじゃないけれど、見てるだけで「しっとりした気分」になること請け合い。
残念ながら期間限定のお菓子なので、今年はもう終わってしまったけど、来年も買いに行きたい。

日常の何気ない描写が丁寧に描き込まれていて楽しい「しゃばけ」シリーズだが、体が弱くて甘やかされて育った大金持ちの若だんなが、全然曲がらず、優しく芯のある気性に設定されているのがいい。
ひ弱さはもはやギャグのレベル(失礼!)だが、それを支える、時には足も引っ張る個性豊かなもののけあやかしたち。
でも人の悲しみや苦しみもちゃんと描く、さらりと描く。

どんなに本が好きでも自分も中に入って登場人物の1人にないたいなんて思うことはめったにないが、「しゃばけ」の仲間にはなりたいな、と思ってしまう。
ジャンルで言うならファンタジー、生き方を問うけれど、重みはない。

物足りなさにつながる向きもあろうが、私はそれを「しゃばけ」の個性と捉えている。

重くなったら「しゃばけ」の軽妙洒脱なおもしろさが消えてしまう。
書くべきことはちゃんと書いてる、でも軽いし暖かい、そこがいい。

★豊島区南池袋2丁目18−5
(2013年6月16日の日記)
5月31日 グリーンティーは裏切らない〜ポップオーバー
のろのろとキッチンに入ると、鍋つかみに手を入れ、オーブンからポップオーバーを取り出した。
完璧だわ。
色はこんがりきつね色で、ぱんぱんに膨らんでいる。

          ☆           ☆           ☆          

ローラ・チャイルズ著「お茶と探偵」シリーズ第2弾。
前に「ダージリンは死を招く〜ダージリン」で出版元の武田ランダムハウスジャパンが倒産し、最新作「オーガニックティーと黒ひげの杯」が幻に・・・と書いたのだが、その後「コージーブックス」でクレオ・コイルと共に発売決定!
「オーガニック〜」とも8月に会えることになった、嬉しい。
応援の意味も込めて、先日表紙イラストを担当する「後藤貴志さんの原画展」に行って来たばかり(笑)。

このシリーズは日本の緑茶や盆栽など、日本の文化や食べ物もちゃんとした形で書いてくれることが多くて嬉しい。
今回は主役を張るのは「グリーンティー」といえども中国茶の方だが、ドレイトンは抹茶を立てたり急須を使ったりと、さすが世界のお茶に精通しているスペシャリストの片鱗を見せてくれる。
また、本当に名前を聞くのも初めて、という食べ物が数多く出てくるのも特徴でポップオーバーはそのひとつ。

手っ取り早いのはお店を探すことで、かなり前のことになるが、日本で最初のポップオーバー専門店、自由が丘の「SPOON BREAD」に行って来た。
こちらのサイトによると、「POPOVER」と書いて「弾けて飛び出る」という意味。
外はサクサク、中はもっちりのパンとシューがひとつになったような物とのこと、う〜ん、わからない(笑)。

自由が丘の「スイーツフォレスト」の一角にあり、甘い誘惑には事欠かない。
おしゃれなカフェ、開店早々に入ったせいかお客さんは私達だけでほとんど貸切状態。
さてポップオーバーだが、見た目はパンだった。
ただ形に特徴があり、コンビニで売ってるソフトクリーム、コーンがとがってなくて平らなの、カップをかぶせたまんまの、を縦半分に割ったような形。
ただこれはこのお店のポップオーバーの特徴で、必ずしもこの形とは限らないようだ。

カレーとデザートにポップオーバーにアイスをのっけたサンデーを注文、飲み物はドリンクバー。
結構待たされるが、あらかじめ時間がかかりますよと言われているので気にならない。
形こそ違えど、普通においしいパンに普通においしいカレー、普通においしいデザートという感じで、特に印象に残る物ではなかったかな?

でもヘルシー感がかなりあるので安心して食べられる、リピート確定。
でも「ポップオーバー食べた」という満足感に満ち満ちて(笑)、他のお店の誘惑を必死に退けて終了。
自由が丘ものんびり歩くには気分の良い街。

ヒロインのセオドシアの住むアメリカはサウスカロライナ州チャールストンも、セオドシアに負けず劣らず雰囲気のある町。
雰囲気が良すぎてミステリー要素が薄いのが難といえば難だが、コージーミステリとしては、これもありだと思う。
コージー物はテレビドラマにぴったりだと思うんだけど、あまり作られないなあ。

★東京都目黒区緑ヶ丘2-25-7 ラ・クール自由ヶ丘スイーツフォレスト2F B
(2013年5月31日の日記)
4月9日 東京の日記〜ローザー洋菓子店のクッキー
東京のトラムはクッキーの缶に似ている。
カナコが何度かお土産に持ってきてくれた青山の洋菓子店の青い缶と、色といい、質感といい、そっくりだ。

          ☆           ☆           ☆          

恩田陸と言えば一通り読んではいるものの、特別に好きな作家いうわけではない。
一通り読む時点で他の無数の作家とは別格なのだが中毒性はない感じ。
でも先日アンソロジー「NOVA 書き下ろし日本SFコレクション」に掲載されていた「東京の日記」には静かに鳥肌が立った。

SFというよりホラー、いえサスペンスを読んでる気がした。
戒厳令下の日本を訪れた外国人の穏やかな記述の陰に隠れた恐怖。
何かが起こりつつあるという恐怖。
モンスターではない、もっとリアルで怖いもの。

とはいえ文中で何が起こるわけでもない。
描かれるのは淡々とした日常で、読者はその中、その裏に勝手に怖い妄想を膨らませて行く。
そしてその妄想は決して実のないものではない。
おもしろかった。

さて、読んでいてあれっ?と思ったのが作中でカナコが持って来たクッキーの缶。
恩田さんの描写とそっくり同じ気持ちをずっと前に感じたことがある。
当時私がいた職場は東京下町、ではなかったから上京したてだった私はまだ都電の実物を見たことがなかった。
それでもテレビで何度か見てたし、なんとなく乗ってみたい、都電の走る街に住んでみたいみたいな憧れがあったように覚えている。

そんなある日職場におみやげに頂いたのがローザー洋菓子店のクッキーだった。
実はこれ、知る人ぞ知るの有名店なのだが、誰もそのこと知らなくて(笑)、おいしいねと言って食べまくり、青い缶はたちまち空っぽになった。
その缶が何となく都電を思い出させて、下っ端でほとんどクッキーを食べれなかった私は缶をもらって帰った。
綺麗な青、お洒落な文字、どこかレトロで、よく見ると都電とは何の関係もない色と形なのに、なぜか都電を思い出す四角いフォルム。
クッキー缶と言えば角は丸みを帯びているイメージだった私の目にはとても新鮮だった。

ところが私、缶、つまり金物系に物を入れるのはあまり好きではない。
ペン立て、ペンケース、小物入れなど金物系だとボールペンなど入れた時に金属(じゃないけど)同士がぶつかる固い音が苦手なのだ。
あと触れた時の冷たい感触も苦手。
だから使える限り陶器や木や紙でできた物を今でも使っている。

ペン立てはマグカップだし、家で書き物する時はプラスチックケースに入れた筆記用具を持ち運ぶ。
どうしても金物系を使う時は中に小さなタオルを敷いてなるべく音がしないようにする。
そんな私だったし当時の部屋もワンルームで狭かったから、いつしか缶はどこかにしまい込まれ、何度かの引っ越しのうちに見えなくなった。
その思い出との再会である、懐かしい。

ただし作中では青山の、となっている。
ローザー洋菓子店は丹精込めて作られたクッキーのおいしさもさることながら、昔ながらの店構えで麹町に一軒しかなく、予約なしではなかなか買えないといういわくつきのお店なのだ。
だから当然青山にはなく、モデルはこのお店ではないと言われそう。

でも私は言い切っちゃうんだなあ。
架空小説だし、わざと正直に麹町と書かなかっただけで、恩田さんの脳裏には、あるいは執筆してる時恩田さんのそばにはローザー洋菓子店のクッキー缶が居座っていたに違いないと。
私が見た限りでは東京の都電はこんなに平らじゃないし、こんな色のもないとおもう。
でもあえて「トラム」と書き、ふと目に入るクッキー缶は間違いなく都電を思い出させるはず。

「東京の日記」を読んで、懐かしのクッキー缶と再会すべく麹町に行った。
どこか懐かしさを感じさせる看板を見つけ、お店に入る。
良かった、予約してないけど残ってた。
えっ、この大きさで3,000円・・・?
うん、買った、おいしかった。
缶は大事な宝物。
ここで迷っちゃおしまいよとばかりに買って抱え込んで帰ったが、畏れ多くてしばらく開けることができなかったという情けない想い出も追加された(笑)。

・例によって写真が変な色ですが、実物は本当に綺麗な青です(涙)。
★東京都千代田区麹町2丁目2

(2013年4月9日の日記)
3月22日 水の戒律〜チキンシュニッツェル
こんがりきつね色に焼けた瑞々しいチキン、ケシの実をたっぷしまぶした柔らかいハッラーと呼ばれるねじりパンが六つ、新鮮な野菜をふんだんに使ったスープ。

          ☆           ☆           ☆          

不謹慎な話だが、アーミッシュ、ユダヤ教などの言葉の持つ独特な雰囲気に惹かれる。
だから「Xファイル」や「コールドケース」などのテレビドラマのアーミッシュ登場回や、ハリソン・フォードの「刑事ジョン・ブック 目撃者」などは何度も見た。
(「目撃者」はあまりアーミッシュである意味がないように思ったが)
フェイ・ケラーマン著「リナ&デッカーシリーズ」の第1作「水の戒律」もヒロインが正統派ユダヤ教徒であり、作品の中でユダヤ教としての生き様や考え方が描かれていく。
とはいうものの、最初はそういう物語であることに全く気付かなかった。

なにしろ創元推理文庫のミステリーである。
古い物ならクイーンやドイルもあったが、最近はダイアン・デヴィッドソンの「クッキングママシリーズ」である。
その隣りに並んでいたから、恋愛たっぷり食べ物たっぷりの気軽に読めるコージーだとばかり思って手に取った。
ただ気になったのはコージーミステリーにありがちな甘ったるいイラストの表紙ではなく、並んだタイトルも「水の戒律」「聖と俗と」「豊穣の地」など、ひどくストイックな雰囲気に満ちていたこと。

なるべく予備知識なしで読みたかったから、読み始めてからユダヤ教徒が主人公のミステリーであることに気付いた。
興味深いのは、ヒロインリナは正統派ユダヤ教徒だが、彼女に恋する刑事デッカーも実はユダヤ人であること。
ただ、バプティスト派の家庭で養子として育ったため、自分がユダヤ人であるとの自覚はない。
後にリナと恋人同士になるが、結婚するためには自身がユダヤ人であることを明かすか、ユダヤ教徒にならなければならない。

しかし、ユダヤ人であることを明かすことは、育ての親に対する裏切りと考えたデッカーは、ユダヤ教徒として生きることを決意する。
と書くと簡単だが、その恋の真摯さとストイックさが、あまたのコージーとは一線を画し、久々に清々しく、同時に重く読み終えた。
さっきから「ストイック」という言葉を連発しているが、まさにその通りなのである。
ちなみにこのシリーズはコージーのジャンルに分類されてはいないことも後で気がついた(笑)。

「水の戒律」では事件は解決するが、2人の恋はシリーズを通して少しずつ少しずつ進んだり戻ったりを繰り返すが、じれったいとも思わないのはその心模様がじっくり描かれているためだろう。
同時に宗教に全くと言っていいほど影響を受けることのない立場としては、「仮に自分が」が想像できない内容なので、おもしろいと思うかどうかは人によるかも。
食事に関しても独特の作法やしきたりがあり、聞いたことのない料理の名前も多かった。

私はコージーミステリーの影響で?出かけた時に変わった料理のお店を見つけるとつい入ってしまうが、さすがにユダヤ料理は行ったことがない。
そこでネットで検索したら三田(白金高輪)に「デビッドデリ」というお店があったので行ってみた。

実は外国人男性のウエイターさんが愛想がないという感想が多くてドキドキしていたのだか、確かに愛想がいい人ではなかった(笑)。
でも愛想が悪いとか感じが悪いのではなく、愛想がないだけなのだ。
私が午後から用事があるため早めに行ったら、開店前に着いてしまい、お店の前で待っていたら時間前に入れてくれたし、料理について質問するとちゃんと答えてくれた。
私はインドカレーも好きでよく行くが、インド人のウエイターさんもわりと愛想がない人が多いので、あまり気にしなくてもいいと思う。

さて今回の目的は「こんがりきつね色に焼けた瑞々しいチキン」、メニューを見ると、どうやら「チキンシュニッツェル」のようである。
「からりと揚げたチキンをアンチョビとレモン味で」とあるのでたぶんこれ。
あっ、今気がついたのだが、本は焼いてあり、デリでは揚げてある、これだと別メニューになるのかな?
今度行ったら聞いてみよう。


あとピタと呼ばれるナンみたいなパンと、それにつけるフムスと呼ばれるヒヨコ豆のペーストのランチセットにコーヒーとデザートのケーキ。
実は行ったのがだいぶ前なのだが、チキンの味はあまり覚えていない。
特に印象のある味、変わった味ではなかったように記憶している。
むしろピタにつけて食べるフムスがおいしかった。

おみやげにハッラーと呼ばれるパンも買って来てが、そちらは後日紹介したい。
他にも知らない料理がたくさんあったので、機会があったらまた行ってみたい。
(2013年3月22日の日記)
2月23日 心理実験プロジェクトS〜ザッハトルテ
「今日は黒い森トルテを作る」
「ザッハー・トルテも作ってくれよ」
「研究しておこう」

          ☆           ☆           ☆          

「今日はザッハー・トルテを作る」
「エロイカより愛をこめて」の少佐の台詞だ。
少しでも少佐のキャラ設定を知ってる人なら絶句すること間違いなし。

鉄のクラウスがケーキ作りを強制される番外編。
これが少佐が苦手なケーキ作りに四苦八苦するなら話はわかるが、きっちり測って完璧にこなしてしまうところに この話のおもしろさがある。
正直伯爵やロレンス来てドタバタしなくていいから、少佐にはここで延々とケーキ作りに勤しんで欲しかった(笑)。

さてザッハトルテ、ドイツのケーキかと思っていたらオーストリアの代表的なお菓子だったが、「黒い森のトルテ」と この話で他に出てくる「みつばちケーキ」がわからない。
調べてみたら「黒い森のトルテ」は「シュヴァルツベルダー(黒い森)キルシュトルテ(さくらんぼケーキ)」のことで、 画像を見るとザッハトルテのような見かけの物からココアケーキの上にクリームを絞り出し、サワーチェリーをの っけた物までよりどりみどり。
要はチョコレートとさくらんぼを使って作ればいいようだ。
ただ画像は少佐がイメージしているようなクリームのっかりタイプが圧倒的に多い。
でもデパート廻ったついでに見てきたけど売ってない・・・、季節物?

みつばちケーキはハチミツ使ってミツバチのデコレーションしてるだけかな?
こちらもさらにわからなかった。

ところで私、チョコは好きだがチョコレートケーキやチョコレートパイなど、チョコレートを使ったお菓子やソースは苦手。
チョコもゴディバみたいな高級チョコより明治やロッテやガーナや(笑)、昔ながらのシンプルなチョコが好き。
そんな好みだからザッハトルテも知ってはいたけど食べたことなかった。

ところが5年前銀座松屋で「高橋留美子展」が開催された。
高橋先生の原画展示やグッズ販売などのイベントで、その他に松屋限定で高橋作品にちなんだお菓子も5種類販売された。
その中のひとつが「デメル」の「ラムショコラーデントルテ」。
濃厚なチョコレートケーキにうる星やつらに関するデコレーションと原画を添えて3,150円!

他のお菓子は買ったけど、これだけ悩んだ。
高橋留美子展限定レア物と思えば欲しい。
でもあまりの大きさ濃厚そうな見た目に、買ってどうする?と悶々とした結果・・・買わなかった。
そして未だに後悔してる。

その因縁の?ザッハトルテを買ってみた。
写真撮ったら青っぽくなったので加工したら全然おいしそうじゃない、すみません・・・。
実物はとにかく綺麗、シンプルなのに綺麗。
でも香りだけでくらくらするほど濃厚。

はたして私はこれ食べれるんだろうか、としばしにらめっこ。
思い切ってフォークを入れた。
おいしい、でも甘い!
結局一番小さいトルテだったけど半分くらいで胸がいっぱい。
濃いコーヒーがぶ飲みして終了。
これで満足、十分満足。

余談だが、高橋留美子展、私は初日に行ったけど、その日のニュースに映ってる。
それが一番の宝物。
たぶんニュースでやるだろうと録画してたのがラッキーだった。
(2013年2月23日の日記)
1月27日 ダージリンは死を招く〜ダージリン
「ダージリンはみなさんご存知のように繊細で風味が豊かですから、三分以上蒸らしてはいけません。
これは絶対に守ってください」
そう言って彼は鼈甲縁の半眼鏡ごしに一同をじっと見つめた。

          ☆           ☆           ☆          

コージーミステリーの中で好きな作品ベスト3をあげろと言われたら、クリスティーは別格として必ず入れるのが ローラ・チャイルズ。
今私がコージーに求める要素は、食べ物の薀蓄70%(笑)、ミステリーの部分25%、恋愛要素5%くらいだと思う 。
素敵な男性との恋も悪くはないが、あまりにそればかりの描写が続くと正直うんざりしてしまう。
その点お茶と探偵シリーズのセオドシアはいい。

探偵としても、恋愛の部分も押し付けがましさがない、これ大事。
一歩間違えば無個性になりがちなぎりぎりのところで踏みとどまっているので、それこそ紅茶でも飲みながら何度でも読める。
訳も手慣れた感じでクセがなく読みやすいのだけど、原作に忠実なのか、時折妙にくどい部分が気になるが。

特にセオドシアの瞳がどうの髪がどうの唇がどうのと散々美しさの描写をした上で、「神々しいまでに美しかった」なんて形容詞を付け足されると、ちょっと脱力してしまう。
具体的な描写で十分、読者はそこにヒロインの容姿、その美しさを自分で想像して感嘆すればいいのだ。
あとこれは好みの問題だろうが、セオドシアのティーショップでスタッフに「紅茶をお出しして」と言うのは当然として、会話でもない普通の文章で「お出しして」なんて書かれた日には、上品過ぎるにもほどがあると・・・。

それでも1月10日に発売予定だった「オーガニックティーと黒ひげの杯」も楽しみにしていたのだが、その矢先の武田ランダムハウスジャパン倒産のニュース!
お茶と探偵シリーズはもちろん、クレオ・コイルのコーヒーシリーズ、リヴィア・J・ウォッシュバーンのお料理名人の事件簿シリーズなど、私の好きなシリーズが軒並みランダムハウスから出ているのである。
ランダムハウスは元はアメリカの出版社ランダムハウスと講談社が提携して株式会社ランダムハウス講談社として設立された。
2010年(平成22年)、ランダムハウスと講談社の提携は打ち切られたが、その際、ランダムハウスと講談社の株式を社長の武田雄二氏が引き受け、同年4月に社名を株式会社武田ランダムハウスジャパンに変更した。 2012年(平成24年)12月12日付で、東京地方裁判所より破産手続開始の決定を受け、倒産した。→「こちら

2011年(平成23年)の「物理学者アインシュタインの伝記を翻訳した本の中で、ネットの機械翻訳をそのまま掲載したような記述が多数見つかり、修正版を刊行する事態となって話題になった。」などという記述を読むと、こうしたミスの積み重ねが結果的に倒産につながったのかと悲しくなって来るが、もしかしたら元相棒の講談社さんで有名どころだけでも引き受けてくれるのではないかと、一縷の希望を持って電話してみた。
最初間違って広告課に電話してしまったのだが、この時対応してくださったお姉さん(笑)のフレンドリーさにはもう感謝感謝。

仕事と違って、プライベートでこうした問い合わせを電話でするのはけっこう勇気がいる。
まあこんなこと書いても誰もわからないだろうが、ゲーム「真三國無双6 Empires」のエディット女性「勝気」の相槌台詞「なるほど〜」とそっくりだったのだ。
もうこれで緊張が解けて、いろいろ話をしてしまった。
もちろん担当ではないので質問の答えはもらえなかったが、なんか気楽におしゃべりしてしまったような感覚、本当にありがとうございました。

で、その後回してもらった質問受け付けの男性は、感じは良かったがさすがに事務的(これが普通)。
さらに物柔らかな口調でショッキングな情報を。
「(講談社とランダムハウスが)50%ずつ出資して提携していたのは事実ですが、2年前に契約は打ち切り、現在はまったく無関係です。
ランダムハウスさんの本を当社で受け継ぐことは絶対にありません。」とのこと。

念のために、以前の提携は抜きにして、新たに契約することはあり得るかと聞いてみたら、それは他の出版社と条件は同じで、いつかはあるかもしれないが、現在その予定はないし、先のことはわからないとか。
そうだよなあ・・・。

訳者の東野さやかさんがどこかで表紙のイラストを見て、ヒロインはそんなに若くないって違和感を感じたけど、今は慣れたとか、この表紙のおかげで本が売れたとか話していたので、いつかどこかの出版社で引き継いでほしいと思う。
当然のことながら、まだ残っているランダムハウスのホームページの電話はつながらなかった。
今回は本の感想というよりランダムハウス倒産がメインになったが、お茶と探偵に関してはこれからも感想書きたいと思っている。

余談だが、私はほとんどのコージーの表紙は苦手。
つまり可愛いイラスト、おしゃれなイラスト系。
お茶と探偵も、原作の表紙だったらもっと先に買ってたかも。

★写真はアフタヌーンティールームのクリームティーセット(もちろん紅茶はダージリン)。

(2013年1月27日の日記)
12月31日 ふしぎなおばあちゃんがいっぱい〜はっか糖
「そうだね。
いまのわかい人は、はっか糖なんて食べないんだね。チョコレートの方がよかったかねえ?
この暑さで、すこしとけかかってるけどー。」

          ☆           ☆           ☆          

はっか、薄荷、ミントとも言うけれど、実は苦手。
お菓子は甘いかしょっぱいかが基本の人なので、変わった味が入るともう食べない。
チョコミントなどもってのほか(笑)。

そんな私も、こんなんだったら久々に食べたいなあと思ったのが柏葉幸子著「ふしぎなおばあちゃんがいっぱい」を読んだ時。
おばあちゃんを追っかけてたら、あちこちでご近所のおじいちゃんおばあちゃんに邪魔される。
なぜ?と思いながらなおも追いかけて行くと、その先には・・・。

柏葉さんのお名前は「千と千尋の神隠し」の原案となった本を書いた人ということで知ったが、その「霧のむこうのふしぎな町」には「千と千尋〜」とは全く違う世界があった。
それ以来柏葉さんの本は手当たり次第に読んでいる。
柏葉さんが描くのはちょっぴり不思議な世界、ジャンルで言うならファンタジーだろう。
でも読んでいるうちに、その世界が次第に不思議でもなんでもない、日常に見えてくる。

不思議な世界=日常になるから、不思議な生き物がいたり、不思議な世界があったりすることが、ごくごく普通のことに思えてくるのだ。
これは感覚的にかなり心地よい。
特に「不思議な〜」は不思議の在り方がかなり淡いので、むしろ子供の頃に遡るような、ノスタルジーを感じるような読後感になる。

ああ、こんなおばあちゃんいたなあ、こんなおじいちゃんいたなあなんて懐かしく思えるのだけれど、実は身近にそんなおじいちゃんおばあちゃんはいなかったという、リアルでありながらステレオタイプな老人像。
いつかおばあちゃんの仲間入りをする身としては(笑)、ある意味憧れを持って読むことができる物語だった。

さてはっか糖。
いつもスーパーで見かけるよなあなんて簡単に考えていたのだけれど、スーパーで売っているのははっか「飴」。
透明なキャンディーばかりだった。
アマゾンで見ても売っておらず(今は売っている、不思議)、目黒不動近くの駄菓子屋さんで聞いてみたけど、「もう長いこと見てないねえ、好きなの?」なんて聞かれる始末。
これにはあせった。
はっか好きでもないくせに、是が非でも食べたくなってくる(笑)。

そしたらたまたま注文したい物があって楽天で検索してた時に見つけた。
越後まんぷく堂」さんのはっか糖。
早速取り寄せた。
苦手なはっかゆえ、用心しいしい口に入れたのだが、はっかに辛みが強くなく、とても上品な味だった。
これなら大丈夫。

普通のキャンディーのようにその辺に置いといて、気が向いた時に食べるというものではないけれど、おみやげ(特にお年寄り)にも喜ばれる。
必ず出てくる言葉が「懐かしい」。
昔はお店に普通に売っていたのだろう。
200グラム入りで350円、値段の割に高級感があるので気を使わない差し入れにもぴったりかも。

まんぷく堂さんのホームページにあったけど、はっかは胃痛や風邪にも効くのだとか。
喘息持ちには吉報だ。
あまりあれこれ手を加えてない感じが、いかにも効きそうに思えてくる。

(2012年12月31日の日記)
10月27日 桃のデザートには隠し味 〜ピーチ・コブラー
「なんの料理かわからないが、すばらしくおいしい香りがするな」
フィリスは首をのばし、彼の背後、廊下の先のリビングを見やった。
誰も―キャロリンのように―こちらをのぞいていないのを確認してから、「ピーチ・コブラ―よ」と、教えた。

          ☆           ☆           ☆          

ミス・マープルが元祖と言われるコージーだが、主人公はほとんどが若い女性。
中には30代の女性が活躍する作品もあるが、20代と言ってもいいくらい若くて美人でモテモテで、といった展開が 多い。
そんな中、ミス・マープルに近い世代の女性探偵がしっかり登場するのが今回紹介するリヴィア・J・ウォッシュバーン 著「桃のデザートには隠し味」。
退職した元教師で、孫までいるフィリスが主人公。

好奇心と正義感に溢れているが、穏やかで控えめな性格なので押し付けがまさがなく、読んでいて心地よい。
かといって個性がないわけではなく、フィリスの家に同居する2人の女性と1人の男性との友情やほのかな恋愛は なかなか楽しく読ませてくれる。
ミステリーとしてはわかりやすいが、最後に人生の終末を物悲しく彩る描写は高齢の主人公ならではの深さを感じる ことができた。

ところでこの「コブラー」、ジョアン・フルークの「ピーチコブラーは嘘をつく」でも出てくるが、名前が蛇を連想させて、 最初嫌だった(笑)。
「手軽に作れる」という意味で、作る人によっていろいろな出来具合になるため、これといった手本はないのだそう。
蛇っぽいし、食べなくてもまあいいかと思っていたら、メル友Gさんが「上野駅の「ハードロック カフェ」にアップルコブラーありましたよと教えてくれた。
そこで上野に行ったついでに入ってみた。

サイトによると、アップルコブラーは「温めたシナモンアップルケーキに、冷たいバニラアイスクリーム をのせ、キャラメルソースをかけました。」とある。
本によってはフィリング(クッキーを砕いたような物)を使うと あるが、確かにここのアップルコブラーは皿に載ったケーキの上に、アイスクリームがぽこんと乗っかってるものだっ た。
行ったのがだいぶ前なので定かではないが、サイズ、というか量を聞かれたような気がする。
私は 1人だったので小さい方のコブラーをお願いしたが、それでもかなり甘くて持て余した。

でもいかにも アメリカっぽい派手な味で、こういうお菓子を作れたら楽しいだろうなあと思った。
他にもいくつかのお店で扱 っているらしいが、いずれもアップルコブラーで、ピーチコブラーは見当たらなかった。
桃を使うと高くつくのか な?

1作目となる「桃のデザートには隠し味」ではまだぎこちない部分があったフィリスと仲間たちの 関係も、だんだんとまろやかになり、お互いに思いあってひとつ屋根の下で暮らしていく過程を楽しむシリーズ。

現在は4作目まで出ているが、不満点を強いて上げればミステリーの部分にもう少し工夫が欲しいという こと。

気持良く読んでいるうちに、コージー「ミステリー」であることを忘れることがままあり、苦笑いするこ ともしばしばだった。

★写真は上野駅「ハードロックカフェ」のアップルコブラー。
(2012年10月27日の日記)

8月13日 バートラムホテルにて〜イングリッシュマフィン
「ロンドンで、今でもほんもののマフィンがいただけるとこって、ここだけしかありませんからね。
ほんもののマフィンですよ。

ごぞんじでしょう、私が去年アメリカへ参りました時、朝食のメニューにマフィンなるものがありましてね。
まるでほんもののマフィンとは大ちがい。

乾ブドウなんか入れたおやつ用のケーキなんですね。
こんなもの、あなた、なんでマフィンと言われましょうか?」

          ☆           ☆           ☆          

昔から本は好きでよく読んだが、子供の頃は特に食べ物には関心がなかった。
人名、地名と同じように、ただの名前として頭の中に組み込まれていたように思う。

そんな私が突然「食べ物」に目覚めたのは(笑)、アガサ・クリスティ著「バートラムホテルにて」だった。
クリスティーで有名な作品ベスト3をあげるなら、そのトリックが意表を突く「オリエント急行殺人事件」「アクロイド殺人事件」「そして誰もいなくなった」あたりが順当なところだろう。
でも私が好きな作品ベスト3をあげるなら、初めて読んだクリスティー「そして誰もいなくなった(タイトルからして素晴らしい!)」「パディントン発4時50分」そして「バートラムホテルにて」となる。
パディントンは、ミス・マープル以外に出て来る女性、ルーシー・アイレスバロウが好きだから。

ルーシーがブライアンとセドリック、最後にどちらを選ぶのかが気になって仕方がなかったし。
原作ではクリスティは読者がどうとでもとれるような、含みのある終わり方をしていたが、私はルーシーがセドリックに心を残しながらもブライアンを選ぶと思っていた。
セドリックは1人でも生きていける人、でもブライアンはしっかりした妻が支えてあげなくちゃどうしようもない、と面倒見のいい性格ゆえに思ったんじゃないかと。
ストーリー以外の部分でおもしろい作品がクリスティには多い気がする。

そして「バートラムホテルにて」もまさにそのタイプ。
主人公の親子も好きになれないし。
私が好きなのはデイビー主任警部、ペニファザー牧師、そしてバートラムホテル!
実際にモデルとなったホテルもあるらしいが、そうではなくて悲劇喜劇の舞台となり、ある意味一番の被害者とも言えるバートラムホテル!

偽物であったとしても、訪れてみたいではないか!
束の間の「古き良き時代」を心ゆくまで味わってみたいではないか!
そして偽物だからこそ、バートラムホテルは宿泊客にその「良い部分」だけを見せる。
デイビー主任警部やミス・マープルは気づいてしまったが、できることなら私も何も知らずに通り過ぎてゆく客の1人になりたかった。

さて、バートラムホテルで楽しみたいのはアフタヌーン・ティーである。
マフィン、スコーン、シードケーキ、ジャムのたっぷり入ったドーナツ・・・。
マフィンってなんだろう、スコーンってなんだろう、ドーナツって輪っかだけじゃなかったのか・・・と胸をときめかせた当時の私がいる(笑)。
でもシードケーキだけは種の入ったケーキ?ってイメージでそれほどおいしそうに思えなかった。
ちなみにシードケーキとはキャラウエイシード(ウイキョウ)に加え、ナツメグやメースも混ぜ込んで焼き上げた、スパイシーなバターケーキのことだそうだ、これも甘くはないな・・・。

考えてみれば、キュウリのサンドイッチも甘くはないし、アフタヌーン・ティー=甘いお菓子オンリーと思ってたこちらの方が間違ってたか。
そのうち本物かどうかはともかくとして、スコーンもマフィンも食べるようになったが、私はずっと「バートラムホテルにて」に出て来るマフィンと言えば「エリザベス・マフィン」のようなマフィンを想像していた。

甘くておいしくて、紅茶にもコーヒーにもぴったり合う。
そう思ってた読者は私以外にも意外と多いのではないだろうか。
ところがある日、朝食を「マクドナルド」で食べることになり、なにげなくソーセージマフィンを頼んで気がついた。
これってもしかしてイングリッシュマフィンじゃない?

そういえばスーパーでも時々Pascoのイングリッシュマフィン売ってなかったっけ?
これだよこれ、2枚のお皿みたいなのにいろいろはさんで食べるやつ。
白状すると、これがクリスティの描く「本物の」マフィンだと思うとちょっとがっかりした。
嫌いなわけじゃない、大好きなんだけど、なんとなくバートラムホテルのマフィンは甘い物ってイメージがあり過ぎたのだ。

あのカップケーキみたいな形、表面は香ばしく焼けていて、チョコチップやレーズンが散らしてあって・・・。
私のクリスティマフィンはそうじゃなきゃいけなかったのだ。
我ながらおかしな話ではある。

余談だが、マフィンの専門店って意外に少なくて、エリザベス・マフィンは私にとって貴重なお店のひとつだったが、現在は横浜と福岡、たった二店舗しかなくなってしまった。
以前は大宮や東京駅にあって行けば必ず1ダースは買っていたのだが。
これはとーっても残念。
がんばって以前のように店舗を増やして欲しい。

それから「バートラムホテルにて」を始め、クリスティーのカバーはやはり真鍋博版がいい。
といってももう出てないので、紙は変色し、古本に匂いも強いが(笑)、クリスティと横溝正史はできることなら昔の装丁で揃えたい。

★写真は新宿京王百貨店「ラ・ヴィレッタ」のランチから。
右端がイングリッシュマフィン。
(2012年8月13日の日記)
5月29日 おいしい本をさがす道
「食」を描く名手と言えば池波正太郎が有名だが、それ以前に「食」が登場しない本はそんなにないのではないかと思う。
ロボットしか出て来ない小説なら別だが 、人間と「食べること」が切り離せない以上、意識しなくても食べるシーンがあちこちに出て来るのは当然の話。
ただ「朝食を簡単に済ませた」で終わる話から、何をどんな風に調理して食べたらどうおいしかったと懇切丁寧に説明してくれる本もある。
私が好きなのはもちろん後者のタイプ。
何故なら食べることが大好きだから。

私の人生ダイエットとの戦いと言っていいほど食べることが大好きだから、本を読む上でも無関心ではいられない。
しかも最近「コージーミステリ」なるジャンルができて、紅茶にコーヒー、クッキーにケーキと食の薀蓄語るわ語るわですっかりはまってしまったし。
後でこのコージーミステリの元祖があのアガサ・クリスティーのミス・マープルシリーズの、特に「バートラムホテルにて」であることを知って驚いた。
確かに「ほんもののマフィン」「大へんけっこうなシード・ケーキ」「こってりした本物の赤いイチゴジャムがどろりとあごへこぼれ落ちるドーナツ」に「気持ちのいいお盆にふっくらしたティーポット」から延々と続く本物の朝食の描写もある。
初めて読んだ時はマフィンも(スコーンも)知らなかったし、ドーナツと言えばリング状しか知らなかったから、この本には本当に憧れた。

そんなわけで、こんなコンテンツを立ち上げてみた。
ただし、描写にはそんなにこだわらない。
「おいしい物」を通してその本の紹介をしたい、そんな感じ。
たとえば先日読んだ有川浩著「別冊図書館戦争?」と東野圭吾著「眠りの森」。
どちらにも恋愛感情のあるカップルがパスタを食べる場面が出て来る。

「図書館ー」では

「お前の食ってるの何だ?」
「あ、茄子とズッキーニのペンネです」

「眠りー」では

未緒はパスタを一本ずつ食べ始めた。
食べ終わるまでに夜が明けそうだと加賀は思った。

最初のは恋人をすでに「お前」呼ばわりしている仲の良さとざっくばらんな性格、女性側の旺盛な食欲まで見えてくる。
反対にパスタを一本ずつ食べる女性、内向的、神経質、悩みを抱えている、そんなイメージ。
加賀は未緒に好意を持っているのだが、こんな食べ方をする女性が好きな加賀がおもしろい。

実際未緒は心に屈託を抱えているのだが、この場面が大きな伏線となっている。
この対比が興味深い。

また、これもたまたま京極夏彦著「姑獲鳥の夏」と宮部みゆき著「火車」を前後して読んだ時は、狐饂飩を食べる京極堂と、天ぷらうどんを食べる本間の描写に、その辺の蕎麦屋さんでテーブルに向かい合って狐うどんをたべる京極夏彦さんと天ぷらうどんを啜る宮部みゆきさんの姿が頭に浮かんだものだった。
まあ何を書いても自分の食いしん坊の言い訳にしかならないかもしれないが、中にはおもしろい食材、おもしろいお菓子も出て来るので、特にコージーミステリを読むきっかけになったらいいなと思っている。

本当なら「この本に出て来るこんなお菓子を作ってみました!」なんて素敵な写真と一緒に紹介したいところだが、何しろ私は致命的に料理が下手だ。
幸か不幸か、今の所に住み始めてしばらくしてから、オーブンの温度調節のつまみのないのにも気がついた。
つまりクッキーだのケーキだのおいしいお菓子が作れないのである。
仮にオーブンが使えたとしても、「材料費と時間の無駄じゃない?」なんて言われる物しか作れないのである。

カレーとかお味噌汁とか、普通に作るお惣菜ならもちろんできる。
でもおしゃれな料理とか、素敵な盛り付けとか凝ったセッティングとか、とんと縁がないのである。
だからもっぱら外で食べることを前提としてしまうのだけど。
(2012年5月29日の日記)

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