おいしい本をさがす道(四)


1月13日 悪魔の手毬歌〜いなりずし
★作品に関してネタバレ含みます。★

横溝正史が好きですが、一通り読んだ後、手元に置いてあるのは意外と少ないです。
まず時代小説と金田一耕助が登場しない本は寄せて、次に金田一耕助は登場するけれど、 描写的にあまりにえげつない本は寄せて、となると残るのはそれこそ映画化ドラマ化された 王道長編作品になってしまいます。

さらにトリックが華やかで登場人物も多く、当時の閉鎖的な田舎を舞台にした情緒たっぷりな作品。
最近古谷一行さんが主役の「横溝正史」シリーズもテレビに登場し、古谷版以降の、石坂浩二版他映像化された 金田一物は全部見ましたが、映像化された中で好きなのは石坂版「獄門島」と「悪魔の手毬唄」です。
あと横溝正史シリーズの金田一と日和警部の掛け合い(長門勇さん)。

そして原作でもやはり「獄門島」と「悪魔の手毬唄」が好きです。
一番最初に見た、読んだのは「犬神家の一族」だったと思うんですが、作品としての衝撃度はさておき、被害者が 若い女性故の、そしてその凝った道具立ての華やかさという意味ではやはり「悪魔」と「獄門」かなと。

「悪魔」の岸恵子さん、「獄門」の司葉子さ、、大原麗子さんは(いずれも被害者ではありませんでしたが)は本当に奇麗で、 そういえば私、現在は日本映画ほとんど見ませんが、当時の古風な美しさの女優さんの映画は好きだったなあ。

さてそのうちの一つ、「悪魔の手毬唄」で印象的に登場するのがいなりずし。
最初の被害者放庵は、亡くなったはずの「おりん」といなりずしやわらびと油揚げの煮付け、川魚の付け焼きなどで復縁を祝って 酒盛りをしていたはず。
でも吐血の後と大きな謎を残して姿を消します。

果たして放庵は加害者なのか被害者なのか。
とはいえ放庵の謎は物語の重要な伏線ではあるけれど、後に続く異様で華やかな殺人劇の幕開けにすぎません。
原作と雰囲気を変えた犯人は映画ならではの素晴らしさがあったように思えます。
ここではすっかり悪役扱いのいなりずしですが、私は大好き。
上京しておこわが入ってたり、油揚げが裏返しにになってたりといろんなタイプのいなりずしを知ってびっくりしましたが、私はやっぱり 味の濃い酢飯を甘辛く煮た油揚げでくっちり包んだ定番が好き。

赤羽駅で乗り換え時に時々通るエキュート赤羽の「豆狸」でよく買います。
まず名前が可愛い(笑)。
いなりずしなのに「狸」、理由は小さめで丸っこいフォルムが狸みたいに見えるからだそうです。

また赤羽通る時は小腹がすいてること多
いんですよね〜。
お菓子よりもおいなりさん、ですよ。 小さめなのでもたれないのもいいし。
本当はその場で食べたいんですが、食べる場所はないので家に帰るまで我慢です。

そんないなりずし、宮部みゆき著「初ものがたり」の中の「白魚の目」にも毒を入れられて登場します。
こちらの被害者は飢えた子供たち。
横溝物がいい意味での仰々しさであまり登場人物に感情移入することなく物語を楽しむことができるのに比べ、宮部ものは時代は江戸であっても 世界観が現実に近く、とてもリアル。
後味の苦味が辛いのですが、この「いなりずし」をモチーフにした2つの作品、読み比べるのも一興かとは思います。

★東京都北区赤羽1-1-1 エキュート赤羽
(2016年1月13日の日記)
12月25日フクロウはよふかしをする〜ボストンクリームパイ
★作品に関してネタバレ含みます。★

アンジェラ&キャレドニアのカムデンシリーズ第3弾。
このシリーズは内容も登場人物も好きだけど、冒頭部分と最後の余韻が好きです。
特にこの「フクロウ〜」は、冒頭の優美で豪華なブーゲンビリアが目撃ある人物の死。
最後に誰も見守る者のいないブーゲンビリアがまるで愛する者の死を悼む涙のように散らす花びら。

事件が終わり、穏やかな眠りを迎えるアンジェラとの対照が素晴らしく、何度読んでもじんわりした悲しみのような 物がこみ上げてきます。
まるでブーゲンビリアが悲しみを持って彼の死を悼むのに同調するかのように。

物語は相変わらずのドタバタしながら殺人事件を解決する王道パターンですが、1作目、2作目に比べてメインの? 被害者が非常に気の毒な人物ということが目を引きます。
それだけにいつもの2人の怒りも凄まじく(笑)。

さらにこのシリーズの特徴として、おいしそうな食べ物がたくさん出ることもあります。
ルートビアとか見たことも聞いたこともない物、別の作品だけどジャックインザボックス(アメリカのハンバーガーチェーン)とか アメリカに行かないと出会えない物などなど。
なにしろ現実の生活と思い出話と両方出て来ますからね、おいしい食べ物(笑)。

今回取り上げるのはボストンクリームパイ。
事件に気を取られてせっかくのパイに気が向かないアンジェラに「食べちゃってよ。」といわれて「ぱあっと顔を輝かせる」 キャレドニア。
わかりますよね、その気持ち(笑)。
訳が中村有希さんでほんと良かったと思える一瞬です。

ボストンクリームパイといえば有名なのが横浜伊勢佐木町の「浜志まん」。
私はずっと「はましまん」と読んでて、どんな意味なんだろうと思ってましたが、「はまじまん」と読むのだそうです。
「浜自慢(横浜自慢)」と掛けているんでしょうかね?

スポンジケーキの間にたっぷりのバニラクリームをはさんで、上からチョコをコーティングした「ケーキ」で、昔はパイ皿で ケーキを焼いたことからパイと言われるようになったとか。
伊勢佐木町はおもしろいところで、雰囲気がどこかレトロなんですが、浜志まんもまた、昔ながらのケーキ屋さんといった 雰囲気です。
ご主人夫婦?もとても気さくで礼儀正しくフレンドリー。
私がいる間も地元の人がケーキ買いがてらおしゃべりに来たり、遠くから車で乗り付ける人もいたりと大賑わいでした。
ボストンクリームパイは前に写真で見たような、こってりチョコをかけたのではなく、奇麗にアレンジしたもの。
濃厚チョコ風味が苦手な私には嬉しい驚きでした。
見た目のわりにクリームもくどくなく、おいしかったです。

この日は平日休みで、ついでに横浜中華街も回ったのですが、なんと!「ウルトラ怪獣散歩」のロケ発見。
私結構好きで見ているので楽しかったですよ(笑)。

余談ですが、キャレドニアがオニオングラタンスープ1ガロン飲めるって豪語してたのなんとも思わず読んでいたのですが、 1ガロンって4リットルくらいなんですね。
恐るべしキャレドニア・・・。

ちなみにブーゲンビリア、深紅の赤薔薇(蔓薔薇)のイメージで読んでいたのですが、オシロイバナの仲間だそうです。

★「ひとりごと」でも写真を紹介しています。

★神奈川県横浜市中区伊勢佐木町5-129
(2015年12月25日の日記)
12月11日クリスマスに死体がふたつ〜コーニッシュパスティ
★作品に関してネタバレ含みます。★

ジェィニー・ボライソーのコーンウォール・ミステリー全7巻全て読了済み。
コーンウォールといえば自然の豊かな有名な観光地。
テレビで見ることもあり、漠然と憧れていました。
シャーロック・ホームズもここで「悪魔の足」事件に遭遇したし(笑)。

さらにこのシリーズはタイトルが洒落てていい。
内容も中年女性の落ち着いたミステリーかと最初は思いました。

まずコーンウォールの自然描写、その中で暮らす人々の描写が素晴らしい。
個性的、というよりかなりクセのある人物が多く、でもそれがリアルな生活感を出している のがいいです。

ヒロインのローズも魅力的な女性ですが、読んで行くうちになんだかめんどくさい人だなあと 思い始めました。
未亡人で、夫の死をなかなか乗り越えられず、それでいて独身生活を謳歌しているので、 他人に(恋人に)プライバシーに踏み込まれるのがとにかく嫌。

恋人がたまたま殺人事件を担当する刑事なので、自分は捜査に口を出すけど、恋人には 口を出させない、書いててとんでもない気持ちになって来ますね(笑)。
でももちろん悪い人ではないのです。
読んでてもとても魅力的。

でもこれだけ好き勝手やって男性陣には限りなく愛され、女性には全て慕われるかなり都合の良いヒロインです。
だんだんこのシリーズの恋愛部分にもうんざりして来ましたが、時には強烈なしっぺ返しを食らう こともあり、それもまたリアルな世界観を醸し出しているかも?
その部分を除けば普通におもしろい。

ローズは料理好きの料理名人。
特別凝った料理を作るわけではありませんが、日々の暮らしの中で調理する場面の 描写がとてもおいしそう。
そしてとにかくよく飲みます(笑)。

1人家でも飲むし、漁師の集まるバーに行って飲んだり、なかなか勇ましいです。
でもそういう部分はいやらしくなく、男っぽいローズの性格がよく出ているので私は好きです。

コーンウォールだけにコーニッシュパスティがお約束。
コーンウォール風パイと訳して、たしかクッキングママシリーズにも出てたんじゃないかな?
このシリーズでは意外にも3巻の「クリスマス〜」で初めて出て来たような・・・。
読んだのがかなり前なので、間違ってたらすみません。
ただ1巻では具体的な料理名が出て来なかったように記憶しています。
Wikipediaによると
「イギリスのコーンウォールに関連する具入りのペイストリーである。
パスティはパイとは異なり、通常丸い平面のペイストリーに具を置いて、折り曲げて包み、縁に折り目をつけ閉じる。この結果、半円形になる。
伝統的なコーニッシュ・パスティは牛肉、薄切りジャガイモ、ルタバガ(Swedish turnip「スウェーデンのカブ」とも呼ばれる)、およびタマネギを具とし、焼いて作る。」
とあります。
ああパイとパスティは違うんですね。
アップルターンオーバーを思い出しました。

私はこれをシェパードパイと同じアルズカフェで食べました。
おいしかったけど大きかったなあ(笑)。
2人で行って、お料理2つ頼んでシェアして食べるのがちょうどいいかもしれません。
余ったらお持ち帰りもできるそうですよ。

なかなか見かけることの少ないシェパードパイとコーニッシュパスティ。
コージー好きには欠かせない、この2品を食べるならアルズカフェへ!って宣伝してしまいました(笑)。
ところでこのシリーズ、残念ながら作者が亡くなったため、未完のまま終わってしまいました。
冷たくされてもがんばったジャック、やっと報われるかと思ったのに、残念です。

★東京都新宿区高田馬場3丁目13番地1 ノークビル 1F
(2015年12月11日の日記)
9月8日クッキングママは名探偵〜シナモンロール
★作品に関してネタバレ含みます。★

子供の頃夢中になったアガサ・クリスティーのミス・マープル。
それから数十年の(笑)時を経て出会った言葉、「コージーミステリ」。

Wikipediaによると、定義としては

「ハードボイルドのニヒルでクールなイメージに対し、「地域社会が親密である」「居心地が良い」といった 意味を持つ「コージー(cozy)」を使用し、日常的な場面でのミステリーであることを示す。

特徴としては
探偵役が警察官、私立探偵などの職業的捜査官ではなく素人であること
容疑者が極めて狭い範囲のコミュニティに属している
暴力表現を極力排除していること」

とあります。
さらにつけ加えるなら

・女性が探偵役になることが圧倒的に多い。
・食べ物やおしゃれなど、女性が好みそうな薀蓄が多い。
・恋愛要素が強い。

でしょうか、私の印象だと。
もちろん例外はたくさんありますが。

さて、私が「コージーミステリ」という言葉を知ったのも、コージーにハマったのも、きっかけは ダイアン・デヴィッドソンのクッキングママシリーズ第1弾「クッキングママは名探偵」でした。
もともと海外ミステリが好きな私、書店や図書館でよく見かけていたのですが、どうしても手が出なかったのは 表紙が好きになれなかったから。

でもいったん読み始めると、これが止まらず、当時何巻まで出ていたのかな?
とにかく一気に読みこんでしまいました。
1994年(平成6年)に1作目が出ていますが、当時はコージーミステリという言葉がなく、この本も 「ドメスティックミステリ」とジャンル付けされていたようです。

「家庭内の」という意味ですね。
たしかにヒロインゴルディは、ケータラーをしながら一人息子のアーチを育て、恋愛もし、殺人事件も解決します!
典型的なコージーミステリに一見思えます。
あっ、ちなみにケータラーとはケータリングをする人、「顧客の指定する元に出向いて食事を配膳、提供する サービス業のこと」と、これもWikipediaにありますね。

パーティーや結婚式会場のセッティングをしたり、御馳走を作ってくれたり、お料理を届けるだけでなく、企画の段階から 全てをお願いできる人、それだけにゴルディのハードワーカーぶりは凄まじいです。
さらに虐待や家庭内暴力など、後で読んだコージーと一緒にしては申し訳ないほどのリアルでシリアスな問題も 描かれます。
コージーの肩書を取ったミステリとしても一級品ではないでしょうか。

いつもおもしろく読むのですが、作品としてはどうしても好きになれず、ゴルディを始めとした登場人物も好きになれません。
優しく正義感に溢れ、負けず嫌いの頑張り屋さんゴルディ。
でも私はこの作品で「コージーミステリ=素人探偵」の洗礼を受けたわけです。
他人の部屋に入り込み、荷物や書類をあさる、プライバシーを暴く、警察にしつこく絡む。

後の夫となる警察側の人物トムが、またあり得ないほどいい人で、ゴルディのそんな部分を含めて受け入れてくれるのですが、 私は駄目でした。
好きなのがマーラとジュリアンだけです。
後でいろいろなコージーを読み、素人だからそこまでしないと手がかりもつかめないのが基本と知りましたが、このシリーズは 特にそれが際立っています。

あとこれは、完全に好みの問題ですが、味見して美味しかった時の反応の仕方、目をぐるりと回す、頬の内側をかむ (これ、かなり変な顔になります)などの表現があまり好きじゃないです。
あれな言い方ですが、散々痛めつけられて大怪我してるのに「愛し合える」ところとか、はあっ?て感じでした。
それとゴルディに限らずですが、朝起きていきなり濃いコーヒーって言うのが信じられない。

空腹状態でコーヒーやお茶飲むと気持ち悪くなりません?
朝食代わりにチョコレートとか、これは普通について行けないだけですが。
と、かなり辛口に書きましたが、最終巻含め、全部揃えてるからやっぱり好きなんでしょうね。
とてもゴルディのようにはできないし。

さて、彼女はプロのケータラーなので、出て来るレシピもただのサラダじゃない、ただのケーキじゃない。
手軽に食べられない物が多いし、作るなんてもってのほか。
(お料理以外は意外とジャンクですが)。

なので今回はゴルディがトムのハートを射止めた(笑)シナモンロールで。
私、おやつパンで迷った時はシナモンロールを買うほどシナモンロール好き。
今回は東武池袋に出店していた「シナボン」です。
一度食べてみたかったんですが、あまりの巨大さにびっくり。

「今日中にお召し上がりください。」の言葉にびっくり。
2個買ったのに、今日中に食べなきゃならないの?
案の定食べきれなかった(笑)。
あと味が濃すぎて途中でダウン、4分の1個で十分でした。
私には普通のシナモンロールでいいかも。
(2015年9月8日の日記)
8月7日 氷の女王が死んだ〜ビーフ・ストロガノフ
★作品に関してネタバレあります。★

コリン・ホルト・ソーヤー著「老人たちの生活と推理」、または「海の上のカムデン」シリーズ第2弾。
第1作の硬さとシリアスさも幾分取れ、カムデンの仲間たちのキャラも立って来て、かないおもしろく 読める。
言い方は悪いが、犯人も被害者も憎まれ役なところが落ち込まずにすむのではないかと思う。
1作目の犯人はなんだか怖い中にも痛々しかった。

でもボビー・ベアードが殺されたのは残念だった。
最初のお高く留まった、かつ哀れな仮面の下にはあんなに素直で人懐っこい素顔が潜んでいたのに。 殺された後でアンジェラが読んだある手紙にはほろりとさせられた。
この作者は、やはり年齢からか経験からか、こういった深い部分をさらりと見せるのが本当にうまい。

1作目よりとっつきやすいと思う。
もちろん1作目を読んでた方が、人間関係(特にマーティネスやグローガン)のおもしろさが伝わるけれど。

ここで気になったのがビーフ・ストロガノフ。
初めて読んだ時は、ビーフシチューやデミグラスソースのハンバーグやローストビーフやハヤシライスが 頭に浮かんで結局どんな料理かわからなかった。

たまたま新宿西口のHALCのベーカリーレストラン「サンマルク」に行った時にメニューに見つけ、食べてみた。
薄切り牛肉のシチューという感じ?
調べてみたら、歳をとり、歯が弱くなってステーキを食べられなくなった貴族(ストロガノフ家)のために、 薄切り牛肉を煮込んだ料理とのこと。

このサンマルクはクロワッサンがおいしいクロワッサンカフェの系列店だが、完全に独立した店舗とのこと。
そのせいかパンがおいしく、食べ放題にもできる。
自分で取りに行くのではなく、焼き立ての小さなパンを籠に入れてテーブルを回ってくれるタイプ。
もちろん自分の食べたいパンをリクエストすることもできる。
私はミルクパンがおいしくて、そればかり食べてしまった(笑)。

東京都新宿区西新宿1-5-1
小田急新宿西口駅前ビル8F
(2015年8月7日の日記)
7月10日 萩を揺らす雨〜一川
海外のコージーミステリーにハマって、じゃあ日本のコージーミステリーは?と思った時に、「ないな〜」と思いました。
まず警察システムが違い過ぎる。
素人が警察押しのけて捜査に首を突っ込んだら、肩をすくめて苦笑どころか、公務執行妨害で逮捕されかねません。
金田一少年、名探偵コナンから浅見光彦まで、素人探偵が通用するのは、そばに警察に関わる存在がいるからで、じゃあ コナンや浅見物がコージーかというと全然違う。

日本人にとってコージーの世界はある意味ファンタジーなのかもしれませんね。
おしゃれなお店、おしゃれな会話、おしゃれな薀蓄、おいしい食べ物、熱いロマンス。
日本を舞台に置き換えると、あまりに身近すぎて現実的過ぎてコージーになりにくいのかも。
個人的には、日本のいわゆる「ライトノベル」が殺人事件はないけど、コージーに近い気がします。
年齢層はライトノベルが低め、コージーが高めな気もしますが(笑)。

そんな中、日本のコージー作家として時々名前を見るのが、若竹七海さんと、今回紹介する吉永南央さん。
吉永さんは「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズを書いています。
最初に読んだ時、「これってコージーでくくっていいのかな?」と思いました。
確かに殺人事件はないけど、主人公のお草さんが主人公となってさまざまな「日常の事件」を解決して行きます。

お草さんは和食器とコーヒー豆を商う古民家風の作りのお店「小蔵屋」を持つお年寄りの女性です。
元気で優しく正義感に溢れ、そういう意味ではコージーのヒロインと言えるかもしれません。
でもこのシリーズが取り上げる社会的な問題は深く、コーヒーを飲みながら気楽に読むという範疇を軽く超えているように思います。

ほとんどのコージーのヒロインが受ける傷や起こる事件が、ページの上を爪楊枝でひっかいた程度にしか思えない軽いものです。
そのお手軽さがコージーの醍醐味でしょうが、お草さんの物語はもっと現実味を帯びています。
似た雰囲気のコージーを探すとすれば、虐待や家庭内暴力を常時取り上げるダイアン・デヴィッドソンの「クッキングママ」シリーズか、 解説にもあるコリン・ホルト・ソーヤーの「海の上のカムデン」シリーズでしょうか。
カムデンも主役がおばあちゃんというだけでなく、笑いの中に「老い」に関するシリアスな部分が潜んでいます。

さて、この本を初めて読んだ時、なぜか勘違いして「和風のカップでコーヒーを飲ませる店」だと思ってしまいました。
和風食器を扱ってる部分で間違えたんだと思いますが、そこで思い出したのが人形町の一川(いちかわ)さん。
以前たまたま見つけて入ったお店です。
狭いお店ですが、和の食器や雑貨がぎっしりで、5人くらいしか座れない?くらいのカウンターでコーヒー(のみです)を頂きます。
御主人は黒いTシャツを着た男性で、お草さんとは似ても似つかぬ(笑)方ですが(あ、あとコーヒーもちろん有料)、 お店の雰囲気は驚くほど似てます。

とはいえ狭いお店で御主人と2人きりで最初は落ち着かないかな?と思いましたが、コーヒーを出すとすぐにレジの向こうに引っ込んで 自分の仕事をしていたので、すぐに空気のような存在に。
おそらく話しかければお返事してくれると思いますが、こちらが望まない限りはほっといてくれるようです。
これはありがたいです。

最初からお喋り楽しめるタイプではないので、こちらが馴染むまではほっといてくれるのがありがたいタイプです、私。
1人でぽんと入ると、最初は落ち着かないかもしれないので。
たまたま見つけたお店なので1度しか行ってない(場所がわからない、汗)ですが、今回レポートしたのを機にまた行ってみようかなあ。
「萩を揺らす雨」読みながらコーヒー飲むのもいいかもしれない。

★「ひとりごと」で写真を紹介しています。

東京都中央区日本橋人形町2丁目13番地7
(2015年7月10日の日記)
6月11日 メリー殺しマス〜シェパードパイ
アンジェラとキャレドニアが大活躍するコリン・ホルト・ソーヤー著「老人たちの生活と推理」または 「海の上のカムデン」シリーズ第6弾。
まずタイトルで何とも言えない微妙な気分になります(笑)。
私はAmazonで買ったけど、お店で買うのはちょっと恥ずかしいかな?
まあ表紙イラストがほのぼの可愛いので大丈夫か。

今回のカムデンは、クリスマス。
ところがロビーに飾ったツリーの下に死体が置かれていて、またまた大騒動が始まります。
殺人事件が添え物に思えるほどカムデンでの生活や仲間、警部補達との交流が楽しく描かれていて やっぱりおもしろい。
クリスマス劇で大真面目に羊の役を演じるアンジェラには吹き出してしまいました。

でもやっぱりおもしろおかしいだけじゃないんですよね、深みがある。
とても仲の悪い夫婦が出て来て、浮気を反省する夫にキャレドニアが語る言葉の重み。

          ☆           ☆           ☆          

「賢明なんだわ、お若い人」
キャレドニアは言った。
「あんたにちょっとしたアドバイスをしてあげるよ。
あんたが奥さんに、奥さんの一日はどうだったって訊いてあげたのはいつだい?
あんたが、奥さんを尊敬の目で見たのはいつだい?
あんたが奥さんを、ちょっと高級なレストランのロマンチックなディナーに連れて行ったのはいつだい?
試してごらん。
嬉しいびっくりがあるはずなんだわ。
そうだよ、何かを求めるなら、まず自分が与えないとね」

          ☆           ☆           ☆          <BR><BR> 妻に不満があるから他の女性に目を向ける夫。
結局本格的に?浮気はしなかったわけですが、妻に文句を垂れ流す前にまずは自分を振り返ってごらん?
キャレドニアは言うのです。
時折出て来る言葉の重みは、やはり恋愛重視のお気軽コージーには出せない真実味があるなあと思いました。

この話はね、年齢を重ねても楽しめる、いえ年齢を重ねれば重ねるほど読み続けたい、そんな元気をくれる 本だと思いますよ。
あっ、余談ですが、今回「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿が話題に出て来て嬉しかった。
小さい頃のアンジェラが日本の輸入品のお店で3,4回買ってもらったなんて話を読むと、ついにやけてしまいます。

さて、有能なのに嫌われ者でちょっぴり可哀そうなトゥガーソン、大安売りで羊肉をたっぷり買ったらしく、ホームの入居者を 羊料理攻めにします。
シュミット夫人は料理上手なので、毎食羊でもちゃんとおいしい料理にしてくれるんですが、それでも文句は出るみたい。
そんな中気になったのがシェパードパイ。

Wikipediaによると、マッシュポテトで作るパイ皮と牛肉(または羊肉)で作るイギリスのミートパイだそうです。
コテージパイとも言い、コージーミステリではよく見かける料理です。
私はこれを、高田馬場の「アルズカフェ」で食べました。
(お店ではシェパッツパイと表記されています。)

イギリス人のアルさんと日本人の奥様の楽しいお店で、後日紹介予定ですが、やはりコージーおなじみのコーニッシュパスティや ブラウマンズランチ(農夫のランチ)なども食べることができます。
お店もおもちゃ箱みたいに楽しいし、おいしいバターをたっぷり塗った小さなトーストもおいしいし、私が大好きなお店のひとつです。
マッシュポテトってあまり好きじゃなかったんですが、このお店で食べて好きになりました。
なんだ私、これまで本当のマッシュポテト食べたことなかったんだ(笑)。
ところでこの本のおもしろさは、内容もさることながら文章にもあると思うんです。
軽快でノリのいい文章。
原文もそうなんでしょうが、中村有希さんの訳がいいですね。
クセがなくてテンポが良くて私は好きです。

中村さんの訳は他にメグ・キャボット著「サイズ12はでぶじゃない」のシリーズもおもしろかったな。
表紙とタイトルでなかなか手が出なかったんですが、読んでみたらおもしろかった。
今度エレイン・ヴィエッツの転職シリーズ?も読んでみようと思ってます。
コージーは表紙イラストが苦手な物が多いので、どうしても読まず嫌いが多いです、反省。

そういえば先日テレビで「カムデンズ ブルースター ドーナツ」日本上陸のニュースを見ました。
ドーナツじゃなくて「カムデン」に「おっ!」と反応してしまったんですが、こちら はオレゴン州ポートランドから出たらしい。
このカムデンは名字でしょうか?カムデンさんが作ったドーナツみたいな。
カムデンって地名はニュージャージー州にあるらしい、イギリスロンドンにもあるらしい。

イメージとしては「海の上の住居?」みたいな意味かと思ってたんですが、カムデンにそういう意味はないみたい。
もしかしたら本の中で説明があって見逃してるのかもしれませんが気になります〜。

★「ひとりごと」で写真を紹介しています。

(2015年6月11日の日記)
5月27日 パイは小さな秘密を運ぶ〜カスタードパイ
17歳の姉が、13歳の姉と一緒になって11歳の妹(主人公)に猿ぐつわをかませ、後ろ手に縛って真っ暗な クローゼットに閉じ込め、外から鍵をかける。
妹視点で語られる物語なので、いきなり犯罪かとびっくりするが、実はこれ、小生意気な妹に対する 姉たちのお仕置き。

なんてひどい、と思わず眉をひそめるけど、この妹がまた負けてない。
自力で脱出した後は、姉の口紅を盗み出し、いったん溶かして漆を混ぜてまた固め、元通りにして返しておくという とんでもないことをやってのける。

わけあって、子供ながら大人の化学者並みの化学技術と知識を持ち、さらにその技能を生かすだけの器具も部屋も 揃っている子供なのだ。
もう冒頭から夢中になった。

コージーミステリを読むようになって、あちこちで見かけたナンシー・ドルー物は私には合わなかったが、これは好き。
舞台が現代だったら大問題になりそうなこの家族も、1950年代にしたことで奇妙な緩さを感じながら読むことができる。

口紅の仕返しから容易に想像つくように、この主人公のフレーヴィアは頭はいいけど気が強くて生意気で負けず嫌いで 可愛げがない「妹」。
なんだかなあと思うでしょ?

ところがそれでいて寂しがり屋で、意外なところでもろさも見せて、頭はいいけどまだ子供なので、大人を出し抜いたつもりで しっかり見破られてたり、という可愛さもしっかり兼ね備えているからたまらない。
愛車(自転車)グラディスに乗って、大声で歌いながら田舎の綺麗な景色の中疾走するフレーヴィアの姿は微笑ましいけど やっているのは殺人事件の捜査。

コージーでありながら、子供の頃読んだ「赤毛のアン」や「あしながおじさん」に似た雰囲気も感じさせる拾い物だった。
著者がなんと、イギリスを舞台にした物語でありながらイギリスに行ったことがないというアラン・ブラッドリー、しかも この作品を書いたのが70歳の時というから 驚く。

でも女性が書く少女に時々見られる、愛らしさの押し付けがなく、おじいちゃんが孫を語るようなほのぼのとした雰囲気を漂わせているのはいい。
日本では5冊出ているが、イギリスで去年6冊目が出たようなので、是非日本でも出して欲しい。
Wikipediaによると、ドラマ化もあるようなのでこれは見たい。
さて、この本の中で重要な?キーアイテムのひとつとなるのがカスタードパイ。
家政婦のマレットさんが作ってくれるのだが、実はフレーヴィア初め家族はみんな、このパイが大嫌い。
でもマレットさんにも秘密があって・・・。

他愛ない秘密だが、フレーヴィアが珍しくぺしゃんこになる様がおかしくて、何度読んでも笑ってしまう。
古賀弥生さんの訳もフレーヴィアの口調にあってるし、リズミカルで読みやすく、ちょっと古めかしい表紙絵もいい。

ところがこのカスタードパイ、探してみたけど見つからない。
たまにあっても、マクドナルドのアップルパイみたいにカスタードクリームを詰めて揚げたパイばかり。
私の好きなマミーズにもなくて、ただアップルパイにカスタードクリームを詰めた物はいくつかあった。
でもなんかの時に巣鴨乗り換えがあって、アトレヴィ巣鴨の「デリフランス」で偶然見つけたのがアップルカスタードパイ。

りんごがのってるけどまあいいかと思って買ってみた(笑)。
りんごの酸っぱさとカスタードクリームの甘さのバランスがいい感じでおいしかったけど、これ、りんごを寄せてカスタードだけで食べると なんか大味というか物足りないんだな。
もしかしたら普通のカスタードパイがあまりないのは、このせいかもしれない。

シュークリームやクリームパン、揚げたカスタードパイに比べて、普通のパイ生地とカスタードだけだと味が弱いのかもしれない。
上にりんごやイチゴ、バナナをのっけたカスタードデニッシュなどもよく見るので、カスタード+フルーツが日本の定番なのかも。 (2015年5月27日の日記)
4月15日 ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ〜サブマリンサンド
コージーミステリで一番多いのは、やはり20代〜40代の女性が主人公のロマンス系でしょうか。
独身、主婦、離婚後と3パターンありますが、特にクッキングママ、お茶と探偵、コーヒー探偵など長期シリーズが 多いせいもあるかもしれません。
それらを一気に読み過ぎて、少々飽き気味だった頃、見つけて新鮮だったのが

・主人公が子供
(アラン・ブラッドリー「少女探偵フレーヴィア」シリーズなど)
・主人公がお年寄り
(リヴィア・J・ウォッシュバーン「お料理名人の事件簿」シリーズなど)
・主人公が男性
(ジェフ・アボット著「図書館」シリーズなど)

など、早い話がヒロインが若い女性じゃない系ですね。
トリックがどうの、ストーリーがどうの以前に、主人公が女性じゃない事に喜んでた時期です。

その中でもおもしろく読んだ本の1つが、このピザマンシリーズ。
2冊目まで読むと、「ピザマン」と名付けたのは失敗だったんじゃ?と思うけど。
原題は「A Working Man's Mystery」、直訳すると「労働者」でピザ限定ではなかったりします。
むしろどんどん大工さんになって行く(笑)。

それはともかく、主人公のテリーは腕のいい大工でしたが、ある晩酔ってバーで暴れ、逮捕されて実刑判決を受けます。
出所したテリーは、妻も仕事も住む場所も全て失い・・・、物語はここから始まるのです。
旅行でアメリカに行っても、ちゃんとした人に紹介されない限り、怖くて近づけないような雰囲気のテリーですが、 (うらぶれた街角でよれたTシャツと穴の開いたジーンズ、煙草とビールを手に壁に寄りかかってるイメージ?) 実はとてもストイック。

きっちりお酒を断ち、ピザ屋さんで配達係としてハードな仕事をこなし始めます。
元々悪い人間ではないので、生活を建て直し、友達も増えて。
この友達がまた個性的と言えば聞こえはいいが、弁護士さんや警官や、かと思えば薬物使用の男など、とにかくいろいろ。

でもみんな、現実にはあり得ないだろうって思えるほどいい人たちで、いい関係を築いていて、殺人事件すら抜群の チームワークとテリーの推理で解決します。
嘘でしょ?そう嘘なんです(笑)。
限りなく嘘っぽい。
でも小説なんて元々現実じゃないんだし、読んでて気持ちいいし、限りなく高カロリーでアメリカンな生活を自分も送ってるような 気持ちにさせてくれる楽しい本です。
何ていうかな、アメリカに行ったら偶然テリーと知り合って、一緒にトレーラーで気軽な共同生活できちゃったみたいな。
実際にはあり得ないでしょ?だからいいんです。

この本のもう一つ好印象なのは、警官との仲がうまく行ってること。
警察に危ないから、邪魔だからと言われてもごり押しするのがコージー探偵。
時々イライラすることもないではないんですが、上記にあげた作品もですが、主人公が男性、子供、お年寄りの場合は、 そこが意外にうまく行ってる物が多いです。
そういう設定の物もあるし、うまく「やってる」物もある。

で、出てくる食べ物が変わったものじゃなくてもとにかくおいしそう。
コーラにピザとかステーキとかコーンビーフハッシュ、ハッシュブラウン、ソーセージ、テキサストーストに卵3個のお皿とか。
テキサストーストって何だろ、テキサスらしく巨大なパン?と思ったら、固いパンがメインのアメリカで、日本みたいな柔らかい食パンのことらしいです。
日本では買えない模様。

じゃあサブマリンサンドは?
ミートボールのサブマリンサンド、おいしそうじゃない?
と思ったら、ドトールやサブウェィで普通に売ってる、早い話が細長いパンにハムやレタスを挟んでる、あれのことでした。
なるほど、潜水艦に見えない事もない(笑)。

でもミートボール挟むなんて、普段あまり見ないような、溢れんばかりの具材が入った豪快なサンドイッチなんでしょうね。
どうです?テリーの仲間になってみたくありませんか?

作者のL.T.フォークスはオハイオ在住としかわからない謎の作家。
公式サイトによると、アメリカでは3冊目「EARLY EIGHT」が出てて、4冊目にも取りかかっているようです。
(英語なのですんなり読めない、泣)。
日本で2作目が出たのは2011年(平成23年)なので、まだ3作目が出る可能性はあるのかな?
(2015年4月15日の日記)
4月3日 だがしかし〜駄菓子
私、凄い漫画好きと思われてるかもしれませんが(笑)、実はそうでもないです。
好きなのはとことん好きだけど、興味ないのは全くないタイプ。
そんな私ですが、久々にとことんハマったのが、現在「少年サンデー」連載中のコトヤマさんの「だがしかし」。
駄菓子がいっぱい出てくるから?それもあるけどそれだけじゃないです。

キャラの魅力(ほたるとサヤのダブルヒロイン)にそこかしこに感じる懐かしさ、薀蓄、ギャグ、全てが楽しい。
サンデー毎週買ってますが、欠かさず読むのは「境界のRINNE」だけなので、しばらく気づいてませんでした。
絵もクセがあるしね(いい意味で)。
でも甥っ子が好きだと言ってて、「だがしかし」が「駄菓子菓子?」と読めて来て、とりあえず読んでみたらおもしろかった。

で、1話まで遡って読んで、すっかり夢中になったのです。
毎週駄菓子が出て来ますが、知ってるのは意外となくて、知ってても食べたことないのもたくさんあって(人参とか麩菓子とか)、 へえと思いました。
「だがしかし」の影響か?(実際人気大爆発なんですよ、妖怪ウォッチとかポケモンとかそういうレベルではないけれど、笑)、 最近スーパーやコンビニでもちょこちょこ見かけるようになりました。

でもやっぱり、駄菓子を買うなら上川口屋さんですよね〜。
そう、雑司ケ谷鬼子母神内にある駄菓子屋さん。
天明元年(1781年)の創業以来230年近く続いていえ、現在の店主内山雅代さんで13代目!
気さくでいろんなお話してくれます。

私は「だがしかし」を知る前から、雑司ケ谷の鬼子母神はよく行く場所で(犬夜叉や京極物とも関わりがある)、上川口屋さんにも 何度もお邪魔してましたが、あまり買うことはありませんでした。
でも最近は大人買いですよ(笑)。
以前サンデーで特集組まれたこともあり、リスト見ながら「だがしかし」に登場した駄菓子を片っ端から買ってる若い男性を見かけたこともあります。
先日「人参」掲載後に行ったら、いつもあれほどある「人参」が全て売り切れてました(笑)。
全部が全部売ってるわけではないですけどね。
私は「ポテトフライ」が気に入りました。
ほたるさんいわく「こんなに薄いのに味は濃厚・・・!
そしてこも油っぽさがまた・・・ジャンクで良い・・・・・・」

コトヤマさん、特別駄菓子が好きというわけではないと書いてましたが、本当に?と疑いたくなるくらい絶妙の感想です、いつも。
でも確かに全体的に味が濃いので、食べすぎはいけませんね。
「さくら大根」かじった時、むせました。
いっぱい買っても、いつも連れや甥っ子に食べられてしまうので、まだ食べてないのもいっぱいありますが、とにかく駄菓子も「だがしかし」も楽しいです。

★「ひとりごと」でも写真を紹介しています。
鬼子母神の写真は「こちら」。

★「上川口屋」
東京都豊島区雑司が谷3丁目15−20
(2015年4月3日の日記)
3月29日 あつあつ卵の不吉な火曜日〜オムライス
「お茶と探偵」シリーズのローラ・チャイルズの「卵料理のカフェ」シリーズ第1弾です。
お茶は美人で有能な30代のセオドシアと老紳士のドレイトン、天才パティシエヘイリーのトリオですが、こちらは40代のスザンヌ、トニと50代のペトラの3人組。
卵料理専門店「カックルベリー・クラブ」は3人の共同経営。
舞台は、お茶はサウス・カロライナ州チャールストンのおしゃれな街、卵はテキサス州キンドレッドの小さな田舎町。
西部劇のテンガロンハットにジーンズのイメージそのまんまです。

で、何が言いたいかと言えば、お茶と卵の違いはそれだけ。
ヒロインのスザンヌとセオドシアを入れ替えても両方物語が成立すると言ってもいいくらい、そっくりな小説です。
本来ならば私があまり好きではないパターンなのですが、そこはほら(笑)、おいしい物がたくさん、それもジャンルが増えたって思えば、ね?
実際読んだだけで、「えっ?こんな卵料理があるの?食べたい!食べたい!絶対食べたい!」と転げ回りたくなる描写がたくさんです。

ローラ・チャイルズの描くヒロインは比較的クセがなくて読みやすいのが特徴ですが、逆に言うとキャラが薄い。
完璧すぎるんですね、丁寧過ぎるヒロイン描写が逆にヒロインから個性を奪ってる気がします。
それで思い出したんですが、もう1人ジェシカ・ベックの「ドーナツ事件簿」シリーズのヒロイン、スザンヌも個性の強くないキャラでした。
スザンヌつながり(笑)。

だからと言って不満がないわけではなくて、読んでてあれっ?と思ったのがお茶にもあった作者の「気取り」の部分。
卵にもお茶の趣味を加えてアフタヌーンティーをしたりしてますが、正直浮いてる気がします。
ああそれはいいんですが、どうも「お茶を愛する高尚な自分」が無意識のうちに顔を出してる気がする。
卵は、それこそがっつりドーナツとコーヒー、ビールとステーキみたいな雰囲気の町にお茶の楽しさを伝える。

あるいは初心者にお茶の薀蓄を語り、興味を持ってもらう。
やっていることは素敵なのだけど、たとえば121ページの

          ☆           ☆           ☆          

ティータイムをもうけた初日から、キンドレッドの女性たちはこの町にハイソな雰囲気とヨーロッパ的な優雅さを伝えようというスザンヌの野望に共感した。

−(中略)−

朝はジーンズとボニー・レイットのツアーTシャツでカックルベリー・クラブの朝食を食べていた女性が、午後には「ゴスフォードパーク(イギリスの上流階級を描いた 映画)のエキストラと見まがう貴族のようないでたちで、意気揚々と店に顔を出した。

          ☆           ☆           ☆          

こういった部分こそ控えめに書けば好感度がかなりアップするのに、作者はヒロインやお茶に関する描写に力を入れ過ぎるきらいがあって、それが逆効果になってる気がします。
私が「この女性」で、こんな風に思われてると知ったら、正直馬鹿にされてるとしか思えません。

素人探偵の捜査方法としては、例によってごり押し戦法ですが、これはこのシリーズず限らず、ほとんどのコージーミステリの特徴なので、まあ仕方ないかな?
むしろ最新作「保安官にとびきりの朝食を」でいつも困らせ、怒らせている保安官との暖かな交流もしっかり描かれてたし。
ただコージーにも越えていけないル ールはあると思う。
クラエスがらみの部分ですね。

ヒロインが毎回無軌道に突っ走って危険に陥り、最後なぜか必ず助かるのはいいんです。
コージーは「夢」なんです。
でも危険な暴力団体にあんな形で関わってどうのこうのは「嘘」になります。
素人の域を出ちゃうと興ざめです。
厳しいことも書きましたが、並み居るコージー群の中ではローラ・チャイルズののシリーズは両方とも常に★4つをキープしています。
おいしそう、ヒロインにクセがない、時々読み返したくなる、これ大事です。

私の周りには残念ながら個人でやってる卵カフェなんてありません。
っていうかドーナツショップもカップケーキやマフィンの専門店もほとんどがチェーン店ですよね、日本だと。
「友だちがカフェ開いたの」なんてことでもない限り、常連さんにはなれても友達にはなれなさそう。
で、私は池袋サンシャインの「卵と私」に時々行きます。

お店が狭く、いつも混んでて写真も撮れませんが、可愛いニワトリの置物もあったりしてお気に入り。
写真は名前忘れましたが、キノコのクリームシチューかホワイトシチューのオムライスだったかな?
秋だったので「きのこきのこ〜」と叫びながらキノコ料理食べまくってた時期なので選びましたが、やはりケチャップをかけた王道オムライスが一番好き。
あと、本に出て来るような見たこともないメニューはない、まあおいしいけれど普通のお店?なのでやっぱりできて欲しいな、カックルベリー・クラブinJapan。
ちなみに「カックルベリー」とは、「ニワトリの卵」という意味だそうです。
そうそう、このシリーズの表紙は好きです。

★「卵と私」
東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャインシティ内
(2015年3月29日の日記)

3月18日 老人たちの生活と推理3〜パンケーキ
カムデンシリーズを読んでいると、どうしても読みたくなるのが吉永南央さんの「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ。
「観音さまが見下ろす街で、コーヒー豆と和食器の店『小蔵屋』を営む気丈なおばあさん、杉浦草(Amazonより)」さんが主人公を務める話。
数少ない日本のコージーミステリの代表作のひとつ。
ただし殺人事件は出て来ないので、厳密にコージーミステリと言えるかどうかはともかくとして、私はこのシリーズも大好きです。

この2作を読み比べて見ると、「老い」の捉え方の違いが本当におもしろい。
草さんは、「老い」と真っ直ぐに向き合い、毅然として受け入れて行きます。
無理して若ぶったりしない、普通におばあちゃんしてますが、その生き様は清々しくて凛々しくてかっこいいです。

一方アンジェラやキャレドニアは「老い」に敢然と立ち向かいます(笑)。
でもいわゆる「若作り」とは違うたくましさ。
ステラが年齢について語った時にキャレドニアが言い放つ言葉。

          ☆           ☆           ☆          

「あたしの前で『歳』だの『太ってる』だの泣きごと言うんじゃないわ」
キャレドニアの声はどんどん大きくなった。
「そもそも、あたしはあんたの倍も太ってるけど、動き回るのはちっとも苦にならないよ。
それに歳、歳って言うけど・・・・・・あたしは自分を年寄りだと思っちゃいないからね。
年寄りになるのも、自分を年寄りと決めつける人も、おことわりだわ」

          ☆           ☆           ☆          

この迫力!
しかも彼らの場合口先だけじゃなく、実際に行動で、いえ暴走でその気概を証明してくれちゃいますから(笑)。
全編通してその力強さが生き生きと描かれていて、この本もおばあちゃんになっても大切に読み返したいと思っています。
もちろん海外のおばあちゃんがみんなこうだと言うわけではなく(笑)、ミス・マープル(イギリス)やフィリス(リヴィア・J・ウォッシュバーンの 「お料理名人の事件簿」シリーズ=アメリカ)などもいますけどね。

もう1ヶ所是非紹介したいのは、お年寄りの恋愛に対してびっくり反応を見せてしまったスワンソン青年にナンが言い放つ言葉。

          ☆           ☆           ☆          

「−(前略)−
ハムレットは母親に夫殺しの容疑者には近づくなと言ったわけ。
そんなに難しいことじゃないはずだってね。
『あなたのお歳で熱き血潮のたぎるわけでもありますまい』
あたしはね、なんでその時、母親がヘアブラシをぶつけてやらないかって、いつも思うわ。

がつんと言ってやるべきだったのよ。
『あら、そう。
わたしの歳になるまで待ってごらん、坊や。
いまの台詞はそれからお言い』って。」

          ☆           ☆           ☆          

どうです?このかっこ良さ。
作者コリン・ホルト・ソーヤーの経歴見るに、彼女自身がこういったパワフルな人なんだろうなあと思います。
さっきニュースで100歳のおばあちゃんが誕生日の記念にスカイダイビングしてる映像流れましたが、ああかっこいいなあと思いました。
誰もが迎える「老い」、毅然と受け入れるも良し、賑やかに抗うも良し、楽しいおもしろいを越えていろいろ考えさせられるシリーズです。

それにしても気持ちいいのがキャレドニアの食べっぷり。
シロップ漬けのパンケーキとか、メープルシロップの海に浮かぶパンケーキの島しか想像できません(笑)。
先日サンシャインシティに行ったらハワイアングルメお店「KUA`AINA(クアアイナ)」がすいていたので入りました。
開店当時はいつ通っても長蛇の列だったけど、最近は落ち着いてきたようです。
で、パンケーキを注文しましたが、添えられたクリームのボリュームにびっくり、おいしかったけど甘さにもびっくりでした。
思わず「キャレドニアのパンケーキ」と心の中で命名してしまいましたよ。
それで思い出しましたが、MONさんの「アメリカまるかじり」って本で読みましたが、パンケーキのパンってパン(bread)じゃなくて フライパンのパンなんですね。

日本で言う「パン」は「ブレッド」のパンと同じ意味のポルトガル語。
フライパンの「パン」はフライする「鍋」という意味の「パン」、勉強になりました(笑)。
もうひとつ「アメリカまるかじり」で見つけてびっくりが、ハムはもともと豚のもも肉の意味なので1ham2hamと数えるとか。
おお!おお!おお!

さて1作目の「老人たちの生活と推理」だけで3回も書いてしまいましたが、このシリーズはおもしろいし、おいしい物がたくさん出て来るので 今後も感想書く予定です。
実写でドラマ化してくれないかなあ。

★「KUA`AINA」
東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャインシティ内
(2015年3月18日の日記)
3月13日 老人たちの生活と推理 2
★ネタバレ含みます。

まず登場人物の紹介から。
「非の打ちどころのない樽型体型で、身長は150センチ足らず、下半身をサポートストッキングで引き締め、念入りにウエーブをかけた雪白の豊かな髪を巨大な髷に結い、たいがいの七十八歳の老婦人と同じくらいしか皺のない」アンジェラ。
アンジェラが「小柄なのに負けないくらい、大柄で威風堂堂たる体格」のキャレドニア。
この2人の老婦人がメインキャラとなって数々の難事件で暴走します、じゃなかった、数々の難事件を解決に導きます。

それにしても「非の打ちどころのない樽型体型」って(笑)。
表紙イラストにあまりにもピッタリなこの表現。
9ページ目に出て来たこの一節を読んだ瞬間、「あっ、私この本好きになる!」って思いました。
翻訳の中村有希さんの文体とセンスが好き。

でも最初に言い訳を。
素人が探偵と称して人の部屋に勝手に入って荷物をあさったりすることにすごく厳しいことをこれまで書いて来ました、私。
でもこの2人はこれまでのヒロイン探偵のレベルじゃない暴走っぷりを見せます。
時には暴走が行き過ぎて眉をひそめることもないではないですが、なぜかそこまで怒れない。

それは「作者が」正義感や友情や家族愛などの言葉を使って「言い訳」しないからだと思うんです。
むき出しの好奇心と旺盛な野次馬根性、彼らの暴走の基本はそれです。
そして一定の年齢に達した人間が、いろいろな意味で若い世代の常識を越え、彼ら世代の新たな常識を培っていくことについて何度か語られます。
もちろん殺人を、死を肯定するわけじゃないけど、老人にとって「死」が意味することは、私達とは違うのです。

こうした言葉があちこちに散りばめられています、その言葉の持つ意味は深いです。
アンジェラ世代(たぶん)の作者だからこそ書き得た物語だと思います。
そういえば横溝正史さんも作品の中で老人の常識について時々書いてますね。
あまりいい表現してないので引用しませんが、意味はおそらく同じです。

さて2人は「海の上のカムデン」という名前の超高級老人ホームに住んでいます、ここが大事。
カリフォルニアのサンディエゴ近く、かつてスターたちが楽しんだ高級ホテルのリフォームだけに、至れり尽くせりの贅沢ホームで、誰もが夢見る老後の生活が送れそう。
そう、お金ががなくては入れないホームなんですよね。
そして物語の舞台もここです。

1作目だけに、2作目以降とはちょっと趣が変わってる部分もあります。
というより1作目をリセットしたって感じでしょうか。
まずタイトルがすごくまじめで面白みがない。
正直言って「老人たちの生活と推理」のタイトルに興味を惹かれて手に取る人はそんなにいないと思います。
私もタイトルじゃなくて、表紙の可愛さで手に取りました。
まあミス・マープルみたいな「優しくて大人しい」おばあちゃんをイメージしてたんですけどね(笑)。
2作目からはタイトルも工夫を凝らした楽しい物に変化します。

次にメインの探偵役が4人から2人に減りました。
ナンもステラも大好きだったけど、彼らは1作目で退場します。
何となくいつもアンジェラが暴走してキャレドニアがブレーキをかけるイメージありましたが、最初はむしろキャレドニアがリードしてたんですね。
アンジェラの暴走本能に火をつけたのはキャレドニアでした。

でもキャレドニアがいなくてアンジェラだけだったら、私この本、あまり好きになれなかったかも。
2人揃ってこそのおもしろさだと思います。

そして一番大きな違いは、1作目が犯人も被害者もホーム内にいる事件だったこと。
2つの殺人事件の他に、もう1つ陰湿な事件があって、そちらにも犯人が2人、被害者が複数います。
それだけに事件全体が陰鬱なものになっています。

でも2作目からは被害者がホーム外か、新しい入居者で、いわゆる「仲間」ではないうちに事件になるので、仲間内で疑ったりすることがない。
なので事件自体は陰惨でも、アンジェラたちはそれほど暗くならず、「ホームの生活の楽しい描写」と「事件にまつわる部分」を完全に切り離すことに成功しています。
これに伴い、1作目の陰湿な事件もどうやらなかったことにされているようです。

またまた続きます。

(2015年3月13日の日記)

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