先日「怖い絵展」に行って来ました。
あいにくの雨でしたが、そのせいか思ったよりすいてて、さほど並ばずに入れました。
中に入ると、スタッフの方が「順番に見なくても、中の方がすいてますのでそちらもどうぞ。」みたいなアナウンスをしてて、それに従って一気に出口のそばまで。
おかげで私がどうしても見たかったジェーン・グレイを、しばらく独り占めできました。
まず驚いたのは絵の大きさ。
横3メートル縦2.5メートルほどの大きさなので、当然描かれる人物像も大きく、見る側はジェーン・グレイを下から見上げる感じになります。
その美しさ故に、まるで舞台を見ているような錯覚に囚われます。
薄暗い背景に際立つ純白のドレスと目隠し、白い肌、そして清純でありながら官能的な赤い唇。
後ろで嘆き悲しむ侍女に比べて、目が隠されているにもかかわらず、静かな悲しみをたたえたその表情が印象的です。
「9日間の女王」と呼ばれたジェーン・グレイの悲劇はあまりに有名なので簡単に紹介すると、宗教をめぐる権力闘争の末、夫であるギルフォードと共に王座に据えられます。
けれどもわずか9日でメアリ1世により廃位、逮捕、ロンドン塔の幽閉、処刑の道を歩むことに。
その理不尽な運命に対する画家ドラローシュの怒りが極端に美化されたジェーン・グレイの描写に溢れていますね。
この絵の非現実的なほどのジェーン・グレイの美しさが見る者に違和感を抱かせないのは、この美しさが見る側に媚びたものではなく、ジェーン・グレイへの同情、共感、敬愛の念に満ちているからではないでしょうか。
彼女の人生に関しては知っていましたが、この絵自体もまた不可思議な歴史を辿って来たというのは初めて知りました。
1883年にパリのサロンで発表されますが、後にロシア人の富豪が購入したことでいったん見ることができなくなります。
しかし1870年にイギリス人が入手し、ナショナルギャラリーに寄贈したことで再び見ることができるようになりました。
この時、夏目漱石も見に行ったそうです。
1928年にはテムズ川が氾濫し、この絵も行方不明になりましたが、半世紀後の1973年に若い学芸員が奇跡的に無傷で発見しました。
この絵をよくぞ日本に持って来て下さったと中野さん始めスタッフの方々には感謝しかありません。
怖い絵展の目玉となったこの作品ですが、「怖い絵」というよりは「哀しい絵」「美しい絵」と私は表現したい。
数奇な運命をたどってこうして日本で見ることができた幸せ、もう一度ジェーン・グレイに想いを馳せたいです。
もうひとつ見たかったのがウォルター・シッカートの「切り裂きジャックの寝室」。
ケイ・スカーペッタが主人公の検屍官シリーズを書いたパトリシア・コーンウェルのファンならご存知かと思いますが、コーンウェルは「切り裂きジャック」でこの事件を検証し、犯人をシッカートと断定しています。
その正否はともかく、コーンウェル自身がスカーペッタになったような、その検証の過程はとても読み応えのあるものでした。
そのシッカートは切り裂きジャックが住んでいたとされるアパートを借り、描いたのがこの作品。
ストレートな意味で「怖い」作品はこれかと思います。
別の意味で怖かったのがモッサの「飽食のセイレーン」。
夢に出て来そうな怖さです、でも笑える怖さ。
でも全体的に本当に怖いのは(ホラーを見慣れてる私からすれば)、残虐な絵よりも雰囲気で怖さを表現している絵でしょうか。
画集も読み応えあったし、できれば何度も見に行きたいです。
最後に笑ったのがグッズ売り場で見つけた「黒い恋人」とのコラボお菓子。
白い恋人を怖い絵展用に作ったのかと思ったら、全く別メーカーの別のお菓子なんですね。
でも私はここで「白い鬼人」を思い出してしまったのです、余韻が台無し・・・(涙)。
10月7日から12月17日まで上野の森美術館で開催中、1,600円。
お勧めです。
(20年10月24日の日記)
|