おいしい本(一)


本の町の殺人〜ロブスタービスク
「1、2時間、そのプレッシャーから逃げ出すってのはどうだい?。
高速道路沿いに小さなビストロがあるんだ。
まあまあのロブスタービスクを出すんだよ。
それにサワードゥ・パンは伝説の代物だ」
「いまのわたしには、天国のように聞こえるわ」
「よし。11時30分に迎えに行くよ」

「待ってるわ」
トリシアが電話を切ってふり向くと、すぐそばにギニーがいた。
「デートですか?」
「デートじゃないわ」
「そちらは37ドル50セントです」
ギニーは年配の男の客に言った。
ディミティおばさま現る〜ストロベリータルト
舞台の演出を母なる自然に任せたことが、功を奏した。
その日も晴れだったので、エマがやってくると、ごく自然にサンルームを使おうという話になったのだ。
おばさまの料理本の、そして台所仕事にますます自信がついたおかげで、わたしはシードケーキとメレンゲ、 そしてストロベリータルトをどっさりと焼いた。
ビルはおばさまの一番上等のティーセットとテーブルクロスをセットし、エマは花を摘んで家のあちこちに置き、 さらにレジナルドの耳まで、小さなデイジーの花輪で飾った。
エマが客人の到着を告げたときサンルームはエドワード朝時代の小説の一場面のようになっていた。
アガサ・レーズンの困った料理〜キッシュ
わたしのキッシュが優勝すればいいけどと、アガサはむっつりと考えた。
彼女はぼったくられることには敏感だったが、まさに「フェザーズ」はそういう店だったからだ。
店主はバーのこちら側に立って仲間と飲んでおり、メニューはもったいぶっていて、ぞっとするほど高く、 不愛想なウェイトレスはアガサの怒りとかきたてた。
予想通り、カミングズ=ブラウン夫妻はメニューに載っている2番目に高いワインを選んだ。
それも2本。
コーヒーが運ばれてくるまではもっぱら2人に話をさせておき、そこで彼女は問題に入った。
いつもどういうキッシュが優勝するのかと質問すると、たいていキッシュ・ロレーヌかマッシュルーム・キッシュだと ミスター・カミングズ=ブラウンは答えた。
アガサはいちばん好物のキッシューほうれん草キッシュを作ると宣言した。
午前二時のグレーズドーナツ〜オールドファッションドーナツ
ジェシカ・ベックのドーナツ事件簿第1弾。
このシリーズ5作目まで出てますが、読んでると必ず心に浮かぶのが「女は強し、されど男は弱し」って言葉。
クセのないヒロイン、完璧な親友、できた母親とあまりに典型的なコージーで、読み終わると設定忘れてしまうほどです。
よく言えば読みやすい、悪く言えば個性がないってところでしょうか。

でも恋人ジェイクを始め男性陣が弱すぎて、男前な親友1人いればすべてが片づく感じがなんとも言えません。
表紙がシンプルにドーナツなのと、エイプリル・スプリングズの地図が可愛いのはポイント高いです、好印象。

ハンナ読んでればクッキー食べたくなるし、シャーロット読んでるとチーズかじりたくなりますが、この本読んでると、ほんとドーナツ食べたくなります。
ケーキドーナツとイーストドーナツの違い、「グレーズ」の意味などほんと勉強になるし(笑)。
私それまでグレーズってドーナツにかかってる砂糖を溶かして固めた物だと思ってましたが、グラニュー糖やカラースプレーチョコふりかけたのも 全てグレーズなんだそうですよ。

ドーナツと言えば最近クリスピークリームドーナツ苦戦のニュースが悲しい。
池袋東武にできた頃は、毎日長蛇の列で買うのが大変だったのに、数年前に撤退。
今は買いに行くのが大変です。
池袋の駅地下の出店、まだあるかな?

ミスタードーナツも大丈夫かなあ。
ささやかな応援のためにコンビニドーナツは買わない私(笑)。

そしていろんなドーナツの中でも一番好きなのはオールドファッションです。
写真はチョコがけですが、これも大好き、一番好き。

飾りに凝ってない分、シンプルなおいしさが引き立つし、逆にできあがりから時間がたったのははっきりわかる、おいしくない。
なので時々出店出てることあるけどそこでは買いません。

こだわりますよ?ドーナツ。

最近コージーミステリに関する質問を頂くことが多いのですが、クリスティーは別格として、お勧めというより入門編としては最適な1冊かなと思いますよ。

容疑者たちの事情〜サーモンステーキ
最近は老舗の和の料理が続いていましたが、コージーミステリに戻ります。
「容疑者たちの事情」は、以前「クリスマスに死体がふたつ〜コーニッシュパスティ」で紹介した ジェイニー・ボライソーのコーンウォールミステリの第一弾です。

表紙の奇麗さとタイトルのうまさと(シリーズ通していいタイトルです)、大人の女性ということで落ち着いた物語、 かなり気に入った記憶があります。
だんだんヒロインのローズを(女性の目で見て)めんどくさい人だなあと(笑)思うようになりましたが。
(そこが男性にはたまらなく魅力的に映るらしいです)
1作目だけにローズの性格がまだ確立していないのでかえって読みやすいのかも。

前にも書いたように、作者のボライソーさんが執筆半ばで亡くなってしまったので、このシリーズが 未完で終わったのは本当に残念です(特にジャックにとっては)。

でもこのシリーズ、男性よりも女性の方が個性がはっきりしていて魅力的ですね。
好きになれるかどうかは別として、書き分けがはっきりしています。
男性、老人になるとまたいい感じなのですが、恋愛の対象となるような男性がみんなステレオタイプで つまらない。

作者は女性を、さらに言えばローズを書きたかったんじゃないかなと思えるほど、ローズとコーンウォールの 風景描写に力を入れています。
その意味でこのシリーズは作者自身をモデルにした私小説と言えるかも。

さて、身なりもかまわず、自由気ままな生活をしているローズですが、いざ着飾れば誰もが目を奪われる 美人さんだし、料理をすればプロ並みだし、不器用な私としては、それちょっとずるくない?と突っ込みたくなるほど 完璧です。

今回おいしそうだったのがサーモンのステーキ。
ローズは実によく飲む人ですが、この時も料理しながらワインをちびちび飲んでいます。
おしゃれですね〜。

真似してみたいですが、最近はすっかり弱くなった私、料理しながらワインなんか飲んだら、めんどくさくなって 手抜きになりそうです、だからやらない(笑)。

サーモンステーキ、興味があったので巣鴨の「タカセ」で食べてみました。
おいしかったけどもそもそしてて大きすぎて途中で飽きちゃった。
タカセのは、そのままサンプルとして飾れるほど見た目が完璧ですが、ローズのはもっとダイナミックで油っこくて、 でもジューシーでおいしいのかも。

余談ですが、タカセといえばセットで思い出されるのが尾崎豊さん。
先日テレビで息子さんが歌ってましたが、あまりにも似ててびっくりしました。
亡くなってからもう24年になるんですね・・・。

★東京都豊島区 巣鴨3-20-16

貧乏お嬢さま、メイドになる〜いちごタルト
私のコージー友達の中でも評判が良かったリース・ボウエンの貧乏お嬢さまシリーズ。
正確には「英国王妃の事件ファイル」というシリーズ名がついているのですが、たしかに英国王妃は出て来るけれど添え物程度。
メイドの肩書?も添え物程度でやはりインパクトがあるのは「貧乏お嬢さま」の部分でしょう。

舞台は20世紀初頭のスコットランド。
王位継承権は34番目、英国王族の1人ではあるものの、貴族の肩書ばかりで実際は貧乏なジョージー。
凍え死にそうな古城で兄夫婦と暮らしていたものの、このままでは意に添わぬ結婚を押し付けられる。
そこで城を飛び出し、ロンドンにやって来ます。

もちろん現実は甘くなく、ジョージーは架空のメイド会社を立ち上げ?メイドとして働くことになるのですが・・・。
大変そうに書いてますが、この本の中では現実は結構甘い。
頼りになる祖父や幼なじみや恋人候補は近くにいるし、仕事もなんだかんだでうまくいってます。
現実だったらあり得ない展開です。

なのでミステリでありながらどこかジョージーにコメディエンヌっぽい余裕があるし、小説としても気楽に読めるおもしろさがあります。
予想してたよりオーソドックスな小説といった印象でした。
そういえば「評判は良かった」けれど「評価が高かった」わけではなかったなあと納得。
5年間で8冊出てるってけっこう早いペースですよね。
人気あるんでしょう。
ちなみに本国では去年11作目が出たようです。

訳が古川奈々子さんで、ロマンス小説の翻訳が多い方のようです。
手慣れた感じで読みやすい。
一人称の場合特に、訳が合わないと読むのが苦痛になりますが、この作品は好印象でした。
3作目から訳者が変わるようですが、どうなるか気になるなあ。

ただ直前に「バッキンガム宮殿の殺人」を読んでしまっていたので、あのインパクトにはかなわなかったのが残念です。
良くも悪くもオーソドックス、そんな感想になりました。

ただおいしい物は、お城で女王とティータイムなんてするくらいですから豪華です。
いちごタルト、チェルシーパン、ソーセージロール、フィンガーサンドイッチ、エクレア、ベークトビーンズ、ボローバン、プチフール、 焼きりんごのカスタード添え、スパゲティ・ボロネーゼ、メルトンモーブレーパイ、シャルロットルース、ヴィクトリアスポンジなどなど。

ベークトビーンズは置いといて(笑)。
チェルシーパン、ヴィクトリアスポンジは知ってますが、実物は見たことないし。
ボローバンは小さな軽いパイケースにお料理を詰めたものだそう、見た目はタルト?
メルトンモーブレーパイはメルトンモーブレー地方が有名なポークパイ。
シャルロットルースはスポンジケーキにホイップクリームと砂糖漬けのサクランボを載せた菓子だそうですよ。

私はこちらもオーソドックスに、「いちごタルト」です。
デリ・フランスでまんま「苺のタルト」で売ってました(笑)。
パイは小さな秘密を運ぶ〜カスタードパイ
17歳の姉が、13歳の姉と一緒になって11歳の妹(主人公)に猿ぐつわをかませ、後ろ手に縛って真っ暗な クローゼットに閉じ込め、外から鍵をかける。
妹視点で語られる物語なので、いきなり犯罪かとびっくりするが、実はこれ、小生意気な妹に対する 姉たちのお仕置き。

なんてひどい、と思わず眉をひそめるけど、この妹がまた負けてない。
自力で脱出した後は、姉の口紅を盗み出し、いったん溶かして漆を混ぜてまた固め、元通りにして返しておくという とんでもないことをやってのける。

わけあって、子供ながら大人の化学者並みの化学技術と知識を持ち、さらにその技能を生かすだけの器具も部屋も 揃っている子供なのだ。
もう冒頭から夢中になった。

コージーミステリを読むようになって、あちこちで見かけたナンシー・ドルー物は私には合わなかったが、これは好き。
舞台が現代だったら大問題になりそうなこの家族も、1950年代にしたことで奇妙な緩さを感じながら読むことができる。

口紅の仕返しから容易に想像つくように、この主人公のフレーヴィアは頭はいいけど気が強くて生意気で負けず嫌いで 可愛げがない「妹」。
なんだかなあと思うでしょ?

ところがそれでいて寂しがり屋で、意外なところでもろさも見せて、頭はいいけどまだ子供なので、大人を出し抜いたつもりで しっかり見破られてたり、という可愛さもしっかり兼ね備えているからたまらない。
愛車(自転車)グラディスに乗って、大声で歌いながら田舎の綺麗な景色の中疾走するフレーヴィアの姿は微笑ましいけど やっているのは殺人事件の捜査。

コージーでありながら、子供の頃読んだ「赤毛のアン」や「あしながおじさん」に似た雰囲気も感じさせる拾い物だった。
著者がなんと、イギリスを舞台にした物語でありながらイギリスに行ったことがないというアラン・ブラッドリー、しかも この作品を書いたのが70歳の時というから 驚く。

でも女性が書く少女に時々見られる、愛らしさの押し付けがなく、おじいちゃんが孫を語るようなほのぼのとした雰囲気を漂わせているのはいい。
日本では5冊出ているが、イギリスで去年6冊目が出たようなので、是非日本でも出して欲しい。
Wikipediaによると、ドラマ化もあるようなのでこれは見たい。
さて、この本の中で重要な?キーアイテムのひとつとなるのがカスタードパイ。
家政婦のマレットさんが作ってくれるのだが、実はフレーヴィア初め家族はみんな、このパイが大嫌い。
でもマレットさんにも秘密があって・・・。

他愛ない秘密だが、フレーヴィアが珍しくぺしゃんこになる様がおかしくて、何度読んでも笑ってしまう。
古賀弥生さんの訳もフレーヴィアの口調にあってるし、リズミカルで読みやすく、ちょっと古めかしい表紙絵もいい。

ところがこのカスタードパイ、探してみたけど見つからない。
たまにあっても、マクドナルドのアップルパイみたいにカスタードクリームを詰めて揚げたパイばかり。
私の好きなマミーズにもなくて、ただアップルパイにカスタードクリームを詰めた物はいくつかあった。
でもなんかの時に巣鴨乗り換えがあって、アトレヴィ巣鴨の「デリフランス」で偶然見つけたのがアップルカスタードパイ。

りんごがのってるけどまあいいかと思って買ってみた(笑)。
りんごの酸っぱさとカスタードクリームの甘さのバランスがいい感じでおいしかったけど、これ、りんごを寄せてカスタードだけで食べると なんか大味というか物足りないんだな。
もしかしたら普通のカスタードパイがあまりないのは、このせいかもしれない。

シュークリームやクリームパン、揚げたカスタードパイに比べて、普通のパイ生地とカスタードだけだと味が弱いのかもしれない。
上にりんごやイチゴ、バナナをのっけたカスタードデニッシュなどもよく見るので、カスタード+フルーツが日本の定番なのかも。
猫は手がかりを読む〜エッグベネディクト
★作品の重大なネタバレ含みます。★

リリアン.J. ブラウン著「シャム猫ココ」 シリーズ1作目。
だいぶ前に揃えてはいたのだけれど、猫物といえばリタ・メイ・ブラウンの「トラ猫ミセス・マーフィ」シリーズが好き過ぎて、あとココの表紙が あまりに古い感じでなかなか手が出ませんでした。
それにしてもこの2人の猫シリーズの作者、名前が似ててややこしいですね(笑)。

読み始めても100ページくらいでいったん止まったんじゃないかな?
何年かたって、気を取り直してそこから読んだら加速がついて一気に読み切ったように記憶してます。

ただマウントクレメンズはおもしろいキャラだったので、残して欲しかったなあ。
実は意外と小物であっさり殺されましたって展開は正直もったいない。
ミステリアスな人物としてこのまま登場して欲しかった。
クィラランの下宿先としても理想的だったので残念です。

シャム猫は優美だなあ、綺麗だなあと思って見てますが、そんな叫び声上げるとこ見たことないのでちょっと怖かった(笑)。
私は和猫が好きかな?
でもやっとクィラランとココのコンビにも慣れたので、このシリーズ、読み進めたいと思ってます。

クィラランの下宿?の主人であるマウントクレメンズは料理上手で、気が向くとクィラランを料理でもてなしてくれます。
気になったのがエッグベネディクト。
この本最初に読んだのは6年前!なんですが、当時はエッグベネディクトってどんな料理なのか知りませんでした。
でもちょうどその頃流行り始めた?のか次の年にコンビニで見つけて買ったのがこの写真です。
2012年(平成24年)頃には私もおいしい物見つけると写真撮り始めてたみたいです。

Wikipediaによると、「イングリッシュ・マフィンの半分に、ハム、ベーコンまたはサーモン等や、ポーチドエッグ、オランデーズソース 乗せて作る料理」とあります。
今では珍しい料理ではなくなりましたが、当時は結構お洒落〜な感じでよく買ってました。
ベネディクトさんが考案したからエッグベネディクトと言うんだそうですよ。
勉強になりました(笑)。
バッキンガム宮殿の殺人〜トライフルケーキ
「うるさいわね。
女性雑誌なんか読んでないわよ」

ニッキーは、トライフルケーキをのせたスプーンを口に運ぼうとしているディヴィーを睨みつけた。
「わたしのいってる意味、わかってるでしょ?」
「いいや、きみは自分のいってることもわかってないよ」
ケーキをほおばったまま、ディヴィーはもごもごいった。
「どうせ、僕はゲイだよ。
下僕(フットマン)にはゲイが多い。上のほうの連中だって・・・・・・。
なにしろ、この蜂の巣には女王様は1人しかいないんだからね。
そうだろう。
ゲイだからって自殺の理由になんかなるもんか」
グルメ探偵、特別料理を盗む〜オムレツ
翌日は木曜日だった。

絞りたてのマルティーニーク島産グレープフルーツのジュース、ヴァージニア・ハムを添えたカレー風味のオムレツ、 ライ麦パンのトーストにキューバ産のコーヒーという軽い朝食をすませてから、早めに事務所に向かった。
事務所に早めに行くのは別にたいへんでもなんでもない。
事務所はハマースミス橋の近くで、シェパーズ・ブッシュのフラットからは歩いて5分しかかからないのだ。
ぼくは車がきらいなので、自分の車を持とうなんて考えたことはなかった。
現代でのロンドンでは無用の長物としか思えない。
歩いた方が速いくらいの渋滞はひどくなる一方だし、ガソリンも高ければ、駐車料金はもっとかかる。
海辺の幽霊ゲストハウス〜パンケーキ
その朝、充分に睡眠を取り、手づくりのパンケーキ(トニーは基本のレシピに忠実につくれば なかなかの腕前だ)を食べてから、もう一度ふたりにお礼を言い、9時頃わが忠実なるボルボの ステーションワゴンに飛び乗って、第2の我家―<ハウスセンター>だ―に行ってさらに出費をした。

それからコーヒーを買い、オーシャンサイド公園まで行った。
ベンチに腰を下ろしてコーヒーを飲んだ。
新聞を読んだ。
クロスワード・パズルを解いた。
ランチを買いに行った。
でも、家で責任を果たすのを避けていたわけじゃない。
家にはだいたい2時頃に着いたと思う。
消えた給仕長〜シードケーキ
このときドアが開いて、フィリモアがエレンと呼んでいた、先ほどの愛想がい金髪の女主人が、 お茶の道具と焼きたてのシードケーキをのせたトレイを持って入ってきた。

トレイを暖炉の前の低いテーブルに置くと、彼女は私たち3人にためらいがちにほほえみかけ、それからフィリモアの椅子の後ろを 通りながら彼の肩に軽く手をかけて出ていった。
ドアが閉まると、フィリモアは低い声で言った。
「先ほどおっしゃいましたね、ホームズさん、わたしの失踪の動機がまだはっきりわからないと。
あれがその理由ですーわたしのエレン、男が出会いたいと願う、誰より心やさしい最高の女性です。
去る10月に母を亡くしたのち、わたしは医者から休養をとって海の空気を吸うように言われ、この宿屋に滞在しました。
チョコ猫で町は大騒ぎ〜トリュフ
でも、おばさんのつくるおいしいチョコレートにたとえるなら、さしずめフランジェリコのトリュフ (営業用の資料だと「ヘーゼルナッツのセンターをミルクチョコレートでコーティングし、ヌガーをまぶしたもの」とある) だろう。

つまり、外側は固いけど中は柔らかくて、ほのかに木の実の香りがする。
わたしが、「金持ちの石頭」と呼ぶ男のもとを去りトロフィーワイフ、つまり功なり名遂げた男性が、成功の証として 手に入れた2番目、あるいは3番目の若く見栄えがいい妻として生きていくのをやめたとき、他の親戚は、どうかしていると 口を揃えて馬鹿にした。
だけどネッティおなさんは、公認会計士の試験を目指して勉強中のわたしに部屋と食事、それからおばさんのチョコレート ショップと製菓所の経営管理の仕事も提供してくれた。

もっとも帳簿をつけはじめて2,3日後には、これが純然たる行為からじゃなかったのがわかったけど。
実はおじさんが18か月前に亡くなっていて、そのためにかなり厳しい財政状況に追い込まれていたおばさんは(どうか 一時的なものでりますように)、安く雇えるマネージャーを探していたのだ。
殺しの四人〜鰹の刺身
「これで、たのむよ」
「そうかえ。それじゃあ・・・・・・」

彦次郎が、袱紗ごと金をふところへしまいこんだとき、女中が酒と、卵そうめんと、鰹の刺身をはこんで来た。
女中が去ってから、梅安は鰹の刺身を口へ入れ、あぶらの浮いたふと鼻を小指でなでつつ、
「ねえ、彦さん。
私も、もう長いことはないような気がするよ」と、いった。
「おれもさ、梅安さん」
「仕掛人で、長生きをしたやつがいただろうかね?」
「先ず、いめえね」
「そうだろうな・・・・・・ 」
コージー作家の秘密の原稿〜ハルバ
サラは鍋のなかでとろみがつきつつある黄色っぽい塊の温度を調節しながら、深いため息をついた。

彼女はすりゴマと蜂蜜とアーモンドを混ぜていた。
適切な硬さになったら、棒状に成形してお菓子のハルバを作るのだ。
これが三度目の挑戦だったが、いまだに建築資材の使えるほどの代物しかできていない。
だがサラは、マグダラのマリアはイエスを含む友人たち全員にこれをふるまったはずだと確信していた。
これと、プロバンス風チキンを供したに違いない。

このこじつけ以外の何ものでもない結論にサラが達したのは、マグダラのマリアがイエスの死後、フランスの南部で 布教活動をしたという言い伝えを読んだからだ。
修道院の第二の殺人〜スコッチスープ
食器戸棚の横に立っているミセス・ブルックは、スコッチスープと羊肉のローストを早く出したくて、 うずうずしていた。

たっぷりとした料理を見たとたん、ファロの食欲は跡形もなく消えてしまった。
「ミス・ファイムズに、いっしょに夕食をとるようすすめるべきだったな」
「食事をしてたら、グラスゴー行きの列車には乗れなかっただろうね。
それに、固形物を食べられるような状態ではないと思うな。
この旅でかなり弱ったにちがいないよ。
ほんとうのところ、あの人は自分で命を縮めてしまったんじゃないかと思う」

ヴィンスが若者ならではの食欲でライスプディングの2度目のお代わりを食べているあいだに、 ミセス・ブルックが身体に悪い夜気が入らぬよう鎧戸を閉めた。
ファロはヴィンスにモーリーン・ハイムズの訪問の目的を話して聞かせた。
おばちゃまは飛び入りスパイ〜紅茶
セニョール・デガメスが言ったとおり、卓上こんろの上では、ほんとうに紅茶が湯気を立てていた。

彼女をカーテンの後ろで待ち伏せて、頭を打ちのめそうとしていたわけではなかったのだ。
目の前に紅茶の湯気を見て、思わずミセス・ポリファックスはほっとした。
「ミルクとレモン、どちらがお好みですかな。砂糖はいかがですか」
「ミルクをお願いします。お砂糖は一つ」
ミセス・ポリファックスはそこにあった回転椅子に腰を掛け、あたりをきょろきょろ見た。
「でも、ほんとうにゆっくりできませんの。どうぞおかまいなく」
「もちろんそうでしょうとも」
嘆きのテディベア事件〜ホットチョコレート
寝返りを打ってベッドに仰向けになり、もうひと眠りしようかと考えていたとき、ホットチョコレートの甘い香りがして、 とたんに左の脛がうずきだした。

まるで手術で修復した骨をだれかが丸頭ハンマーで叩いて、クイーンの「ウイ・アー・ザ・チャンピオン」の ズン、ズン、ズンというあのイントロのリズムを刻んでいるみたいに。
痛みは心因性のものだとー手術から一年以上たったあとでー半ダースもの医者から言われた。
そうなのかもしれあいが、だからといって痛みが消えるわけじゃない。
アシュリーと結婚して26年になることと、彼女がわたし以上にわたしのことを知っているという事実を考えあわせると、 なんであれチョコレートの匂いを嗅いだだけで古傷が傷みだすことを彼女に隠し通しているのは、われながらすごいと思う。
妻は朝のホットチョコレートを愛していて、その楽しみを奪う役まわりになるつもりはなかった。

わたしの名前はブラッドリー・ライオン。
サンフランシスコ警察に25年勤務し、最後の14年は強盗殺人課の刑事をしていた。
来年の7月で48になるが、世の中で一番ストレスの多い職業のひとつに就き、結婚以来もっとも大変な1年をようやく終えたばかりの わりには、まあまあ年相応に見えるのではないだろうか。
ペニーフット・ホテル受難の日〜ガランティーヌ
その日の昼すぎ、セシリーは煉瓦のゆるめられた例の箇所を発見した。

宿泊客らは食堂に居心地よく収まり、刻み腎臓(キドニー)の辛み焼き、冷製キジのロースト、 ガランティーヌのメロン添えというご馳走に舌鼓を打っていた。

セシリーはすでに食事をすませており、正午を少し回ったころ、いつもの習慣どおりしばらく ひとりで物思いにふけろうと屋上庭園に上がった。
彼女とジェイムズは何度となく、このささやかな避難所で幸せな憩いの時を過ごしてきた。
ひっそりしたこの場所を訪れるたびに、彼女は夫を身近に感じる。

屋根のあいだを走る細長い通路は壁で仕切られ、その平らな長方形の区画は小さな 屋上庭園になっている。
長い両サイドと短い端の一方は、屋根の傾斜と境を接しているが、もう一方の端は屋根の 縁までのび、それゆえそこには手すり壁がある。
信濃大名記〜お抹茶
こちらに背を向け、茶を点じているそのひとの、つややかな垂れ髪を分けて見える耳朶は、春の陽ざしに濡れた桃の花弁のようだった。

子供の頃は「真田太平記」を読んでも、豪快で華やかな幸村ばかりに気持ちが入って、兄信之の存在は意識していなかったように思う。
信之の真価に気づいたのは、社会人になって「責任」を背負い始めた頃。
社会の枠からはみ出すことなく生きることに四苦八苦しながら再読した「真田太平記」は、むしろ自由に生きた幸村、責任を果たした信之と、これまでと違った構図が見えてきた。
幸村のように生きることができたらいい、でも幸村とて信之が真田の家をしっかり守ってくれる安心、信頼の気持ちがあるからこそ己の望む生き方ができた。

でも憧れる存在としてはやはい幸村の方が上で、たとえば戦国時代を題材にしたゲーム(笑)や歴史検証番組を見ても主役になるのは未だに幸村。
損な人だなあと思っていたが、その信之に惹かれ、彼をないがしろにすることなく真田の物語を綴り上げたのが池波正太郎だった。
「真田太平記」にも出てくるが、「信濃大名記」にはそんな朴念仁かと思われそうな信之の、秘めたるも熱い恋が描かれる。
相手は小野のお通。

実在の人物でお墓が真田家ゆかりの広徳寺にあること、娘が信之の二男に嫁いだことなどが知られているが、謎も多い。
物語ではお通も信之を愛しながら、ふたりは結ばれることなく終わる。
その信之に茶を点じるお通、お通はここで敵と味方に分かれていた幸村と信之を再会させる。
信之とお通の恋、幸村と信之の兄弟の想いが迫ってくる場面である。

でもこちらはお抹茶など点じるどころか、清月堂など甘味処で一杯いくらで飲むくらい。
わびさびなど縁のない生活をしているから、「信濃大名記」を読んでも、ただひたすらにため息をつくことしかできない。
このぎりぎりに切り詰められた人の心、空気、そして時間。
この場のお通ほど見事に歴史を切り取ってのけた女性はいるだろうか。
いえそう書いてのけた作家はいるだろうか。

さて、お抹茶といえば、ずっと前にとても素敵な体験をした。
五反田駅でホームの行先表示板を見てて、偶然目に留まった文字が「薬師寺東京別院」。
薬師寺といえば奈良の有名なお寺。
今でこそ漫画やゲームに(笑)お金を使うようになった私だが、独身時代はとにかく旅行しまくっていた。

日本で多かったのは奈良京都。
奈良といえば薬師寺だった、懐かしい。
でも東京に別院があるなんて知らなかった。
そこで行ってみたのだが、宮尾登美子著「伽羅の香」のモデルとなった山本霞月の旧宅を寄贈され、別院としているとのことで、とても雰囲気のある場所だった。

この時別院のご住職ではないと思うが、女性が別院についてとても丁寧に説明して下さって、感激してしまった。
しかもたぶん写経や香道のために訪れる人たちのために用意してあるお抹茶に小さな干菓子を添えて、私にまで出して下さったのだ。
恐縮しながらいただいたが、その時に聞いたのが「伽羅の香」の話。
その時の事は「藤枝梅安をたどる道」にも書いたが、別院の落ち着いた美しさと共にお抹茶も忘れられない記憶となった。

★東京都品川区東五反田5丁目15−17(薬師寺別院)
そのお鍋、押収します!〜チリコンカン
彼女はいつものように、ドラッグを買おうとしているかのような悪人顔で、わたしの車に近づいてきた。

わたしたちが何をしているのかも、その理由も、だれにも知られないようにひどく気をつけていた。
ごくまれに受け渡す場面を見られた時は、わたしが車で彼女の家からそれを届けに来たというふりをした。
今日は、教会の集会所でおこなわれるビンゴ大会用に、クロックポット(とろ火で煮込むための電気鍋、 スロークッカーの商品名)いっぱいのチリコンカンの注文を受けていた。
食べ物はみんなが持ち寄るのだが、ペットの(わたしの)チリコンカンはみんなの好物なのだ。

車の窓をおろすと、ペットは左右を確認してから身を寄せてきた。
グルメ警部キュッパー〜ザウアーブラーテン
ラーベンホルストは思わず目を白黒させた。

そして必死に気持ちを落ち着かせると、思いっきり甘えた声で言った。
「ママ、必要なのはママのアドバイスなんだけど」
「アドバイスだって?おお神様!
奇跡は起こるもんだね。何を知りたいんだい?」
「ザウアーブラーテン(豚バラ肉の赤ワイン煮込み)の作り方教えてくれる?」

電話の向こうで母親は途方に暮れたように黙り込んだが、しばらくすると 先ほどとはうって変わった口調で言った。
出張鑑定にご用心〜シュリンプカクテル
ミックスナッツのおかわりはどうかと彼に勧められたが、もっとお腹にたまるものが食べたかった。

ほろ苦くて、ぴりっとしたマティーニに口をつける。
こうしてグラスを握りしめ、飲み干すまでのひとときがたまらない。
「シュリンプ・カクテルをお願い、ジミー」
ジョージ・ベンソンの懐かしい曲が心地よく流れている。
客は他に3組いて、ピスカタクア川やポーツマス・ハーバーをおぞむ張り出し窓の近くの席に座っている。
何を話しているのかは、わからない。
バーカウンターに並んだキャンドルの炎がマティーニのグラスに反射して、色鮮やかにきらめいている。
落札された死〜ロブスター・ニューバーグ
結局、ロブスター・ニューバーグ(ロブスターをクリームソースで和えた料理)の下ごしらえをすることにした。

家から一番近いスーパーマーケットに行き、レシピを思い出して、材料を買う。
買い忘れがありませんように。

レジ待ちの列に並びながら、雑誌の棚に目をやった。
そういえば、つい最近も、食材を買うのにこして列に並んでいた。
あのときはタイが隣にいて、わたしに顔を寄せ、頬にキスをしてきた。
「ぼくのために料理を作ってくれてありがとう」とささやいて。
タイが心を揺さぶるような、熱いキスをしてくれた頬にそっと触れた。

ふと、売り場に並んだ新聞に目が留まった。
ウエスが書いた卑劣な見出しが、シーコースト・スター紙の日曜最新版の一面に大きく載っていた。
死人主催晩餐会〜ロシア風パンケーキ
サワークリームと最高級キャビアを載せた黒いロシア風パンケーキ、アトランティックサーモンのグリルを 載せた黒いリングィーニのレモンクリーム・ソースあえ、甘味をおさえたブラックチョコレートに浸した 砂糖漬けのオレンジスライスといったものは、大勢の目にとまるように巧みに配置された数ある料理の中の数品である。

食事をする場所の中央に、プールという大きな水ものを持ってくることで成し得た効果を 目にしたホリーが歓声を上げた。
水面からは、ドライアイスで格好の不気味な煙があがってくるようにしてあった。
機械じかけのサメが何匹か、水面下で円を描き、ゴムボートの上にはリアルな人骨が、 星の光を受けて蛍光のオレンジ色を発するビキニを着て乗っていた。

ホリーとわたしはテーブルへ歩いていって、何枚かある黒い縁のついた座席表― 「故スティーヴ・アレン様」とか「故ブルック・シールズ様」などを見てほくそ笑んだ。
それとほとんど同時に、叫び声が聞こえた。
ゲストハウスからだったが、そこはパーティのあいだは占い師の小屋へと改装されている。
さきほど見かけた、ドラキュラ伯爵がよろめきながらドアからでてくるところだった。
殺人現場で朝食を〜ジョニーケーキ
レースのカーテン越しに和らげられた陽射しがテーブルの上で揺らめく、その美しさ。

来月のローマ旅行のことをさりげなく語るザヴィアの、低く、なおかつ熱意に満ちた声の美しさ。
焼きたての「ジョニーケーキ」が持つ、あたたかいトウモロコシパンの、あっさりとしていながらも、しっとりして甘い、その美味しさ。
わたしはザヴィアに微笑みかけ、そして彼に目を見られる前にさっと顔をそらした。

「このレシピの発祥地は、ボルチモアなんだ」ザヴィアは言った。
「ジョニーケーキの歴史のことも載せたほうがいいかな。
きみはどう思う?」
感謝祭は邪魔だらけ〜パンプキンスープ
七面鳥を休ませながら、自家製パンプキンスープを深皿によそい、真ん中に色あざやかなレッドペッパースープをたっぷりと落とす。

赤い円にナイフで切りこみを入れ、カラフルなハートマークを作った。
目に楽しいしあがりだ。
スープをダイニングルームに運ぶのはバーニーとウルフが手伝ってくれた。
椅子に腰をおろすと、ようやく全員がそろい、すべての用意が調ったことに感謝した。
「なんてすてきなの」という合唱のなかで、ナターシャが「私のメニューじゃないのね」とぶつぶつ言うのが聞こえた。
ハンフリーはテーブルの真ん中あたりに腰をおろした。
わたしをあまりにじっと見つめているので、スープが出されたことに気づいていないんではと 心配になった。
ジューンブライドはてんてこまい〜ヘーゼルナッツ・トルテ
「チョコレート・ヘーゼルナッツ・トルテを食べない?

今夜のデザートパーティのために作ったんだけど、ひと切れくらいつまみ食いしたって誰も気にしないわ。
何しろ、緊急事態なわけだし」
「チョコレート?姉さん、いかれちゃったの?
わたしは2日後にウェディングドレスに体を押しこまなきゃならないのよ」
わたしは妹の顔をまじまじと見た。
ハンナが苦々しげに笑いだした。
「ずっと今度の結婚式のことを中心に生活してきたから、すぐそっちに考えがいっちゃうのよね」背筋を伸ばした。
「でも、緊急事態っていうのは確かだわ。
ケーキちょうだい」
サイン会の死〜モカチョコレートケーキ
「ラム酒漬けのホワイトガナッシュをフィリングにしたモカチョコレートケーキなのよ」

「すてき」トリシアは言った。
腹が鳴った。
ケーキは大好物とはいえないが、夕食を食べていないので、激しい空腹をしのぐためなら、なんだって大歓迎だ。

すでにブッククラブのメンバーとサイン会に来たその他のひとたちが軽食用テーブルの前に一列に並び、期待に目を輝かせている。
「じゃまにならないところにいさせてね」とトリシアがニッキに言ったとき、入口の上の小さなベルがちりんちりんと鳴り、 「スト―ナム・ウィークリー・ニュース」の編集者のラス・スミスが入ってきた。
首にニコンのデジタルカメラをぶら下げ、いつでも写真が撮れるようにしっかり握りしめている。
本を隠すなら本の中に〜ミートローフ
トリシアの皿に巨大なミートローフをひときれ置き、ガーリック・マッシュポテトの山盛りを どさっと落として、エンドウ豆を散らした。

いつものことながら、トリシアが食べたいと思う量の三倍の食べ物だ。
抗議はしなかった。
食べ物はつねにアンジェリカ流の失望にうまく対処する方法なのだ。

「わたしから別れたんじゃないわ。
ラスが別れることにしたの」皿を見おろした。
「ミートローフ?あなたミートローフなんて一度も作ったことなかったのに」
「そりゃあ、作るわよ。
ボブの大好物だもん」
午前二時のグレーズドーナツ〜パンプキンドーナツ
この2,3週間、パンプキンドーナツの新しいレシピにとりくんでいて、ようやく、カボチャ、 シナモン、ナツメグ、クローブの完璧な配合が完成したと思えるとことまできた。

でも、それをたしかめる方法はひとつしかない。
ドーナツ生地から作った輪っかを熱い油に何個か投入し、ステロイド剤を好んで服用中の 箸みたいにがっしりした木製のトングで裏返し、こんがり揚がったところで、熱い油からひきあげた。
ラックにのせて、けさ作ったばかりのシュガーグレーズをドーナツに垂らし、ひと口かじってみた。
ほどよくスパイスの利いた熱々のドーナツのおいしさが口のなかに広がった。
知らないうちにサンプルを2個平らげてしまい、このレシピこそわたしが探し求めていたものだと納得した。
ミルクを出そうと思ってステンレスの冷蔵庫をあけたとき自分の姿がつらっと目に入り、 このところ自家製ドーナツの試食をやりすぎていたことを悟った。
我慢することを覚えるか、ジム通いを再開するか、どちらかを選ぶしかなさそうだ。

パンプキンドーナツの残りの分を作りおえ、プレーンケーキドーナツ作りにとりかかりながら、 ワークアウトの再開と、日々のドーナツ消費量削減の両方が必要だと思った。
動かぬ証拠はレモンクリーム〜アップルフリッター
イーストドーナツやアップルフリッターでは物足りない。

人々の記憶に残るものを精魂こめて作ることにしよう。
「ジェイク、ほんとにぺニエの作り方を習いたい?」
わたしの恋人―3月からつきあっている州警察の警部で、名前はジェイク・ビショップ―は 「ドーナツ・ハート」の厨房に立ったまま、わたしに向かって微笑した。
エプロンをつけたその姿はキュートだけど、彼には言わないことにした。
ジェイクは背が高くて、ほっそりしていて、髪は砂色がかった豊かなブロンド。
わたしは彼のそばにいるだけで笑顔になれる。
「いやきみと2人でのんびりするほうがいいな」
ジェイクは正直に答えた。
雪のドーナツと時計台の謎〜ピーナツバタークッキー
「あら、貸してほしいの?」

皿にクッキーを並べ、グレースの前に置きながら、わたしは言った。
母の大好きピーナツバター・クッキーで、真ん中に「ハーシー」のキスチョコがのっている。
オーブンから出す直前にチョコをのせて作る。
「まさか。でも、あとで食料が必要になったときのために、買出しに行けるかどうか確認しておきたかったの。
なしではすませられない必需品がいくつかあるし」
わたしはクリスマスツリーのライトをつけてから言った。
「買物リストに何が入るのか、教えてもらうのが待ちきれないわ」
エクレアと死を呼ぶ噂話〜エクレア
わたしはエクレアの残骸に目を向けて、なかのカスタードと、皮にかかった 艶やかなチョコレートをじっくり見た。

「わたしの意見をお求めなら、イエスと答えるでしょうけど、そうでない可能性もあるわ」
「ほかに作れるやつがいるか?」
署長はふだんからわたしに不愛想だが、今日はとくに、礼儀のかけらもない。
「誰かが自宅のキッチンで作ったのかもしれない。
ロケット工学みたいに難しいものじゃないから。
専門家の意見がほしくてわたしを呼んだの?
それとも、わたしがゆうべレスターと口論したことが署長さんの耳に入ったの?
まさか、わたしがやったなんて思ってないでしょうね」
誘拐されたドーナツレシピ〜チーズバーガー
「当ててみましょうか。チーズバーガー、ポテト、コーク?」トリッシュが訊いた。

「それを3人前。
あなたがつきあってくれるのなら」グレースが言った。
トリッシュはうなづいた。
「もちろんよ。うれしいわ。
調理場のグラディスにオーダーを伝えてから、すぐ戻ってくるわ」
3人分のコークを持って戻ってきたトリッシュに、わたしは訊いた。
「ヒルダはどうしたの?
まさか、アリスンを雇うために、クビにしたわけじゃないでしょうね?」
「何バカなこと言ってるの?」という顔で、トリッシュが私を見た。
容疑者たちの事情〜グレープフルーツジュース
ローズはグレープフルーツを一個搾った生ジュースを飲みながらコーヒーを淹れ、 トーストを一枚持って、庭の錬鉄製のベンチまで行った。

物置小屋の石壁の穴を巣にしているイエスズメたちに、トーストのかけらをなげてやる。
午後9時半になるころ、ローズは、狭い道や曲がりくねった通りをらくらくと走れるミニの 後部座席に仕事の道具一式を積み込み、エンジンをかけて丘のふもとをめざして出発した。
ニューリン橋を渡る途中、バス停でスピードを落とし、隣人に乗っていかないかと誘ってみた。
が、隣人がくびを横に振り、「ありがとう、でも、お気遣いなく」と唇を動かして断るのを素直に受け入れた。
ペンザンスは観光客でにぎわっていた。
例年になくにぎやかで、これはローズを含め、地元の商売人にとってはありがたいことだった。
もっとも、シーズンが終わって観光客がいなくなり、すべてが通常にもどると、ほっと息がつけるのも 確かだが。
中央分離帯のついた道路に入ると、ローズはペダルの反応が鈍いのを意識しながら、アクセルを踏み込んだ。
真夏の夜の悪い夢〜レモン・キャンディ
量り売りのレモン・キャンディ(夏には白い紙袋のなかで溶けてくっついてしまうのけれど、 なかにシュワシュワいう炭酸が入っていて、甘酸っぱくておいしいのだ)、半ペニーの リコリスチュウ(グミみたいで、噛んでいるうちに歯が真っ黒になる)、バタースコッチキャンディ (お菓子屋さんが大きな塊から6ペンス分の2オンスをハンマーで割ってくれる)。

なつかしい日々。
もっとも、母親にとっては大仕事だった。
いまのドリーンには小さな車がある。 掃除の仕事に行くときはもちろん、スーパーマーケットでの買い物にも乗っていく。
食料品はたくさん買って冷凍庫で保存する。
羊の首肉がやわらかくなるまで野菜といっしょに何時間もコトコト煮込んだのも、自分でパンを焼いたのも、 もうずいぶんむかしのことだ。
シリルがクビになってからはドリーンが働かざるをえなくなり、以前のように料理に手間をかける 時間も気力も失せてしまった。
おいしい本
・アフタヌーンティールーム

・万世のソフトとベトナムフォー

・ピザ風ケサディーヤと黒インゲン豆バーガー

・ハライコとディップパレスのインドカレー

・アフタヌーンティールーム

・ギャレットポップコーンと坂本屋

・『休日には向かないクラブ・ケーキ』からシーフードのケサディーヤと
『焼きたてマフィンは甘くない』からパンプキン・クリームチーズ・マフィン

・手作り梅酒とグリーンカレー

・アフタヌーンティールーム

・坂本屋のカステラとまりこの紅茶

・お刺身定食とつけ麺セット

・海軍カレーとサンドイッチランチ

・カップケーキと西新橋長谷川ごはん

・アフタヌーンティールーム

・坂本屋のカステラと地蔵定食

・アメリカ郷土菓子から感謝祭のパンプキンパイ
『ほかほかパンプキンとあぶない読書会』からペトラのパンプキン・パンケーキ

・キムチチャーハンとエビのクリームパスタ

・サラダうどんときのこ鍋定食

・『雪のドーナツと時計台の謎』から単純にいちばんお気に入りのアップルパイと
『女王バチの不機嫌な朝食』からミリー特製のポテトサラダ

・坂本屋のカステラと銀座のお食事

・『海賊の秘宝と波に消えた恋人』からひと晩漬けこむナタリーのキャラメルフレンチトーストと
『ブルーベリー・チーズは大誤算』からブロッコリと松の実とゴーダ・チーズのキッシュ

・煮物と日本橋主水のがいな丼

・本の町の殺人シリーズ『アンジェリカのレシピ』からジャガイモとリーキのスープと
『アール・グレイと消えた首飾り』からチキン・パーロウ

・アフタヌーンティールーム

・ベトナムカレーと妖怪メニュー

・『アール・グレイと消えた首飾り』から辛くて酸っぱいグリーン・ティー・スープと
『グリーン・ティーは裏切らない』からセオドシア風ティー・スコーン

・冷やし中華と焼き魚定食

・『ダージリンは死を招く』からセオドシア風マーブル卵夏のおしゃれオードヴルと
『アップルターンオーバーは忘れない』からソーセージとチーズのパンケーキ

・アフタヌーンティールーム

・妖怪ラーメンとバルサのノギ飯もどき

・『プーアール茶で謎解きを』からアンティ・リーのとっておきのアチャーと
『きのこくーちか』の干しシイタケの炊き込みご飯

・横手焼そばとポケモンマック

・海鮮丼と高野のランチ

・『アップルターンオーバーは忘れない』からマージーのアップルターンオーバーと
『プラム・プディングが慌てている』からポークアンドビーンズ・ブレッド

・トライフルとチョコレートファッジ

・『危ないダイエット合宿』から甘辛テリヤキ・マリネと
『キャロットケーキがだましている』から ワンマンシタ・キャセロール

・駄菓子と銀座ご飯

・『プラムプディングが慌てている』からディキシー・リーのジャーマン・アップルケーキと
『厨房のちいさな名探偵』からアップルタルト

・木曽路と三国屋

・海鮮丼とおやき重

・『厨房のちいさな名探偵』からガーリック・マッシュポテトと
『厨房のちいさな名探偵』から焼きグレープフルーツ

・ディップパレスのインドカレーと2004年のクリスマス

・シーフードパスタと新宿つな八

・グラタンと海鮮丼

・オムライスと駄菓子

・コペンハーゲン クッキーと深川丼

・『アップルターンオーバーは忘れない』からローズのズッキーニ・クッキーと
『保安官にとびきりの朝食を』白インゲン豆の朝食用ハッシュ

・るーみっくヌードルと幽霊チョコ

・『隠し味は罪とスパイス』からチェダーセージ・スコーンと
『厨房のちいさな名探偵』から香味のきいた細切り野菜

・鎌倉カスターと黒い森のトルテ

・コストコサンドとコストコヤクルト

・『厨房のちいさな名探偵』からシナモン・ブレッドのピーナツバターとバナナのサンドイッチと
『あったかスープと雪の森の罠』からイングリッシュマフィンのベーコンエッグ・サンド

・カンノーロとベトナムコーヒー

・『風のベーコンサンド』から特製ベーコンサンドとランチメニューセットと
『保安官にとびきりの朝食を』からチョコチップとキヌアの朝食用クッキー

・オニオングラタンスープとタカセのランチ

・タカセのハンバーグとパン食べ放題

・タカセのプリンと天龍の餃子

・天龍の高菜そばとディップパレスのシーフードカレー

・サイアムセラドンのサラダランチと妻家房の石焼ビビンバ

・ベトナムコーヒーとオートミールクッキー

・梅園ごはんとパエリア

・古奈屋のカレーうどんとコメダのシロノワール

・『女王バチの不機嫌な朝食』からルッコラとトマトのサラダと
『保安官にとびきりの朝食を』からベーコン・コーンブレッド

・明治座ごはんと高菜そば

・ハンバーガーと虎屋の珈琲羊羹

・コージーコーナーのクリスマスケーキとコメダのランチ

・林檎のケーキとタカセのスイートブレッド

・『アール・グレイと消えた首飾り』からヘイリー特製レモンカードと
『保安官にとびきりの朝食を』からピーマンの詰め物のスープ

・うさぎ饅頭とロータスパレス

・ハンバーグセットとギャレットのポップコーン

・高菜そばと蕎麦寿しセット

・『ブルーベリー・チーズは大誤算』からきのこのリコッタ詰めと
『チーズフォンデュと死の財宝』からバルミジャーノのミートボール

・天ぷらそばセットと六本木チーズケーキ

・古奈家のカレーうどんと三国屋の稲庭うどん

・千石のハンバーグと韓国風海苔巻き

・『キャロットケーキがだましている』からサーモンケーキとエドナの簡単セロリソースと
『シュークリームは覗いている』からノーマンの卵サラダ

・あんみつと一久庵のカレー蕎麦セット

・『キャロットケーキがだましている』からブラックフォレスト・ブラウニーと
『消えたカマンベールの秘密』からサンシモン(じゃないけど)のフリッタータ

・カニピラフと石焼ビビンバ

・『キャロットケーキがだましている』からアニバーサリー・ホットディッシュと
『キャロットケーキがだましている』からハンナのスペシャル・キャロットケーキ

・タカセのパフェとボロネーゼ

・『シナモンロールは追跡する』からきゅっとすっぱいレモンケーキとトッピングと
『シュークリームは覗いている』からハンナの極上シュークリーム・エミーのバニラカスタード

・イチゴのタルトとロコモコ風ご飯

・明太子のパスタと煮物

・ベーコンとほうれん草のパスタとやまやのがめ煮

・ジャコのパスタとミルフィーユ

・かつ丼とポロネーゼ

・『謎解きはスープが冷めるまえに』じゃがいもとヤムイモのスープと
フレンチトーストサンドイッチ

・柴又の草だんごとマラサダ

・冷やし中華とフレイバーのフルーツケーキ

・『クリスマスのシェフは命がけ』からベーコンとコーンブレッドのマフィンと
レッドベルベットケーキが怯えているからチキン・テトラツィーニ・ホットデッシュ

・ステラおばさんのクッキーとカレーランチ

・ステラおばさんのクッキーとエーベルバッハのハンバーグ

・ブリカイザーとうどんのランチセット

・ステラおばさんのクッキーと冷麺

・タカノのワッフルとカプチーノ

・ブラックフォレストケーキとアールグレイ

・ディップパレスのシーフードカレーと不二泉製菓

・るーみっくのカップ麺と不二泉

・幽霊チョコレートと不二泉

・鎌倉カスターと不二泉

・コストコとたけのピザ

・コストコのヤクルトと万世お肉

・カンノーロと万世のすき焼き

・オニオングラタンスープとゴルゴのキャラメルコーン

・『幽霊はお見通し』からシードケーキと
『シナモンロールは追跡する』からスペシャル・シナモンロール

・タカセのポークソテーと2014年クリスマス

・タカセのハンバーグと2004年クリスマス

・タカセのパン食べ放題とタンダの山菜鍋

・タカセのプリンと天龍の餃子

・妻家房のビビンバとベトナムコーヒー

・ベトナムコーヒーとあんみつ

・『シナモンロールは追跡する』からキャロット・スローと
『ジャスミン・ティーは幽霊と』からジョリーの好物チキン・ボグ

・さぼてんと清月堂

・アップルターンオーバーと焼き魚定食

・アップルターンオーバーとガストのモーニング

・照り焼き定食とベトナム・フォー

・サンドイッチとフレンチトースト

・キッシュプレートとグレーズドドーナツ

・グラタンプレートとエッグベネディクト

・オクトーバーフェストのビールと真壁屋の稲庭うどん

・『幸せケーキは事件の火種』から昔ながらのソーダブレッドと額に入った卵と
『南国ビュッフェの危ない招待』からアンティ・リーのお手軽キャンドルナッツのチキン・カレー

・生ビールとラーメン

・オートミールと天丼

・卵料理のカフェ6『幸せケーキは事件の火種』からサワークリーム入りコーヒーケーキと
『幸せケーキは事件の火種』からパプリカチキン

・ローストビーフサンドイッチとハロウィンのお菓子

・きりたんぽとセイボリーメンチカツ

・蕎麦ランチと海鮮丼

・つけ麺とパンダロール

・ギモーブと万カツサンド

・オムライスとカボチャプリン

・けんちんうどんと古奈屋のカレーうどん

・ラーメンとピザトースト

・ローストビーフサンドイッチとオレンジのタルト

・きのこカレーとパブロワ

・クラブハウスサンドイッチと海鮮丼

・サーティーワンアイスクリームとかつ丼

・きのこのチゲとトムとジェリーのチーズクッキー

・天ぷら定食と青葉の牛タンランチ

・オムライスとクリスマスのお菓子

・『謎解きはスープが冷めるまえに』から野生のキノコのスープと
『そのお鍋、押収します』からフィエスタ・ベイク

・『謎解きはスープが冷めるまえに』からトマトとほうれん草のスープと山羊のチーズと パンチェッタのサンドウィッチと
『そのお鍋、押収します』からペットのチリコンカン

・タカノのケーキと石鍋商店の久寿餅

・ミンスパイと桃のシチュー

・ジャムドロップビスケット(サンタの親指クッキー?)

・ミス・マープルティールームのパフェとプラリネ

・『そのお鍋、押収します』からライラのブレックファスト・フリッタータ
『そのお鍋、押収します』からライラのフレンチトースト・キャセロール

・チョコレートケーキとフィッシャーマンズサラダ

・レモンメレンゲパイとフラワーレスケーキ

・デーツのプディングとジョイのカップケーキ

・レモンメレンゲパイとえんとつのカップケーキ

・メルボルンのケーキ屋さんとジョイのカップケーキ

・ティムタムと手作りハンバーグ

・えんとつのカップケーキとさぼてん

・パスティと手作りパスタ

・きりたんぽとバナナブレッド

・ウォーカーのショートブレッドとトリュフ

・オニオングラタンスープとレモンカード

・半平のもつ煮込み定食とえんとつのカップケーキ

・レモンカードとえんとつのカップケーキ

・えんとつのカップケーキと豆狸のいなり寿司

・玉子焼きとチョコレートチャンク

お寿司ランチとスタバのチーズケーキ

つけ麺とサーティーワンアイスクリーム

フォカッチャとエッグタルト

ニューヨークチーズケーキとみかんの緑茶

シーザーサラダと青葉の牛タンランチ

小公女セーラのぶどうパンと和定食

手作りカレーと和定食

ジンジャースナップクッキーとコロンバンのサンドイッチ

グリーンカレーとアメリカ土産のチョコレート

酢豚定食と清月堂のおとし文

黒ビールと昔ながらのナポリタン

ミス・マープルのジャムと手作りグラタン

盛岡冷麺とホワイトカレー

長命寺の桜餅ときのこ釜めし

TAIGAのコーラ

ホットドックとつけ麺

カップケーキのカプチーノと石焼ビビンバ

まぐろ丼とフォカッチャ?

カップケーキとカプチーノ

クア・アイナのハワイアンパンケーキ

さぼてんのトンカツと海鮮重

ホットドックとコーヒーあんぱん

きのこ雑炊とオレンジシャーベット

ハロウィンのお菓子と天ぷらそば

カップケーキとシーフードナポリタン

クア・アイナと天龍の餃子

ハロウィンとシーザーサラダ

クア・アイナとアペタイザー

ハロウィンのお菓子とパエリア

きのこ雑炊と竹むらの桜湯

ハロウィンのお菓子と揚げ饅頭

竹むらのお汁粉とおばんざい

かぼちゃのマフィンと加島屋の鮭茶漬け

ダブルカレーとおばんざい

おばんざいとクラブハウスサンドイッチ

蜜柑の紅茶とサブウェイのサブマリンサンド

深川めしと木曽路の前菜

木曽路お刺身とモーニングパンケーキ

チーズタルトとトマトソースのパスタ

アフタヌーンティールームと寿司御膳

シナモンロールときのこのオムライス

なすのパスタとキャロットケーキ