第3話 封印 

その瞬間ー
霊力に満ちた1本の矢が、炎と煙の狭間を切り裂いた。

まるでスローモーションのように 矢が犬夜叉に突き刺さり、
同時に桔梗がゆっくり崩れ落ちる。

一瞬の安堵が悲鳴に変わった。
「お姉さま−っ」
駆け寄った楓が、桔梗を染める真っ赤な血にあわてて跪いた。
「お姉さま、早く手当てを・・・」
寄り添う楓を桔梗は弱々しく制した。

「私はもう助からない。
だからよいか、楓・・・
これを・・・
私の亡骸とともに燃やせ。

二度と再び−
悪しき者どもの手に渡らぬように。」

いつの間に取り戻したのか、その手には血まみれの四魂の玉がしっかりと握られて いる。
楓はおずおずと手を差し出し、かすかにぬくもりが残る小さな玉を握りしめた。
うっすらと微笑んだ桔梗が息絶えたのはそれから間もなくだった。

「四魂の玉・・・、
こんな物のために・・・」

倒れる直前桔梗が呟いた言葉を、楓は心に繰り返した。
こんな物のためにあの半妖が来た、
こんな物のためにお姉さまは死んでしまった、
こんな物のために・・・。

涙が止まらない、声が出ない。
辛すぎて声を上げて泣くことさえできない・・・。


楓の姿を見るに忍びず、目をそらしていた男たちの一人が不意に叫んだ。
「おい、生きてるぞ。」
弾かれたように楓は顔を上げた。

胸を射抜かれ、木に縫い止められた犬夜叉を見すえる。
犬夜叉は死んではいなかった。
その顔は穏やかで眠っているかのよう。
生きたまま、犬夜叉は時を止めた・・・。
「封印されたんだ・・・。」

「お姉さま。」
楓は再び姉の遺骸に取りすがった。
「この半妖を憎んではいなかったのですか、
殺してやりたいとは思わなかったのですか、
お姉さまを殺そうとしたあいつを・・・。
一体2人の間に何があったんですか。」
楓の嘆きにまわりの大人も言葉もなく立ち尽くすだけだった。


あれほど燃え盛っていた火も消えかけ、薄く夕闇が立ちこめる頃、
うつむいていた楓が静かに立ち上がった。

「お姉さまのお弔いをしましょう。
お姉さまの遺体は四魂の玉と一緒にここで火葬にします。
あたし達はもうここに、犬夜叉のそばに住むわけにはいかないから、
この周りに木を植えて、ここを禁域の森としましょう。」

楓は手を伸ばし、田んぼの向こうの高台を指した。
「あそこに祠を建てて桔梗お姉さまをお祀ります。
あのふもとに新しく村を作りましょう。」

さっきまで子供らしく泣きじゃくっていた楓のあまりの変貌に、村人たちは一瞬気を 呑まれた。
いや、楓自身が一番驚いていた。
まるで桔梗が乗り移ったかのように、意思に反して言葉がすらすら出た。
「そうだ、これからはあたしがこの村を守っていかなきゃならないんだ。
お姉さまに代わって・・・。」
幼い楓の悲壮な決意だった。


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